第34話:夢の国だから
ついに、この日がやって来た。そう、大樹と2人での旅行だ。
何かと理由をこじつけて、先延ばしにしてきたけど…そんなのいつまでも通用するわけなくて。旅行の話が出てから3ヵ月。半ば強引に今日という日を迎えたわけで。
行き先はまぁ、定番の夢の国。ディズニーランド。1泊2日の予定だけど…あたしがびびって逃げる可能性3割。遊び疲れて寝る可能性3割。はしゃいで誤魔化す可能性3割。大樹にうまく丸め込まれる可能性…1割。
別に大樹が生理的に受け付けないとか、そういうことじゃあ、全然ないんだけど。むしろ、見れば見るほどタイプだし。
でも、その一線を越えるのは、もう少し後がいいってのが本音。まだあたしん中に心ちゃんがいる。時々、大樹と心ちゃんを重ねてる自分がいる。まだ、大樹を好きになりきれてない気がするの。気に食わないとこなんて何一つないのにな。なんで、心ちゃんに勝てないんだろう。もうすぐ別れてから3年。いい加減、新しい恋愛に夢中になりたいよ。
「ちか、着いたよ。」
ディズニーランドに向かう車の中、寝ているふりをしていたあたしを、大樹は優しい声で起した。あたしは眠たそうな声で
「うん。」
とだけ答えた。狸寝入りばれてないといいけど。
こんなときに狸寝入りするなんて、嫌な彼女だよね。でも、意識しすぎて耐えられなかったんだもん、しょうがないよ。途中で『帰る』とか言い出さなかっただけ、まだマシ。
「眠い?」
「ううん、大丈夫!」
あたしは大きく首を横に振った。
「さ、早く行こっ!」
大樹が心配そうな顔で見てるので、あたしは明るくそう言って車を出た。もしかしたら『帰りたい』って顔に出てたのかも。こんなにあたしを大事にしてくれる人を、あたしは傷付け過ぎてる。もっと思いやりの気持ち、大切にしなきゃダメだよね。
あたしは思い切って、自分から大樹の手を握り、入口へと走り出した。