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「まあ、別に俺様は報酬なんかもらえなくても、こうやって朝昼晩三食をたまにまかなってもらって、ついでに寝床を提供してもらえればそれでいいけどなー」
渡り鳥さんにいつか聞いてみようかどうしようか考えていると、明紀がそう言って笑った。その結果僕はタイミングを失い、渡り鳥さんに質問することをまたの機会に持ち越すことになった。今はそれよりももっと重大なことがある。
「寝床を提供って……まさか明紀、また僕の部屋に泊まるつもりじゃあないだろうな?」
「ご名答」
正解者には美少女と言われてもなんら違和感の無い(らしい)親友からスマイルのプレゼント。わあい、嬉しくない。僕としてはそんなものよりも静かな睡眠時間が欲しかった。
そんな僕の気も知らないで、明紀はテレビの電源を入れた。やることが無いのなら帰ればいいのに。と、思ったけれど口に出さないことにした。ああ言えばこう言う性格をした明紀のことだ。きっと言えば面倒くさい事になる。正確に言えば僕が言い負かされるか罵られることになる。言葉攻めが趣味なんてことはなく、僕は健全な男子であるため、それは出来れば避けて通りたい道だ。
「昨年、十二月二十六日に発生した連続殺人事件は、まだまだ解決しない模様です……」
テレビではニュースキャスターのお姉さんがそんな話をしていた。解決されずに未だに事件が続いているのだから仕方の無いことなのだけれど、このニュースを報道し始めてもう一ヶ月だ。流石に飽きというものがでてくる。
事の発端は、ニュースキャスターのお姉さんが言っていたように去年の十二月二十六日のこと。とあるコンビニエンスストアで、ナイフで体を数箇所刺された男の死体が発見された。どうも被害者の男は暴力団関係者のようだ。というところから始まる。最初のうちはニュースも気楽なもので(殺人事件だからあまり気楽なものでもないけれど)、『暴力団関係者同士での諍いでしょうかね。怖いですねー』なんてコメンテーターが話していた。
しかし、十二月三十日。大晦日の前日に、今度は一般企業のオフィスビルの近くで、二十六日の男と同じようにナイフで刺された女の死体が発見されて、その気楽さは失われた。調べていくとその女も結局暴力団関係者だったことが分かったのだが、刺され方が最初の男の死体と一致しすぎているということで注目を集めていった。
それから年を越して、日本中が正月ムード一色になり、この事件を忘れかけた(暢気すぎる)一月三日。今度は制服姿の女がまたナイフで刺されて死んでいるところを発見され、とうとう日本中は凍りついた。二週間足らずの間で三人が全く同じ殺され方をされた。しかも今度は学生だ。今、日本はとてつもなく危険な状況ではないのか、と。まあ、結局その学生も実は暴力団にかかわりがあったと後々わかったのだけれど。
その次の日、一月四日にも死体は発見された。四人目にもなると、人間は不謹慎と思いつつ飽きてくるらしく、原稿を読むキャスターも「またか」といった感じの空気を漂わせていたことが印象的だった。
「先週、十一日に五人目の被害者が発見され、さらに一昨日の二十四日に六人目の被害者が発見されたわけですが、内藤さん、これについてどう思われますか?」
テレビでは暢気にアナウンサーのお姉さんと、評論家のおっさんが適当なことを話している。評論家のおっさんは偉そうに警察が無能だとか言っているけれど、だったらお前たちで犯人の手がかりを探してくれよと言いたくなる。事件に関わっていないしする気もないから捜査している人間に適当なことが言えるのだと分かっているけれど。
「この犯人だけはどう頑張ってもなにも掴めないんだよな……」
明紀が悔しそうに呟いた。警察が、某国民的アニメの男の子が猫型ロボットにすがるように、事件の捜査を僕たち掃除人に丸投げしてくれたのだけれど、残念ながら未だに何も掴めていなかった。同じニュースばかりで飽きたとか言うのならさっさと事件を解決しろよと怒られそうだけれど、解決できないものはどうしようもない。無理だ。
「司法解剖で凶器の判定とかいろいろ頼んでみたけど、やっぱりなにもつかめなかったよ。六つも証拠を置いてくれたのにヒントにはしてくれないあたりなかなかやり手だね」
暢気に渡り鳥さんは言う。丸投げしてしまったため、警察はこちらに催促をすることができない。だから渡り鳥さんは「いつもの仕事より楽かもね」とよく笑っている。そんなんでいいのかと疑問を感じるが。