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意識は失っているものの、頭部の外傷は余り酷くなく、後遺症が残るようなものでもないもいう診断を明紀は受け、用意された病室に移動し、こんこんと寝続けていた。
その目蓋が開く様子は、今のところない。
「……明紀」
呼び掛けても反応はない。一体、いつまでこれが続くのだろうか。そう長くないといいのだけれど。
「ああ、熊君。ここにいたのね? 連絡を受けてきたはいいけど、狐は熊君とはぐれたなんて言ってるし探したのよ?」
扉が開き、ずっと明紀の傍らに座っていた僕にそんな声がかけられる。振り返るまでもなく分かる。この声は兎さんだ。
僕は明紀がこの病室に運ばれてからずっとここにいたのだけれど、そういえば狐さんとはぐれてしまっていた。僕が明紀を追いかけて、足の傷とかそんなのも気にせず走っちゃったんだっけ? あのときは明紀のことで頭が一杯だったから、あのときの状況も、考えていたことも、痛みも覚えていない。
「……兎さん」僕は、恐らく帰ろうと誘ってくる兎さんに、そう誘われる前に切り出しておく。「僕は、明紀が目覚めるまでここにいます。そして、明紀が目を覚まし次第、明紀をこんなにした犯人を探します」
明紀がどういった経緯で気絶したのかは分からない。しかし、医者の話によると、気絶の原因とは断定できないが、明紀は何者かに頭部を殴られたらしい。外傷はそれだ。ならば、僕は気絶の直接的な原因でないにしろ、明紀を殴った奴を見つけ出し殴らなければ気が済まない。
明紀は僕の大切な親友だ。それを傷つけるものは、誰であろうと許すつもりはない。
「……そう。分かったわ。熊君にとって、明紀君はすごく大切な存在なのね」
「当たり前じゃないですか。唯一無二の親友ですから」
僕みたいな奴の親友でいてくれるのだ。上っ面だけでなく、心の底から。その好意にはきっちり好意で返したい。応えたいのだ。
……なんと言葉にしたらいいのか分からない。こういうのは、言葉にするものではないような気がする。ただ、一つだけ確かに言えるのは、僕と明紀の間にあるものは絆なんて言葉で表せるほどチープなものではないと自負していることだ。
「……ごめんね」
今、僕がどんな表情を浮かべているかは分からない。ひどい顔をしていたのかもしれない。兎さんは、そんな僕にポツリと謝罪の言葉を口にした。
「どうして兎さんが謝るんですか?」
「……だって、明紀君がこうなったのは私のせいだから……」
「一年前のことを言ってるならそれは違いますよ。それに、明紀は勝手にこっち側に来たんです。巻き込まれたのは明紀の自業自得……というか、自ら望んだことだし、襲われたのは襲った犯人が悪いんです。だから、兎さんが謝る必要はありませんよ」
一年前の事を懐かしく思いながら、僕は自分の思いをはっきりと告げる。最近の兎さんは僕に関わることで責任を感じすぎだ。そんな、いらない責任まで負う必要は無いのに。
「……そう」
僕の思いが通じたのかどうかは分からない。兎さんは、ただそれだけ言って眉を下げ、苦笑を浮かべるだけだった。
それから明紀が目を覚ましたのは二日程経過してからだった。
目覚めない明紀の隣にいて、僕は初めて待ってる側の気持ちを知り、銃で撃たれ昏睡状態だったときのことを不可抗力とはいえ、少し申し訳なく思った。
つまり、死ぬほど心配して、明紀が目覚めた瞬間歓喜にわいたのだった。




