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人間掃除人  作者: 影都 千虎
一掃目
19/73

18

 一番最初に脱落したのは狐さんだった。

 しかし、これは脱落とカウントしてはいけないだろう。狐さんは闇鍋のあまりの不味さに脱落してしまったのではなく、他の要因で脱落せざるを得なかったのだ。

「もう潰れちゃったの? 残念ねー……張り合いがほしいわ」

 その原因が、これ。

 暗くてよく見えないが、きっと兎さんと狐さんの前にはそれなりの数の空き缶や空き瓶が転がっているはずだ。そう、狐さんは兎さんに付き合ってビールや日本酒、チューハイなどをちゃんぽんする羽目になったのだ。元々狐さんはあまりお酒に強くないと言う。対して兎さんはかなりの強さだ。酒豪または酒仙と言っていいだろう。酒豪と酒仙、どっちが強いのか僕にはその違いがわからないのだけれど。

 そんな兎さんに付き合えば、狐さんは当然潰れてしまう。机に突っ伏して寝てしまったのでまだ良かったが、気持ち悪いと言って吐いてしまったらとても困る。僕は貰いゲロをするタイプなのだ。大惨事になりかねない。……まあ、今吐かなくても、確実に狐さんは明日二日酔いに襲われるだろうから、明日しこたま吐くことになるのだろうけれど。胃に優しいものを料理ができる人に頼んでおこう。僕には無理だ。

 と、いうわけで、闇鍋我慢大会参加者は僕を含め残り四人(チーズが嫌いらしい兎さんは元から参加していなかった。卑怯だ)。四人でこの鍋が空になるまで、或いは最後の一人になるまで続けなければならない。鍋の量を考えると、気が遠くなりそうだ。まだ三順もしていないのだが、早くもギブアップしたくなる。

「……誰だよ、鍋に大福なんて入れた奴……!」

 左目を若干潤ませて恨めしそうに蜂は言う。口元に手を当てて、とても苦しそうな表情をしていた。やめてくれ、ここでだけはリバースしないでくれ。

「ちなみに俺様じゃねーぞ……!」

 なにも言っていないのに、明紀が身の潔白を訴える。額に手を当てて大きく深呼吸をしているため恐らく言っていることは本当だろう。こちらもかなり大変なものが当たってしまったようだ。

 勿論僕も大福なんて危険物は入れていない。となると、犯人は狐さん、兎さん、蜘蛛ちゃんに絞られる。しかし、内面はかなり真面目な狐さんがこんなものを入れるとは思えない。となると……

 顔をあげ蜘蛛ちゃんを見る。蜘蛛ちゃんは僕の視線を感じると、スッと目をそらした。つまり

「お前が犯人か!」

 叫んだのは僕ではなく蜂。蜘蛛ちゃんは更に顔も背けて僕たちを見ないようにしていた。ここまで分かりやすい反応を蜘蛛ちゃんがするとは珍しい。いつも無表情で反応も薄いから新鮮だった。……って、そんなことは今どうだっていいんだ。

「なんでこんなことをしたんだ! 動機は!」

 事情聴取風に蜂が蜘蛛ちゃんを問い詰め始める。しかし蜘蛛ちゃんは顔を背けたまま何も言おうとしない。

「証拠はあがってんだ、言って楽になれよ! 楽しそうだったからか? そうなのか?」

 明紀まで乗っかって茶番は続く(棒読みだけど)。強めに机を叩いて威嚇をしつつ、立ち上がって蜘蛛ちゃんに詰め寄る。すると蜘蛛ちゃんは、相変わらず顔を背けたままだが小さく首を縦に振った。犯人が自白した瞬間だった。

「なんて茶番やってても闇鍋は終わらないけどな」

「言うなバカ! 折角気が紛れてきたってのに……俺様の演技が不満だったか?」

「不満も何も棒読みだったろ」

 明紀に演技は向かないと分かった瞬間だった。対して蜂は中々上手い。この演技力なら掃除するときに使えるだろう。僕が偉そうに言えたことじゃないのだけれど。

 しかし、明紀の言う通り少しだけ気が紛れたのは確かだった。絡み付くような気持ち悪さが少しだけ忘れられたような気がする。この隙に次の具材を取って食べて味わわずに飲み込んだ方がいいだろう。明紀たちも同じことを考えたらしく、無言で鍋の中身を取り皿に盛る。そして一呼吸おくと、僕たちは意を決して取り皿に盛ったものを口に放り込んだ。

 カラン。と箸が転がる軽い音がする。

 次の瞬間、タイヤが強く床を擦る音がして、慌ただしくドアが開けられ、そして乱暴に閉じられた。

 つまり蜘蛛ちゃんが脱落したのだった。

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