第4話:奪わないで
予感がだんだん確信に変わってくると、人間ってのは逃げたくなるもので…あたしは毎日自分の考えを否定していた。心ちゃんの携帯も怖くて触れなかった。あれから3ヶ月近く仕事場に行ってない。何より怖かったのが、すずからのメールがまったくと言っていいほど来なくなったこと。すずがあたしに後ろめたいことがあるから、メール出来ないんだとしか思えなかった。何でよりによってすずなんだろう…。心ちゃんの気持ちがあたしから離れてることはわかってる。でも、それを言葉にしてしまったら、きっと心ちゃんはあたしから離れる道を選ぶ。だからあたしは知らないふりをする。それが悲しいことだってちゃんとわかってる。でも、心ちゃんと離れるよりはマシなの。例えそこに愛がなくても…。
「お帰りー。」あたしはいつも通り玄関まで来て心ちゃんに抱き着いた。同棲し始めた頃、心ちゃんの帰りが待ち遠しくて…帰って来たときはこうやって愛情表現した。あれからずっとあたしの気持ちは変わってないって、毎日心ちゃんにアピールしてるんだよ?
「今日も疲れたー。早くちこのご飯食いてぇ。」心ちゃんはあたしの頭を撫でて、部屋に行った。抱き着いていたあたしの腕がほどける。
『心ちゃん、約束忘れたの?』あたしは心の中でそう言った。同棲を始める時、あたし達は決まり事を作った。おはよう、おやすみ、いってきます、ただいまのときは必ずキスするって。喧嘩してたとしても、絶対するって…。だから、あたし達はすぐに仲直りしたんだ。このキスには大きな力があるんだよ?
「今日は麻婆春雨ー。」
だけど、あたしはあえて何も言わずに、笑顔で言った。
「おっ、いいねぇ。」
心ちゃんもいつも通りに笑う。
これでいい。今はこれ以上望まないから。だから…だから、心ちゃんをあたしから奪わないで…。
「…ねぇ、心ちゃん。好きだよ。」