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第20話:絵の具

沢山の人で賑わっている砂浜から少し外れた場所で、あたしと大樹は蟹を探していた。ここはちょっとした岩場になってて、沢山見つけられるのをあたしは知ってる。だって…心ちゃんが教えてくれたから。

「蟹なんかいねぇよ?」

「いるって。ほら、ここの隙間2匹もいる。」

「あ、マジだ。」

大樹はあたしが指差した隙間に顔を近付け、木の棒で突き始めた。

「ねぇ、それ蟹死なない?」

「死ぬわけねぇだろ。」

「素手でいきなよ。」

「挟まれんのやだ。」

心ちゃんは蟹が可哀相だからって、そんな手荒にしなかったんだけどな。あたしは大樹から少し離れた場所でヤドカリを探すことにした。ヤドカリは怖くないから、あたしでも捕まえられる。隙間をじっくり探していると、小さなヤドカリが歩いているのが見えた。

「逃げないでね…」

あたしはそぉっと貝殻を摘む。

「やった!しん…」

…思わず言ってしまった。ここに心ちゃんはいないのに。

『心ちゃん捕まえたよ』っていっつも叫んだんだ。そしたら、遠くで蟹を捕まえてた心ちゃんが近寄って来てあたしを褒めてくれるの。帰る頃には、バケツの中に2人でとった蟹とヤドカリが沢山いたよね。

…心ちゃん。あたし、一人でヤドカリ捕まえたよ。もう、褒めてくれないの?頭撫でてくれないの?心ちゃん、ヤドカリ大好きじゃん。『ちこ、偉いなぁ』って言ってよ。

力の抜けたあたしの手から、ヤドカリはゆっくりと逃げて行った。

座り込んだ自分の膝に涙が落ちる。

…駄目だ、心ちゃん。

やっぱり3年は長いよ。

どこに行ったって心ちゃんとの思い出が溢れてるよ。何度も心ちゃんの幻が目の前を通るよ。心ちゃんは違うの?あたしとの思い出を、次の思い出で塗り替えてしまったのかな。あたしには心ちゃんとの思い出が濃すぎて、塗り替えても塗り替えてもまた浮き上がってくる。心ちゃんとの思い出を塗り替えられる絵の具なんてどこにもない。

「ちか?」

近付いてくる足音が聞こえる。大樹に変に思われるから、泣き止まなくちゃ。…でも、ここに心ちゃんがいてくれたらって、考えちゃうから。やっぱり涙は止まんない。

「何した?こけた?」

ただひたすら泣き続けるあたしは、大樹の問いかけに首を振ることしか出来なかった。

「蟹にやられた?」

「ちがっ…」

「…帰るか。」

大樹は泣いてるあたしを引っ張り起こして、ため息をついた。きっと面倒だと思ったんだろう。

大樹はあたしの手を引いて、香たちのいる浜辺へ向かった。すれ違う人があたしたちを見てる気がする。喧嘩したカップルのようにでも見えるのかな。大樹、きっと恥ずかしいだろうな。

「ここで待ってられる?俺、みんなに言ってくるから。」

「あたし、大丈夫だから。大樹、みんなといていいよ。」

まだ少し泣きながらそう言うあたしに、大樹はげんこつをくらわせた。

「ちかの嘘ってすっげぇ見え見え。嘘つくなら、もっとうまくついてくんない?」

年下に見透かされるなんてなんだか恥ずかしい。あたしより大樹のほうが何倍も大人だなぁ。

「だから、待ってて。」

「はい。」

今度は素直に返事をすると、大樹はみんなのもとへ走って行った。あたしはいつも、なんだかんだ大樹に助けられてる。お礼の一つくらい素直に言えたらいいのに。

可愛くないな。

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