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人間掃除人  作者: 影都 千虎
二掃目
41/73

16

 警察への連絡を済ませると、蜂は僕の車椅子を押して歩き出す。そしてポツリと言うのだった。

「全然気分よくないのな」

「え?」

 身体を捻って蜂の顔を見てみると、とても不満そうな顔をしていた。気分? なんの話だろうか。

「人を殺すって、気分悪いもんなんだなって思ってさ」

 疑問が顔に出ていたのか、蜂は僕の顔を見るなり苦笑してそう言う。そりゃあ、人を殺して気分がよくなるなんて頭のネジがぶっ飛んでるよ、と言おうとしたのだけれど、蜂の次の言葉がそれを許さなかった。

「最初に熊を見たときは楽しそうだったんだけどな……おかしいな、やっぱり慣れの問題か?」

「…………」

 最初に蜂が僕を見たとき。蜂と出会った日。僕は僕を誘拐した二人を掃除した。車を破壊し、二人の手を破壊し、許しを乞う男の頭を破壊した。あのときの僕が、楽しそうに見えた、だって? 僕はあのとき、自分が死にたくなかったから行動したはずだったのに。……いや、本当にそうだったか?

 冷静になって考えてみる。しかし、考えても考えても、答えは出てきそうになかった。あのとき、僕が何を考えていたかなんて全く分からない。覚えていない。

「楽しそうに人を殺す奴に殺してもらえれば、このクソゲーも少しは面白かったんじゃないかと思ってたんだけどな」

「……歪みすぎだろ。怖いわ」

 とんでもない事を言う蜂に苦笑しつつ、僕はこれ幸いと話題をそらすことにした。この話題はあまりよくない気がする。つい最近、『人を殺すことが楽しい』という結論に至る思考をしたような気がするのだ。それが何時だったか全く思い出せないけれど。でも、その思考がよくないものだったということだけは分かるのだ。

「今でもリセットしたいと思ってるのか?」

「ん? んー……そうだなぁ……いつ殺されてもおかしくないって現状に満足してるし……いくところまでいきたい、かな」

 お前が変えたんだぜ、と蜂は笑った。僕は「そんな言い方するとまるで僕ら青春してるみたいだな」と返した。漫画のワンシーンみたいだ、と思ったのだ。青い春。いい響きだ。今は真冬だけど。


 そのまま僕たちは下らないことを話しながら帰路につく。学校が同じということもあり、学校の先生のネタで案外盛り上がったり、来年の修学旅行の話で盛り上がったり、今年の文化祭についての批評があったり、迫り来る学年末テストへの絶望があったりと、中々楽しいひとときだった。同じ学校の友人っていいものだな、と心の底から思うことができた。

 それなのに、楽しいひとときには突然水が差される。どうして邪魔されるのだろうか。なんて考えている暇はない。

「…………なあ」

「うん」

 蜂が足を止めたため、当然僕も止まる。蜂の声は鋭い。きっと目付きも鋭いことだろう。僕だって思わず眉を寄せてしまう。そんな光景が止まった僕たちの目の前に広がっていた。

「……アぁ、見ツかッチャっタ。イヤ、見つかッテなイカモ? どうセ、君たチハ、こっチノ姿を認識出来ナイ」

“それ”は僕たちを見るなりゆらりと笑って言う。その声は男とも女とも年寄りとも子どもともとれる、歪んで入り交じった気持ち悪いものだった。

 声以上に気持ち悪いのが外見で、どういうわけか“それ”の周りだけ空間が歪んでいるような気がした。宣言通り、姿を認識することが出来ない。“それ”が人なのかどうかも怪しいレベルだ。

「……アンタが見えなくても、ソレは見える」

 蜂は、そんな見ていて明らかに酔いそうな“それ”に指を突きつける。否、正確には“それ”の手と足元だ。

 真っ赤な水溜まり。そこに沈んだ滅多刺しにされた人間の身体。ここが殺人現場だと即座に判断できる者は一体どれだけいるのだろうか。“それ”が持っているのが人の生首だと気付いて、悲鳴をあげない者が一体どれだけいるのだろうか。

「……もしかして、例の通り魔……?」

 死体を見てふと思い至ったことを口にしてみる。すると“それ”が更に口を歪ませた。ような気がした。

「安心シなヨ。君たチハ、殺さなイ」

 だからオヤスミ、と言われたような気がするけど真偽は定かではない。聞き返す暇もなく、僕の意識はそこでぷっつりと切れてしまったのだから。

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