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二月七日土曜日。
僕と蜂は昼間だというのに仕事が入り、二人で仲良く相手が待つ銀行へ向かっていた。渡り鳥さんとしては、本当は狐さんか兎さんに任せたかったようだけど、暇なのは僕たち二人だけだったのだ。やむを得ず、という形である。
「掃除人という恐怖に耐えかねて強行手段に……ねえ。昼間から元気だな」
渡された資料の紙を眺めながらつまらなさそうに蜂は言った。蜂にとってはこれが初仕事の筈なのだけれど、随分と落ち着いている。僕よりも長く掃除人をやっていたのではないかという落ち着きっぷりだ。
「昼間だから行けると思ったんじゃないの? 大方、白昼堂々銃を乱射できれば殺られる前に殺れるとか思ったんだろ」
「そんなもんか」
「そんなもんだよ。僕たちの能力は知られてないからね」
本来なら。と僕は小さく付け加える。蜂に聞こえているかどうかはわからない。
つい最近、警察のお馬鹿さんが僕たちの事をターゲットに教えてしまってることが判明したし、そのターゲットは僕の事を知っているというまさかの事態も発生して拘束され誘拐されたことだし、相手が何処まで僕たちの事を知っているかわからなくなってしまった。でもまあ、どういう状況になったにせよ僕たちが負ける、つまり死ぬことはそう無いだろう。よく考えれば、僕は相手に一回触るだけで終わるのだ。蜂なんて相手に水をかけるだけで終わる。油断は大敵だが、余裕がかなりあるのは確かだった。
「状況を教えてもらってもいいですか」
銀行に到着すると、僕は資料と共に渡された紙を警察の皆さんに見せびらかしつつ言う。この紙は掃除人としての身分を証明するもので、この事件に関する処分は掃除で解決すると警察の上層部が決定した事を意味する。つまり、この紙があれば僕たちがこれから行うことは殺人ではなくなり、僕たちの発言が警察すべてを動かすことになるのだ。悪用しようと思ったことはこの一年間一度もないのだけれど。
「犯人は三人のグループで、全員銃を持っております。何名か銀行職員が人質となっており、人質は全て目隠しをされている模様。突入したら人質を全員殺すと言っていますので、此方から行くのは無理かと」
僕たちを見て驚いたような顔をしつつ、確りと丁寧な説明をしてくれる警察の人。初めて僕を見て「ガキは引っ込んでろ」と言わない人は初めてかもしれない。いい人だ。
「じゃあ突入がバレなきゃ人質は無事ですよね。建物に、人が出入りできる程度の穴が開いても大丈夫ですか?」
こんなとき、狐さんや兎さんだったらどうやって事件を解決するのだろうかと思いながら僕は確認する。狐さんと兎さんの能力はそれぞれ『触れた場所から発火させる』と『触れたものを真っ二つにする』だ。初めて聞いた頃は二人は忍者かとはしゃいだものだ。懐かしい。
僕の発言に警察の人は困ったような顔をする。蜂だけが僕の意図を掴めたらしく「その紙がありゃ俺たちが一番上なんだろ? 確認とらなくても大丈夫じゃねーの」なんて口を挟んでくる。そういえばそうだった。
「じゃあ、僕たちはこっそり侵入するので、表で拡声器とか使って犯人の説得とかしててくれますか? ほら、ドラマとかでよくあるやつ」
警察の皆さんの反応を待たずに、僕は蜂に「行こうか」と呼び掛けてその場を離れる。目指す場所はドアも何もないような銀行の壁。パーカーから折り畳み式のハンマーを取り出しつつ、野次馬に揉まれながら僕たちは大回りでそこに向かった。




