05
詳しい話を聞いてみると、土曜日に僕と蜂は立てこもった三人組を掃除するために銀行へ行ったらしかった。そして、そこで、僕は三人組の内一人に不意打ちで、拳銃で撃たれてしまったらしい。蜂は鉄パイプで殴られて意識を一瞬失っていたものの直ぐに取り戻して、犯人が僕に気をとられている隙に蜂特性の試験管の中身をお見舞いしてやったんだとか。その後直ぐに渡り鳥さんから話を聞いて駆けつけた兎さんが到着し、残りの二人を片付けたらしい。
「あのときは私も我を失っちゃってたわ」
「後片付けの警察の人たちが怯えちゃってんだぜ」
兎さんは恥ずかしそうに、蜂は懐かしむように笑いながらそんなことを言うけど、全く笑える話ではない。兎さんはどんな掃除の仕方をしたのだろうか。真っ二つになった人間の絵面がそんなに衝撃的だったのだろうか。確かに、内臓とか中にあるものが見えるしはみ出しちゃうしで目には優しくないと思うけれど。実際に、見たことはないが。
そんな、和やかではない会話で和やかムードが漂っている一方で、一人難しい顔をしている人物がいる。明紀だ。いつもヘラヘラしているくせに、こういうときばっかり難しい顔をする。一体、何を考え込んでいるのやら。
「明紀? 腹でも減ったのか?」
僕は茶化すように訊いてみる。
しかし、眉間にシワまで寄せた明紀はそのシワを戻さずに、僕の冗談にも乗らず、真面目なトーンでこう言った。
「いやぁ、な……それ、精神的ショックとかなんかで記憶消えてるんじゃねーかなって思ってよ。なんだっけか……」
そこまで言うと明紀は目を閉じ、少し上を向き、数秒間そのままでいた。そしてその数秒間が過ぎたあと、明紀は閉じていた目を開き真っ直ぐに僕を見た。「心的外傷後ストレス障害」
ピッと僕を指差して言う明紀の表情はいつになく真剣だった。
僕は明紀の言った障害について、名前だけなら聞き覚えがあるような気がしなくもない。それがどういうものなのかは全くと言っていいほど知らなかった。でも、字面的に精神上よろしくないものだということだけはよくわかる。
心的外傷後ストレス障害。
言い続けなければすぐにでも忘れてしまいそうだ。
「よく考えたら、そうよね……」
兎さんはとても深刻そうな、申し訳なさそうな顔で僕を見る。
「ごめんなさい。私が、もっと早くに……間に合ってさえ居れば」
「……『たられば』の話をしたってどうしようもないですよ」
フォローになるかどうか微妙だけど、僕はなるべく明るい声で兎さんに言った。今のところ記憶云々以外はなんともないから、心的外傷後ストレス障害であると断言できるわけではない。それに、
「それに、兎さんが来てくれたから僕は助かったんだと思いますし」
もし、兎さんが来ていなかったら、僕と蜂はどうなっていたのだろうか。いくら一人を片付けたとはいえ、あとの二人に見つかり、僕は助からず、蜂も殺されてしまっていたのではないだろうか。そう考えると、兎さんは十分に、いや、十二分に間に合っていたのだと思う。
「ありがとうございました」
精一杯の誠意を込めて僕はお礼を言う。すると兎さんは困ったような顔をした。
「どうして私が慰められちゃってるのかしら」
「気に病んでるからじゃないですかね」
正直なところ、死んでいたかもしれないとか、精神的にやばい状況かもしれない状況に置かれている僕は、実感がわかないのでとても楽観的なのだった。だから、兎さんに落ち込まれてしまうと戸惑ってしまう。
「気楽に考えて下さいよ」
だから、自分のことなのにこんな無責任な発言をしてしまったのかもしれない。




