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無敵な魔女の方程式(イクエーション)  作者: 日々一陽
第一章 魔法の方程式と3人の魔女
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1章 第6話

 弦内がここへ来て一週間の時が流れた。

 弦内はここでの生活が気に入っていた。


 サントス教授は弦内に自由に研究をさせてくれる。それにとってもお茶目な教授だ。

 3人の同級生とも仲良くやれている。

 まりやがムードメーカーになって雰囲気もとてもいい。


 部屋には個人用のパソコンもやってきた。

 当然ネット環境もばっちりだ。一部サイトにはフィルターが掛かっているけれど特に問題はない。世の中何事にも抜け道というのがあるのだ。


 今日も一日が終わった。

 まりや、美鈴、嶺華、それに弦内はサントスと一緒に寮の食堂で夕食を取っていた。


「桐間クンのお陰で研究スゴク進んでイマス。ヤハリ発想がいいデスあるよ」

 ハンバーグを頬張りながらサントス。


「サントス教授ありがとうございます。でもそれは協力してくれる3人の魔女達のお陰ですよ」

「うまいわね、弦内くん。新しい研究者が来るって聞いて、あたし変な男がきたらどうしようと思っていたけど、弦内くんで良かった」

 まりやの言葉にはにかむ純情な弦内。


「そうですねえ、桐間さんは結構かっこいいですから。彼女さんとかは、いるのですか」

 美鈴も弦内を持ち上げる。


「そんなの、いるわけないよ。いたらここには来てないよ」

 顔を赤らめるバカ純情な弦内。


「ところで、みんなはどうしてここへ来たの? やはりサントス教授の要請?」

 弦内のその質問にまりやが困った顔をしながら首を横に振る。聞いてはいけないことだったのだろうか。やがて弦内の問いに答えたのは嶺華だった。


「まりやさん、安心して。わたしなら大丈夫…… 桐間くんの想像通りよ。魔法使いって小さい頃から能力を発揮することが多いの。それで児童の施設や相談所にくる難解な案件はこの研究所に情報が来て、その中で魔法使いと思われる子には面接がされるわけ。ちなみにわたしたちのように全面的に研究参加をするのは高校生からよ。それまでは別の施設の担当。普通は中学までは自分の家で過ごすわね」


「そうなんだ。なんか、ごめんね、へんなことを聞いて」

「いいえ、研究者としては当然知っておくべきだわ」

 嶺華はいつものように表情を変えずに答えた。


「ソレハソウト」

 サントスが弦内に向かって珍しく真剣な表情で話をする。


「情報デハ、大国のバルティア国とシントウ国それに魔法研究先進国ルートランドのマホウ研究機関が桐間クンに興味を持っているソーナンス。チュウイしてヒニンしてヤッテください」

 重大なことを18歳以下には聞かせられない表現にしてしまうサントス。


「僕が狙われている、と言うことですね」

「はい、ソーナンデス」

「分かっています、サントス教授。もうひとりでコンビニなんか行きません!」

 弦内は弦内で勝手に墓穴を掘っていた。


「えっ、弦内くん、という言うことは……」

 まりやが喰いつく。

「えっ、いや、そう言う意味じゃ……」

「まさか弦内くん……」


「ちょっと失礼」

 嶺華が表情を変えずに席を立つ。

 気を利かせたのだろうか。


「こ、このハンバーグ、凄く美味いよね。ビーフ100%かな?」

 弦内も精一杯の方向転換を仕掛ける。


「……まあいいわ。今日はごまかされてあげる」

 まりやはふっと笑顔を見せた。


 弦内はこんな夕餉ゆうげのひとときが大好きだった。食事はメニューも選べるし、それに結構美味しいのだ。しかし一番美味しいのは仲間達との会話だろう。最初は心配していたのだけど、寮生活にも結構馴染めているかな…… 弦内がそんなことを漠然と考えているその時だった。食堂にけたたましい音がした。


 ビービービービー


 寮の警報装置が鳴り出した。


「どうしたのデスカ!」


 サントスが立ち上がる。と同時に、食堂の入り口から女性研究者が走ってきた。彼女も魔法使いだ。この時間のガード担当の魔法使いだ。


「逃げてください。魔女たちが集団で、凄い魔力で、桐間さんを出せと……」


その言葉を聞いたときには食堂の入り口に何人かの人影があった。


「キミタチは誰デスカ!」

 立ち上がり侵入者を睨みつけるサントス。


 食堂に入ってきたのは9人。6人の女と3人の男。彼らは先ほどサントスが言っていたバルティア国、シントウ国、ルートランド国の混成軍団だった。男達は各国の誘拐責任者で、6人の女達はみんな魔女のようだった。当初は三国別々にこの寮の近くで弦内誘拐の機会を伺っていたのだが、互いに弦内誘拐と言う目的の一致を知って即製の合同軍団を結成したのだった。


黒い服を着た長身の男が大きな声で呼びかける。


「手荒なまねはするつもりないあるよ。桐間くん、暫く我々と研究しようあるよ」


 サントスが弦内に小声で呟く

「逃げルデス、弦内。何としても逃げるデス」

 横でまりやと美鈴も頷いている。


「しかし、恐ろしく強い魔法結界ね。これじゃあどこからも突破できないわ……」

 まりやが誰ともなく小声で呟く。


 食堂の出入り口は前後にそれぞれ1カ所ずつ。

 しかし、そのどちらにも3人の魔女が仁王立ちして固めていた。


 侵入者の後ろから拳銃を持った2人のガードマンが走ってくる。

 足音を聞いたひとりの魔女が後ろを振り向いた。


 バシッ!

 ガシャッ!


