第27話:キャンプ
「ちかってまだ大樹と付き合ってないの?」
何の脈絡もなく突然そんなことを言われ、あたしは持っていた携帯を落とした。
「えっ、もう付き合ってんの!?」
「いや、付き合ってないから!」
「なんだぁ…」
ため息を着くように香と千秋ちゃんは、呟いた。
「びっくりするじゃん、急に…。」
「だってさぁ、いっつも一緒にいるのに何で恋に発展しないわけ?逆に疑問だよね。」
うんうん、と香の言葉に千秋ちゃんは大きく頷いた。やっぱり周りから見れば、あたし達も付き合ってるように見えるんだろうなぁ…。あたしはいいとして、大樹はきっと迷惑に思ってるだろう。それでも何も言わず傍にいてくれる。あたしの居心地のいい場所を与えてくれる。あたしは大樹の優しさに甘えてばっかりだ。「おら。喋ってねぇで準備しろ。」
そう言って後ろから大樹にどつかれ、あたしはまた携帯を落とした。何かと大樹はあたしを殴る。もちろん本気じゃないけど。さりげなくストレスを解消してるんだろうか。まぁ、大樹の大半のストレスはあたしだろうから、反抗しないでおこう。
「はい、すみませーん。」
香と千秋ちゃんはそそくさと彼氏のもとへ。
きっと2人とも優しくされてるんだろうなぁ。彼氏べったりだし。
この6人は仲良しだし、しょっちゅう遊んでも飽きないけど…あたしと大樹が残り者になるんだよね。誘ってくれるのはありがたいけど、こういう機会があればあるほど、あたしは大樹に甘えてしまう気がして嫌。今日のキャンプだって、前日まで断ろうかどうか悩んでたし。
「にしても、あいつら気合い入りすぎだろ。」
「そりゃ、楽しみにしてたもん。」
「ちかは用事あったとかじゃねぇの?」
「え?いや、ないけど?」
「なら、いいけど。お前来るのしぶってたし、用事でもあったのかと思って。」
こういうとき大樹って人のことよく見てるなぁって感じる。嘘が見破られるって言うか、心が見透かされるって言うか…そんな気がするんだ。
「大樹って人のことよく見てるよね。」
「…俺が見てんのは、ちかだけだけどね。」
「えっ?!」
大樹が突然低い声でそう言ったので、思わずドキッとした。あたしは慌てて目を逸らす。
「ぷっ。お前、勘違いしてんだろ?」
「べっ、別にっ。」
「調子のんなよ。」
「乗ってないよ!」
…とは言ったものの、実際調子乗ってるのかも。
このままの関係が続けばいいと思ってる。大樹の恋を応援するとか言っておきながら、心のどこかではそれを否定してた。大樹が他の誰かのものになるのは嫌だ。別に今だってあたしのものってわけじゃないけど。もし、彼女が出来たらあたしの傍にいるわけにはいかないだろうし…そうなると少し辛いなぁ。嫉妬とかそういうんじゃなくて、ただ今のあたしには大樹の存在が必要だと思うから。かなり勝手なことを言ってるのはわかるけど…大樹の存在が、倒れかけてるあたしを支えてくれてるのは事実だ。
…やっぱりあたしって人間はずるい。