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人間掃除人  作者: 影都 千虎
一掃目
7/73

06

 店員が駄目となると、僕が注意をするか、本人がマナー違反だと気付くのを待つという選択肢しか残されていないだろう。しかし、残念ながら前者の場合はやってみる前から無理なことが分かっている。何故か。何故なら、僕は親しくない人に自ら話しかけることが出来ないという性格をしているからだ。注意なんて出来るわけが無い。では残された後者を必然的に選ばざるをえないのかというと、そうではない。本人がマナー違反を自覚できるのなら、今頃僕は多少苛立ちながら暇をもてあまして店内を徘徊していないはずだ。

「……と、わかりきった事を延々と考え続けて頭がよくなったような錯覚を覚える僕なのだった」

 吐き捨てるように呟いた。周りの音が大きいと、独り言も大きくなる。そう信じたい。自分が他人と会話することに飢えているのではないと信じたい。そうでないと涙が出てきそうになるから。

 格ゲー、シューティングゲーム、クレーンゲーム……誰もプレイしていないゲームを適当に遊んでみるが、無駄に所持金を消費するだけだった。誰もプレイしていないだけあってあまり面白いようにも感じなかった。残念すぎる。更に、重大な問題に僕は気付いてしまった。

「音ゲーやる前に金が尽きる……」

 そう、あの痛々しい金髪の所持金が尽きるのを待っている間に、僕の所持金が尽きてしまうかもしれないという問題である。もう財布の中には千円札が一枚もなく、百円玉が五枚あるだけだった。さあ、困った。これではもう他のゲームで暇をつぶせない。自転車でここまできているため、交通費を気に掛けなくていいことが不幸中の幸いだったとは思う。しかし、五百円しか持っていないという事は昼飯が抜きになるであろうことが確定してしまった。健全な男子高校生に昼飯抜きは少し苦しい。

「こうなったのも全部あの金髪のせいだ……!」

 食べ物の恨みというのは怖いもので、僕はあの金髪に更なる怒りを覚えていた。これはもう、意を決して本人に文句を言わない限り静められないだろう。人見知りなんて知らない。知ったこっちゃない。

 ゲームに命を賭ける勢いの男子高校生。どうかとは思うが、当分直りそうもないし、直す気もない。

「すみません、ちょっと」

 金髪がさらにワンコイン投入しようとしたところに声を掛けた。ひとまず連続プレイの阻止は出来た。後は注意をしてゲームを譲って貰うだけだ。

「……何」

 僕が悪いわけではないのに睨まれてひるんだ。金髪に眼帯。痛々しい組み合わせなのにいざ相手にするとなかなか怖かった。中学生相手にビビるとは僕も情けない。

「それ、なんプレイ目ですか?」

 それでもくじけずに話しかけた。よくやったぞ、僕。思わず自画自賛をしてしまいたくなる。

 金髪は律儀にも僕の質問に対する答えを出すために、視線を宙に泳がせてなにやら数を数え始めた。が、どうやら分からなくなってしまったらしく途中で諦めた。よろしい、努力だけは認めてやろう。僕はこいつに自分が数回プレイをしているという事を自覚させてやれればそれでよかったのだから。

「自分がルール違反を犯したってわかっていますか?」

 丁寧に問う。中学生でも敬語を使うこの下からの姿勢は我ながら格好が悪いとは思うが、かといって威圧的になる気にもなれなかった。柄じゃないし。元々誰かに注意をするなんてするような性格をしていないのだし。

「……だって、並ぶ人はいなかったから」

 不機嫌そうに金髪は答えた。少し目を伏せてバツが悪そうにしている。もしかして、僕が分かりやすく並んでいたらこいつは連続プレイなんてしなかったのだろうか? だが過去は変えられない。こいつは連続プレイをして、僕はこいつのせいでやりたいゲームがなかなか出来ないでいるのだ。

 そんなことよりも、だ。この中学生、男にしてはやけに声が高くないだろうか? そりゃあ勿論声が高い男だって居るのだけれど、それにしたってこいつの場合は高さが度を越している。女みたいだ。声だけで姿が見えなかったら僕はこいつを女だと思っただろう。

「…………悪かったよ」

 僕が急に黙り込んだのを見て何を思ったのか、金髪は急に立ち上がって突然謝罪をした。そして僕にゲームを譲る。なんだかこれでは僕が悪いことをした気分だ。高校生が中学生を脅している図、みたいな。


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