04
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ずっと眠っていたい感覚に囚われたけれど、今すぐに目を覚まさないといけないような気がして目蓋を動かす。重い。中々目蓋は持ち上がってくれない。意識はあるはずなのに、中々身体が起きようとしてくれない。どんだけ怠惰なんだ、僕の身体は。
やっとのことで目蓋を持ち上げると、見知らぬ天井が広がっていた。更に首を動かしてみると、知らない部屋の知らないベッドに寝かされているのだということを知る。多分、ここは病院だろう。目を覚ましたら知らない部屋にいた場合、大抵そこは病院だ。漫画や小説がそうなのだから間違いない。
「起きた!!」
何故僕は病院のベッドで寝ているのだろうかとまだ寝惚けている思考を動かそうとしたところで、そんな叫び声がして全てを遮った。
僕の思考を遮った人物は何やらガタガタと慌ただしい派手な音を立てて部屋から出ていく。そして直ぐに数人分の足音を連れて戻ってくる。
白衣を着たおっさんに色々と質問をされて、戸惑いながら答えると、おっさんは満足そうに部屋から出ていった。残された僕たちは、ここでやっと会話をすることになる。
「よかった!!」
「うぇ……?」
右の脇腹の辺りにひきつるような痛みを覚えつつ身体を起こしてみると、兎さんの熱烈なハグにより再びベッドに寝かされる形になった。支えられるわけがない。痛い。すごく痛い。
「心配、したのよ!? 本当……ッ、本当に……!」
見れば兎さんはボロボロと大粒の涙をこぼしており、僕は反応に困る。でも、こんなに泣かれるほど心配してもらっていたのかと思うと、どこか温かい気持ちになれた。罪悪感が凄いけれど。
アイコンタクトで兎さんのやや後ろに立っている蜂に助けを求めてみたのだけれど、アイコンタクトが通じなかったのか蜂は「よかった、よかった」と言わんばかりに頷くだけだった。せめてどうしてこんな状況になってるのか説明してくれよ。
「起きたって聞いたんだけどー!」
そこに更に一人騒がしいのが騒がしく扉を開けてやってくる。明紀だ。
明紀は兎さんに抱き締められた僕の顔を見ると、ほっと安堵の表情を見せた。こいつがこんな顔をするなんて珍しい。つまり、僕が相当な状況におかれていたということを意味していると考えていいだろう。一体、僕は何をやらかしたんだ。
「腹と足は平気なのか?」
僕を兎さんから解放してくれるなんてことはせずに明紀は訊いてくる。僕が素直に「いや、痛いかな」と答えると、明紀は苦笑しつつ「そうだよな。銃でぶち抜かれてりゃいてえよな」なんて言ってきた。
……うん?
ぶち抜かれた?
信じられないような言葉が飛び出してきたが、どうやら嘘ではないらしい。本当に僕は病院に来る前何をやっていたんだ。良いことではないのは確かだけれど。
思い出そうといくらか頭の中を探ってみても、それらしき記憶は出てこない。僕の記憶は、いつも通りの何事もなく終了していったつまらない金曜日まででストップしていた。何事も起こらなかった金曜日には当然激しい銃弾戦などは無かったので、僕が撃たれたのは恐らくその次の日。土曜日だろう。しかしどういうわけか土曜日の記憶はすっぽり消えてしまっている。僕が土曜日の朝を迎えたのかどうかも怪しいほどだ。
「……ッ、一週間、も、起きないから……みんな、心配してたのよ?」
未だに大粒の涙を溢しながら兎さんは言う。僕から離れようとはしない。僕はこんなにも兎さんに愛されていたのか。
って、そうじゃなくって。
一週間という時間は僕に衝撃を与えた。実感は全くないけれど。確かに、そんなに長い間眠りこけていたら心配するだろう。心配に値するような人間であれば、という条件がつくけれど。悲しい話だ。




