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人間掃除人  作者: 影都 千虎
二掃目
27/73

02

 警察の皆さんは僕の提案を受け入れてくれたらしく、拡声器で何やら話している声が聞こえてきた。このぐらい大音量だと侵入がバレにくくてやりやすい。

「この辺でいいかな。蜂、心の準備は?」

 ハンマーを構えながら僕は問い掛ける。一度穴を開けてしまえば、もう戻ることはできない。逃げるなら今のうちだ。

「心の準備云々は大丈夫だけど、お前のそのハンマーが気になる。そんなもん無くても素手でいけるだろ?」

「素手でいけるから、それを隠すんだよ」

 蜂のようなタイプの能力には関係無い話だが、僕や兎さん、狐さんのような能力のタイプは、万が一一般人に見られてしまった場合を考えると、非常によろしくないことになる。異能力集団が殺しをしていると騒がれたら、その後活動することすら出来なくなるかもしれない。民衆の力は偉大なのだ。本気を出せば国なんて簡単に潰れてしまう。

 そうはならないために渡り鳥さんが考えたのが、あくまでも能力は武器があるから起動すると思わせることだった。僕ならハンマー、兎さんは日本刀、狐さんは拳銃がそれぞれ武器となっている。どういう能力なのか詳しく聞いていないから定かではないが、蜘蛛ちゃんはワイヤーやピアノ線などを持っているはずだ。どれも物騒で所持がバレたら問題になるような代物だが、そのお陰で能力のことは漏らさずに掃除をすることができる。こういう、一般人が多数いて殺す対象以外にも能力を見られる可能性がある状況に武器たちは活躍する。

 そんな説明を蜂にしてやると、蜂は少し面白そうに「なるほどな」と言い、少し間をおいてから「納得したから早く入っちまおうぜ」と僕を急かした。

 足止めしたのはどこのどいつだよ、と心のなかで毒づきつつ、僕は音をたてないように注意しつつ、ハンマーで建物の壁を叩く。すると叩いた部分の壁が砂となり地面に落ち直径二十センチ程の穴が開いた。あとはその穴を中心に、ツルハシで掘るように壁を崩していく。人一人が立って出入りできるような穴ができるまでおよそ一分半。能力をセーブしてた割には上出来だろう。

「なんでそんな面倒くさいやり方してんだ? 力任せにぶん殴った方が早いだろ」

「それをやって一回失敗したんだよ」

 壁に穴を開けるなら全力で壁を殴ればいいと思ってやった結果、殴った壁一面が消失してしまったあの日の事を僕は忘れないだろう。建物の規模や強度にもよると思うけれど、こういう隠密性が求められる場面でそんなヘマをするわけにはいかないので慎重にならざるを得ないのだ。

「こえー。人間兵器かよ」

「触っただけで建物丸々燃やせる狐さんよりはマシだろ」

「放火し放題じゃん。すげーのな」

 無邪気に言う蜂。本当に発言から悪意というものを感じられないので若干反応に困る。


 なんて楽しく雑談をしている場合ではないので、僕たちは開けた穴からこっそりと中へ侵入する。あかない扉があったら壊してこじ開ければいいだろう。問題はここが銀行のどの辺で、犯人たちと遭遇するまでどのくらいの距離があるかわからないという事だった。

 周囲を十分警戒しつつ、何時でもハンマーを振り回せるようにしておきながら蜂と二人で銀行内部を進んでいく。遠くから拡声器で騒ぎ続ける声が聞こえたが、銀行内部は不気味なほど静かだった。恐怖に耐えかねて強行手段にでたという割には随分と冷静だ。嫌な予感がする。元々、お化け屋敷のように静かな空間をドキドキしながら歩くというのは苦手なのだ。何か違う方法を考えて、状況を変えよう。

「蜂、一先ず――」

 こっちが待ち伏せして、釣った相手を片付けるという案を提案しようとしたところで、ゴッと鈍い音が響く。隣の金髪が一瞬で視界から消え、何かが倒れたような音がした。

「お前らが――」鉄パイプを持ち、目だし帽で顔を隠した男が呟くように言う。「掃除人って奴か」

 ニヤリと男が笑ったような気がした。

 隣にいた蜂が突然殴られたという事実が縛っているのか、僕は動くことができない。重い。手足に鎖が絡んでいるようだ。

 迂闊だったまずいどうしよう蜂が怖い掃除を殺す犯人男大人重い動け考えろ考えるな腕を振るだけだハンマーを――

 思考がぐるぐると回る。多すぎる思考は完全に動きを止めてしまう。それを断ち切るように、全てを崩すように、重い腕を無理矢理動かしてハンマーを振る。

「させるかっての」

 僕がハンマーを振り切る前にパンッと乾いた音が二回ほど響き、気付いたときには僕も床に倒れていた。

 どくどくと、自分から何かが零れていくような感触。痛いというよりは熱いという方が正しい。違う、痛い。痛みのあまり呼吸が上手くできない。何が起きた何が起きた何が起きた。

 そこにあるのは死と恐怖。僕たちと男は完全に立場が逆転しており、いつの間にか僕は狩る側から狩られる側へシフトチェンジしている。男が持った黒い拳銃が煙を吐いていて、何が起こったか理解すると同時に激しい痛みが僕を襲った。

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