表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無敵な魔女の方程式(イクエーション)  作者: 日々一陽
第一章 魔法の方程式と3人の魔女
5/17

1章 第5話

 次の日。

 授業が終わり、4人はサントス教授の研究室へ向かっていた。


 今日の授業は数学、化学、生物。

 理数系特化デーだった。

 昨日と同じく全部ひとりの教師の担当だ。ちなみに弦内が好きな物理の授業はない。化学と生物を他の3人の女生徒が選択しているからだ。


「しかしやっぱり弦内って賢いよね~。あんな問題解けるなんて」

「図形問題なんて着眼点だけだから……」

 まりやの言葉に弦内が照れながら応える。

「しかしそう言うみんなも凄いじゃないか。先生の質問にもほとんど答えてるし。生物なんか僕が一番悪かっただろ」


 実際、目の前にいる3人の魔法使いは先生が出す問題をほとんど難なく解いていた。一番成績が悪いとボヤくまりやでさえ、普通に考えると優等生だろう。ただ美鈴と嶺華ができ過ぎなだけなのだ。


「弦内さんって前の学校で生物は習ってなかったんでしょ。じゃあ仕方がないわよ」

 鞄を背中に担ぎながらまりやが言う。

「そうですね。習ってなかったのに小テストで70点。もう少しでまりやさんに勝てましたのにね」

「美鈴までひどいっ!」


 まりやはそう言いながら他の3人と一緒にサントスの研究室へ入っていった。


「お待ちしていたデス。今日も楽しく研究のチカンです」

 サントスが笑いながら4人を迎え入れる。陽気なラテン系なのだろうか。


「今日は実験をシマス。桐間クンが提案した実験デス」

 弦内は鞄を置くと実験の準備を始めた。今日の実験は弦内の理論を実証するために彼自身が考えた実験だ。弦内は何やら大きな装置の前で設定を始めると3人の魔法使いに声を掛ける。


「申し訳ないけど隣の部屋で実験着に着替えてきてくれないか」

「了解よ!」

「はい~、わかりました」

「……」


 数分後、3人は真っ白な実験着に着替えていた。実験着はゆったりとしていて体のラインこそ分からないが、その薄い生地の下に美少女達の柔らかな肢体があるのかと思うと弦内の心臓は高鳴った。それでも努めて平静を装うと弦内は3人に声を掛ける。


「そ、そこにある装置にひとりずつ乗ってもらえるかい」

「じゃあ、まりやから行くわね。ところでこの装置は何?」

「ああ、それは体重計」

「た、体重計!」

 驚いたように声を上げるまりや。


「そうだよ、とても精密な体重計、と言うか質量計測装置だ」

「どうして乙女の体重を量ろうとするの! しかもあたし一昨日ケーキを5個も食べて、昨日も3個食べたのよ! 抜き打ちはずるいわ!」

「ずるいと言われても……」

「ダメよダメ! こんな実験、青少年保護育成条例違反だわ! 公然わいせつ罪だわ!」

「あのねえ…… これは魔法使用時の質量変化を計測する実験なんだ。別に体重の絶対値は重要じゃないんだ」

「でも分かるんでしょ、あたしの体重」

「当然……」

「うっ……」


「イヤなら今晩のコハンとデザートのケーキはナッシングデス!」

 サントスがニヤニヤ笑いながら宣言する。

「サントス教授も悪人なのね……」

 結局は観念したまりや。


 装置に乗った彼女は弦内の指示通り、5メートル先に置かれた鉄球を魔法を使って壁に押し当てた。この時の物体の運動エネルギーと、被験者である魔法使いの微妙な質量変化のデータをとるのがこの実験の内容だ。


「うん、予想通りのデータだ。順調だよ、じゃあ次は長岡さん、いいかな」

「はい、どうぞ~」


 まりやと同じように5メートル先の鉄球を軽々と吹き飛ばす長岡美鈴。物体の質量は100キログラムだからこの実験は結構迫力がある。

「すごいデスネ。相撲取りもドスコイですネ」

 相変わらずサントスの言うことは陽気だ。やはりラテン系なのだろうか。


「じゃあ、青山さん、お願い」

「……」


 表情を変えないまま同じ実験を始める嶺華。他の2人と同じ実験を終えたところで、弦内は嶺華にだけ別の実験を追加した。


「じゃあ、もうひとつ。その鉄球を持ち上げて静止させてから温度を上げていって貰えるかな、10秒間かけてね。もし溶けるようならストップ掛けるからね」

「……分かったわ」


 弦内の合図と同時に100キロの物体がふわふわと宙に浮く。

 まりやと美鈴も息を飲んで見つめる。


「いち、に、さん、よん……」

 あっと言う間に鉄球が赤みを帯びてくる。

「ろく、しち…… ストップ、お終いだ」

 鉄球は明るい赤色になり、溶けた滴が少し床に落ちていた。


「やはり嶺華は凄いわね。さすが研究所トップクラス。あんなことあたしできない」

「そうですね、わたくしもです……」

 微かに力んだ嶺華の表情が元に戻ると、鉄球は急激に明るさを失っていく。


「じゃあ、横にある青い耐熱タイルの上に下ろして……」

「わかったわ……」

 100キロの鉄球が音もなくゆっくりをタイルに降りる。


「青山さん、お疲れ。疲れたんじゃない、ごめんね」

「いえ、大丈夫だわ」

 嶺華は表情を変えず装置から降りる。


「で、どうなの結果は?」

 まりやが測定データを映し出すモニターを覗き込む。

「うん、予想通りの結果だよ。魔法で動かした対象物に与えられるエネルギーは魔法使いが失う質量に比例するんだ。人や魔法の種類によってその効率は違うけどね」

 満足げにモニターを見つめる弦内。


「ふうん…… 要するに魔法を使うと痩せるってことなの?」

「そうデス。そう言うケッカンが浮き出ていマス。

 日本語が少し欠陥なサントスだった。


「よしっ、それじゃあたし、バンバン魔法を使って暴れよっと!」

 拳を握りしめガッツポーズのまりや。

「いやいや、物質は凄く軽くても大きなエネルギーを生むからね。痩せたいんなら普通に運動した方が効果的だよ」

 面白い展開に水を差す真面目な弦内。


「なあんだ、残念。魔法ダイエットの創始者になれると思ったのに」

 魔法のもっともくだらない使い方だった。


「あっ、ただ、青山さんの最後の魔法はかなりのエネルギーを使ったね。あれなら少しは痩せられるかも……」


 弦内の一言に全員が嶺華を見つめる。

 魔法を使うと胸から痩せるのか?

 次の実験はそこか? 

 とみんな思ったが、誰も口には出さなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