05
「まあ、全員この町で発見されたってところが最大のヒントなのかもね。これってもしかして俺たちに喧嘩でも売ってるつもりなのかねえ」
「なのかねえって、暢気に言ってられないと思うんすけど」
苦笑しているのか微笑しているのか分からない渡り鳥さんに、金髪で両耳ともピアスを三つつけた狐さんが突っ込んだ。見た目に反して狐さんは真面目な性格をしているのだけれど、彼はそれを認めようとはしない。真面目な性格を認めたくないがために外見を変えたといわれても納得できるくらい否定する。
「六人も暴力団関係者なんて怖いわね」
「そっちかよ。犯人はどうでもいいのかよ」
「暴力団関係者がいっぱいってことは、犯人になりそうな輩がうようよ居るって事じゃない。今のところ一般人には何も手を出さない犯人よりよっぽど怖いわ。世間もこんな考えかたしているわよ」
「…………」
兎さんの一般論に狐さんは黙る。その背中が「そうだけど! そうなんだけど!」と言いたそうにしていた。多分その後に続く言葉が無いから黙っているのだろうけど。
この会話に混ざるつもりがない上にそもそも事件に飽きていた僕は、黙ってテレビのチャンネルを変えた。事件とは無縁なバラエティー番組が映し出される。なんだかんだ今日も日本は平和だ。結局事件は他人事だからそう思えた。多分自分が殺されかけないと深刻に考えることは出来ないだろう。
それから退屈な平日を適当に過ごして、待ちに待った退屈な土曜日がやってきた。結局退屈なのはかわらない。何故か。何故なら、それは友達がいないからさ。と、自問自答して悲しくなった。心が砕けて泣いてしまいそうだ。もうこんな自虐はしないことにしよう。
「明紀、ゲーセン行かないか?」
「断る」
「即答かよ……」
唯一の友人に振られた僕は一人寂しく近くのゲーセンに来ていた。田舎にある割には店舗が大きく、ゲームが充実しているためよく来ている。お陰で僕の財布は何時だって真冬だ。
早速出来もしないUFOキャッチャーで五百円ほど無駄にしてから音ゲーコーナーへ向かった。音ゲーは安価で長時間プレイできることが魅力だ。格ゲーでも同じことが言えるのだが、それは格ゲーが得意でないといけないため僕には該当しない。コマンド入力は苦手だ。よく分からない。
音ゲーコーナーに行くと、何時ものドラムのゲーム(力加減をすれば能力は適用されないのだ)には先客がいた。仕方なく先客が終わるのを座ってボーっと待つことにする。……うん、下手くそだ。人の事をとやかく言えるほど僕も上手いわけではないのだけれど、それにしたってそいつは下手くそだった。髪の毛を金髪にして、右目には眼帯をつけた痛々しい奴だ。中学生だろうか。そんなに身長は高くない。多分アニメか何かで影響を受けて急にドラムを始めたのだろう。金髪に眼帯なんて痛々しいファッションもそこに影響されているかもしれない。その理由だったら一番納得が出来そうな気がすることだし。ああ、早くゲームオーバーになって僕と交代してくれないだろうか。そんな僕の思いとは裏腹に、ゲームは終わりそうも無かった。下手くそな奴をずっと見ていても楽しくない。僕は他のゲームをしている人へ視線を移した。おお、あの人は凄い。指捌きが人間離れしている。
しばらくの間、人間離れした指捌きに見とれていたのだが、その人がゲームを終わらせてどこかに行ってしまうと、そう言えば自分は順番待ちをしていたのだったという事を急に思い出した(見とれすぎだ)。多分やることが無くなったからだろう。視線をドラムのほうへやる。未だに金髪がドコドコと下手くそなドラムを叩いていた。まさかの連続プレイだった。
「これだから中学生は……」
愚痴っぽく文句を言いながら、僕は広いゲーセン内を徘徊することにした。あの調子じゃ多分所持金が尽きるまで金髪はプレイを続けることだろう。マナーがなっていない奴にありがちな行為だ。迷惑なことこの上ない。そういった迷惑行為を店側は取り締まってくれないのだろうか。答えは否だ。分かっている。店員はそんなに頻繁に店内を徘徊していないし、そもそもこの広いゲーセン内を把握できるほどの従業員がいなかったはず。ここのバイトは楽じゃないと、誰かの会話を盗み聞きした記憶がある。