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第12話:遠いどっか

休日だったせいか、職場が忙しかったのは好都合だった。何も考えずに働くのが、たぶん今は1番楽。それが逃げてることだとわかってるし、現実を見なきゃとも思う。もう少し学生の頃にも失恋しておくべきだったかな。そうすればこういうときどうすればいいのか、わかったのかもしれない。とりあえず明日は仕事が休みだし、ゆっくり眠ろう。

鞄から鍵を取り出し、穴に差し込んだ。

ガチャ、という音がいつもより大袈裟に聞こえた。自然と深呼吸している自分がいる。…だって開けたらもうそこには心ちゃんはいないんだもんね。ゴクリと一つ唾を飲んで、ドアを開けた。ぱっと見るだけでは何も変わらない、いつもの家。だけど、あたしにはわかる。沢山の2人の思い出が無くなってること。

あぁ、本当にもう心ちゃんはいないんだ…。帰って来たら心ちゃんが出迎えてくれるかも!とか馬鹿みたいに考えてた自分が情けない。

やっぱりちこが好きだ!とかってさ。言ってくれる訳無いか。超妄想癖。笑える。

「…ただいま。」呟いただけなのに、あたしの声はよく響いた。誰も返事してくれないんだね。わかってるんだけどね。

「…ただいま!」ねぇ、心ちゃん帰って来たよ?お帰りって出迎えに来てよ。そしてキスしてよ。だってそれが2人で決めた約束じゃん。

「ただい、ま…」

お帰りって言ってよ!心ちゃん…。あたしは力無くその場に座り込んだ。心ちゃんがいてくれないと、あたしの存在する意味がないんだよ。あたしの手は心ちゃんにしがみつくためにあったし、瞳は心ちゃんの笑顔や寝顔を見るためにあった。あたしは心ちゃんがいなきゃ生きていけないんだよ…。

泣いても泣いても涙は止まらなくて…玄関が湖になってしまうのではないかと思うくらい泣いた。こんなに泣いてばっかりいたら、干からびて死んじゃうかもね。

心ちゃん。本当にもう会えないの?気が変わったって戻って来てくれないの?勝手だって怒ると思うけど、許してあげるよ?だってあたしで駄目な理由なんてないじゃん。お互いB型同士で、わがまま好き勝手やるくせに、こんなにお互い好きでいれるのは凄いって言ってたじゃん。あたしだってそう思うよ。心ちゃんの嫌なところいっぱいあったし、何回も怒った。でも、それよりも好きだって思う気持ちが大きかったの。それは心ちゃんも同じだったはずだよ。きっとうまくいくのなんて最初だけ。後から嫌なとこが見えて来て、別れちゃうのがオチなんだから。あたしたちの過ごした3年は長いんだよ?濃いんだよ?他の誰にも負ける訳無い。

だから失敗して戻ってくればいい。どんな言い訳だって認めてあげるから、あたしのとこに戻ってくればいい。

すずが心ちゃんの全部を理解しなければいいのに。…あたしって最低な女。どうして愛してる人の幸せを壊そうとするんだろう。性格歪んでるのかな。実はめっちゃ腹黒い奴だったの?

でも、やっぱりあたしじゃなきゃ駄目だよ。心ちゃんを幸せにするのは、あたしだけでいいもん。他の誰もいらないよ。

もうみんないなくなればいい。心ちゃんとあたしだけの世界なら、心ちゃんはあたしを愛してくれるでしょ?

…なんだかこんなことばっかり考えて、あたしの『愛』って全然綺麗じゃないね。だから心ちゃんは離れていったのかな…。

遠い遠いどこかに。

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