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無敵な魔女の方程式(イクエーション)  作者: 日々一陽
第一章 魔法の方程式と3人の魔女
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1章 第8話

 次の日、弦内と嶺華は街中へショッピングに出かけた。

 何も持たずに逃げてきたものだから、洗面道具も普段着も何も持ってなかったのだ。


「本当にいいおばあさんだよね」

「そうね、何から何までお世話になってるわね」


 今朝起きると老婆は朝食を用意してくれていた。そして彼女はふたりに自分の家に滞在することをしきりに勧めてくれた。行く当てがないことを見抜いたのだろう。遠慮はいらない、その方が自分も嬉しいと言って。勿論それは弦内と嶺華にとっても大変ありがたい話だ。ふたりは老婆に買い物が終わったらまた戻ってくると約束してきたのだった。


「研究所の制服で歩き回るのは目立つし、先ずは服を買おう」

「ええ、そうね」


 ふたりはお値頃価格で何でも揃うファッションショップを見つけた。

 下着、普段着、フォーマルからバッグや小物まで何でも揃っている。


「あの、桐間さん。これ似合うと思うかしら」

 嶺華が一揃えのシャツとスカートを弦内に見せる。

「うん、似合うと思うよ。青山さんなら何着ても似合うよ。スタイルいいし」

「そんな言い方ずるいわ。桐間くんの好みを聞いてるのに」


 ……デレた。

 無表情のまま少し顔を赤くして嶺華がデレた。


「僕の好みで言うと、スク水」

 ばしっ!


 でもハリセンで殴られた。

 どこに持っていたのか、ハリセン。これも魔法か?


「もういいわ、これにするから!」

 そう言いながらも楽しそうな嶺華。


「次は桐間くんの服を一緒に選びましょう」

「うん」


 その後1時間ほどふたりは仲睦まじく買い物を続けた。


 一通りの買い物を済ませたふたりは昼食を取るためハンバーガー屋に入った。

 ハンバーガーをテーブルに、向かい合わせに座る弦内と嶺華。

 チーズバーガーにかぶりつく弦内を見ながら、嶺華が呟く。


「桐間くん、わたしね、夢だったの」

「……ゆめ? 何が?」

「こうやって男の人と街を歩いたり買い物したりすること。一生出来ないって思ってた」

「えっ、そんなの別に難しくないんじゃないの」

「ううん、そんなことないわ。桐間くん、ありがとう」


 またしてもデレる嶺華に奥手の弦内は顔を赤くして食べていたチーズバーガーを喉に詰まらせる。

「んんん……んぱあ……」

 何とか飲み込む。


「僕の方こそ…… 青山さんみたいに優しい人と一緒に買い物できるなんて凄く光栄だよ」

「桐間くん……」

 無表情な嶺華の顔がほころぶと同時に桜色に染まる。


 どこからどう見ても初々しい高校生デートなふたり。


 弦内にとって嶺華の存在は、美人で優しくスタイルも弦内の理想ぴったりと言う、まさに高嶺の花だったのだから、胸の高鳴りは大気圏外に飛び出さんばかりだ。弦内は勇気を振り絞る。


「青山さん、あのね……」


 ピロロロロ……


 突然携帯の着信音が鳴り響く。

「あっ、桐間くん、ごめんなさい……」

 そう言うと嶺華が自分の携帯を取り出した、どうやらメールが入ったらしい。

「誰から? もしかしてサントス教授?」

「そうみたい……」


 そう言いながらメールを読む嶺華の表情が微妙に変化していく。最初は嬉しそうな表情を浮かべていたが、すぐに驚きで口が半開きになった。


「あ…… これ……」


 嶺華は自分の携帯を弦内に差し出す。

 弦内もその文面を見て開いた口が開きっぱなしの人形状態なった。


          ***


 嶺華サン 桐間クン

 敵の監視厳しいデス。

 あなたたち、帰って来れないデス。

 だから、学校の手配しました。

 月曜に茂香高校にイキなさい。

 ふたりともおとなしく転校生しなさいデス。

 お金は校長に話してあるです大丈夫。

 住む家は勝手に探すデス。

 そうそう、桐間は狙われてるので名前変えます。

 今度の学校では、桐間の名前は 青山弦内デス。

 弦内と嶺華と兄と妹デス。

 それで手続きしたデス。

 これでいつもふたり一緒デス。

 嶺華サンは桐間クンをいつも守るデス。

 アパートもひとつ借りれば済むデス。

 では、仲良くするあるよ。


 サントス

 

          ***


「桐間くん……」

「青山さん……」


 暫し続いた沈黙を破ったのは弦内だった。


「茂香高校ってこの辺だよね……」

「そうね……」


 またもや暫し沈黙。

 俯いていたふたりがほぼ同時に顔を上げる。


「青山さん、住むところは、あのおばあさんにお願いしない?」

「わたしもそれがいいと思うわ……」

「じゃあ帰ってお願いしようか…… あおやま、さん……」

「これからは兄妹なのに、青山さんじゃおかしいわね」

「じゃあ、いもうと?」

「自分の妹を『いもうと』と呼ぶお兄さんなんていないわ」

「じゃあ、れ、い、かさん……」

「さん付けもおかしいわ……」

「……れ、れ、れい…… そうだ、『レイレイちゃん』ってどう?」

「……まったく、ヘタレね」

「ヘタレって言ってもさあ……。じゃあ青山さんは僕をなんて呼ぶの?」

「そんなの決まってるじゃない!」

「決まってる?」

「そうよ…… お、おにい……」


 嶺華の顔がゆでだこ状態となる。


「……お兄ちゃん!」


 嶺華がそう言うと、ふたり同時に顔が真っ赤になり頭から蒸気を噴出した。


 結局、弦内は嶺華を『レイちゃん』と呼ぶことにした。それがヘタレの限界だった。


「お兄ちゃん……」

「レイちゃん……」


 ふたりは用もないのに互いに呼び合う。


「お兄ちゃん……」

「レイちゃん……」


 実にウザい。


「お兄ちゃん、来週から新しい高校生活頑張りましょうね」

「勿論だよ、レイちゃん」


 ふたりは関係を怪しまれないように予行練習をしながら、老婆の家へと向かった。

 しかしその姿はいちゃいちゃしまくるバカップルにしか見えなかった。



   一章  完


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