 2人のガードマンの手から拳銃がはじき飛ばされる。

 1人はそのまま壁に激突、もう1人はその場にへたり込んでしまった。


 さっきの男が声を上げる。


「抵抗しても無駄あるよ。我々も魔女を使って大暴れはしたくないある。死人を出して新聞沙汰はイヤあるからね。おとなしく桐間くん渡すあるよ。ここにいる魔女達はみんなA級の魔女達ある。あなたたちに勝ち目はないある」


 まりあと美鈴が小声で相談する。

「全く隙がないわね、2人でどちらかを突破して」

「まりやさん、あそこ……」


 まりやが美鈴の視線を追いかける。

「あっ……」

 それを見たまりやは弦内に小さく囁く。

「弦内くん、後ろのドアを見て……」

「後ろ……」


 弦内はまりやの言う方を見た。


 そこには黒髪の魔女ふたりとブロンドの魔女がひとり、弦内達を睨みつけている。その後ろには出入り口。そして更にその後ろに、先ほど席を立った嶺華が立っていた。嶺華は弦内とまりや、美鈴に視線を送る。


 やがて彼女は侵入者達の後ろで気づかれないように指を3本立てる。

 そしてそれを一本ずつ折っていく。


 2本……

 1本……


 バシバシバキッ


 何かが軋みをたてて崩れ落ちるような、物凄い音がした。

「弦内くん走って! あいつらの魔法結界が破れたわ!」


 その声に弦内は後ろ側のドアに向かって走り出す。


「ドスン!」


 彼を止めようとする黒服の男はまりやの魔法で壁に飛ばされていた。


「クッ!」


 嶺華によって魔法結界を破られた3人の魔女達が立ち直ろうとしたその時、美鈴の声が食堂に響く。


「やあっ!」


 その声と同時に3人の魔女が足元をすくわれたように尻餅をつく。その間を塗って弦内は全力で駆け抜けた。


「桐間くん逃げるわよ!」

 嶺華は弦内の手を取ると寮の出口へと駆け出した。


「追え! 追えあるよ!」


 弦内と嶺華の背後から足音が聞こえる。それと同時に何かがきしむような音がする。嶺華が貼った魔法結界が攻撃を受けているのだ。


「ビシッミシッ!」


「はっ、はっ、はあっ!」

 そんなに走ったわけでもないのに嶺華の呼吸が苦しそうに乱れる。


「きっ、桐間くんは絶対に守る!」


 背後から3人の魔女の影が嶺華と弦内を追いかける。

 しかし侵入者達の魔法は嶺華の魔法結界を破ることが出来ない。


「ビシッ、バシッ!」


 普段表情を変えることがない嶺華の顔が苦しそうに歪む。


「バキッ、ビキビキッ!」


 2人は寮を飛び出すと道を渡って細い路地へと逃げ込む。

 嶺華は俊足だった。弦内だって腐っても男の子だ。


 狭い路地を3回曲がったところで3人の魔女達の足音は消えた。


「はっ、はっ、はあっ…… でも、彼女たちはわたしたちの意識を頼りに居場所を探し出すかも知れないわ、早く何とか……」

「あそこにトラックがあるよね、あの荷台に乗ろう」

「えっ……」


「魔法使いは別次元にある人間の意識を感知できるんだよね。でも僕の予想だと対象の人間が透磁率が高い物体に密着していると察知しにくくなるんだ。鉄は透磁率が高いからね。きっとトラックの荷台にいたら分からない」

「分かったわ」


 2人は工事用の資材が積まれている大型トラックの荷台に乗り込んだ。


「誰かくる……」

 弦内が呟く。


「タンタンタンタン……」

「カツカツカツカツ……」


 ふたりが隠れたトラックにさっきの魔女達が歩いてくる。ブロンドの魔女と黒髪の魔女が左右をキョロキョロと見回しながら近づいてくる。緊張する弦内と嶺華。しかし魔女達は弦内の予想通りふたりに気がつかないままトラックの横を過ぎていった。


「……桐間くんの言う通りね」

「僕は不安でドキドキしていたけどね」


 ふたりは顔を見合わせた。

「へへっ」

 弦内につられたのか嶺華も微笑んだ。

「ふふっ」


 このとき、弦内は嶺華が微笑む顔を初めて見た。切れ長の瞳に長い睫毛、少し面長で整った目鼻立ち。美人だとは思っていたが、そんな彼女が微笑むと暗いトラックの中が真昼のように眩しく感じられる。


「かっ、可愛くて、無敵すぎるっ!」


 弦内がそう思ったとき、予想外のことが起きた。


 ブロロロロ……


 突然トラックのエンジンが掛かると荷台が大きく揺れてトラックが動き出した。


「ど、どうしよう」

 慌てる弦内。


「暫く乗っていましょう」

 いつもの無表情に戻った嶺華は平然としてポケットから携帯電話を取り出すと耳に当てた。着信があったようだ。


「はい、青山です…… はい無事です。サントス教授の方は…… よかった、よかったです。はい…… はい…… 分かりました、では、はい」


 電話を切ると嶺華は弦内に内容を説明した。


「寮の方はみんな無事。警備員さんと先輩がひとり怪我をしたけど軽いそうよ」

「それは良かった……」

「それから、暫く研究所には戻ってくるなって……」


 侵入者が弦内を追って出て行ったあと、研究所は警備体制を立て直したらしい。研究所にはまりや、美鈴、嶺華以外にも7人の魔女がいる。その中にはひとり、嶺華並みの強い魔女もいる。それでも今回の6人の魔女達が同時に攻めてきたら、やはり研究所は危険だった。研究所では弦内を守りきれない。サントスの指示は当面弦内をどこかへ隠してしまおうと言うことだった。


「じゃあ、好都合だね。取りあえずこのままトラックに乗ってどこかに行こうか」

「わかったわ」


 結構お気楽なふたりだった。


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