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無敵な魔女の方程式(イクエーション)  作者: 日々一陽
第二章 即席兄妹の憂鬱
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2章 第7話

 翌日。


 曇り空の中、いつものように弦内と嶺華は一緒に学校へ向かった。

 しかし今日はいつもと違い、全く会話がない。


 朝、嶺華は普通の制服を着て家を出た。

 弦内が用意した上着ではない。


「僕は大丈夫だよ。だからこっちの服を着ようよ」

 弦内が何度お願いをしても嶺華はかたくなに言うことを聞かない。

「ごめんなさい、でもわたしにはお兄ちゃんさえいてくれれば……」

 嶺華はそう言うだけだった。


 学校に着いた嶺華は自分の席に鞄を置く。

「おはよう、嶺華さん」

 いつものように伊能さんが微笑みながら声を掛ける。

「おはよう、伊能さん。ちょっとだけ……」

 嶺華は伊能さんに小声で何か囁くとふたりで廊下に出て行った。


「おはよ、弦内」

 登校してきた関が陽気に声を掛ける。

「ああ、おはよう……」

「どうした、元気ないな」

「そうかな……」


 暫くして戻ってきた嶺華は以前のように冷めた表情で、そして伊能さんは俯いたままとぼとぼと歩いてきた。

 それを見た弦内はがっくりとうなだれた。


          ***


 その日の放課後。

 天気は変わらず曇ったままで、少し肌寒い。

 下校中、弦内と嶺華はほとんど無言のまま並んで歩いた。


 学校での今日の嶺華は一週間間前までの彼女に逆戻りしていた。

 休憩時間もずっとひとりで、食事もひとりで無言のまま。

 朝、何を話したのか、伊能も誘いには来なかった。

 何度もちらちらと嶺華の方を見ていたが、彼女は彼女で辛そうに箸を進めていた。


「ねえ、レイちゃん、これから僕気をつけるからさ、やっぱり……」

「いいえ、これでいいんです。これで」

「そんなことないよ、楽しかったんじゃないの? 僕だってそんなレイちゃんを見るのが好きなんだ」

「やっぱり無理だったんです!」

 無表情な嶺華に少しの感情が現れる。


「そんなことないって……」

「普通に暮らすなんて、やっぱりわたしには夢だったんです。だからもういいんです」

「夢なんかじゃないよ、ね、今度こそ」

「ごめんなさい!」

「レイちゃん!」

 突然嶺華は走り出した。

 そのまま駆けていく嶺華の後ろ姿を見ながら弦内は追いかけることが出来なかった。


「僕は何をしてたんだ。魔法の原理が方程式で表せたって、そんなの何の役にも立たないじゃないか。大切な、自分の一番大切な女の子の笑顔すら取り戻せない。僕は一体何をしてたんだ……」


 拳を握りしめて呟く弦内はふと人の気配を感じ振り返る。

「あっ、気づかれちゃった……」

 そこには寮に帰ったはずのまりやと美鈴の姿が。

「ちょっと、つけて来ちゃった。ねえ弦内くん、お茶でもしていかない?」


          ***


「だからさ、嶺華にとっちゃ、弦内くんと言う人が近くにいるだけでも凄く嬉しいはずだって」

 いつかも行ったことがある街外れの昔ながらの純喫茶。

 まりやは笑顔を浮かべて弦内を慰める。


「でも、今日の伊能さんを見ただろう。一度仲良くなったのにまたひとりぼっちに戻るなんて。僕がしたことは彼女たちを余計に苦しめただけじゃないか……」

「そんなことはないですよ~、絶対前進しています。それに、嶺華さんと伊能さんは今でもちゃんとお友達でいますよ~」

「えっ?」

 驚いたように弦内は美鈴の顔を見る。


「気づいていませんか~、嶺華さんも伊能さんもお互いに気遣ってるじゃないですか~」

「だから!」

 弦内は少し大きな声を出した後、

「だから、余計に苦しめているんじゃないか……」

 そのまま美鈴は押し黙ってしまう。


「まあさ、そのなんだ、パフェ食べようよ!」

 まりやは目の前にあるスペシャルビッグバナナパフェを口に放り込んだ。


          ***


 まりやと美鈴に伴われて弦内が家に戻ると、嶺華が出迎えに現れた。

「ごめんなさい、わたし取り乱して。まりやと美鈴にも面倒掛けちゃって」

 3人が喫茶店に行っていたことを携帯で連絡を取って知っていた嶺華が頭を下げる。


「いやいや、いいわよ、楽しかったし。パフェ大盛りだったし!」

「そうですね~、まりやさんが勝手に全員分ビッグパフェを注文するんですから~」

 嶺華は少し表情を緩めて、


「ありがとう、みんな。ところで、サントス教授からメールは来たかしら?」

「えっ、来てないけど……」

 そう言いながらまりやと美鈴は自分の携帯を確かめる。


「研究所の監視に動きがあるらしくて、今行っている学校の方が危ないかも知れないから、明日は学校に行かずに戻って来いって……」

「ええ~! また急ね。でも研究所は大丈夫なの?」

「なんでも、明らかに手薄になっているそうよ……」

「……そう」

「早く帰って準備しましょうか~」

「そうね、でも何だか寂しいわね」


 2人はもう暗い空の下ゆっくりと帰って行った。


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