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4、主人公、婚約を了承する。

 なぜか国王様はわたしに顔を近づけてきました。またですか!? 勘弁して下さい!


「君の反応とかが面白くて、割と本気で結婚したくなってきちゃったんだよね。そんな訳で、このまま君を婚約者にしておきたいんだけど。ダメ?」


 国王様は小首を傾げながらわたしに訊ねてきます。

 どうして可愛らしさを演出するのですか!? 訳が分かりません。


「嫌です! わたしは絶対に元の世界に帰ります!!」


 わたしは目を(つむ)って顔をそむけ、国王様の胸を押しやりました。


「ええっ、そんな……どうして!」


 国王様は押しやられたせいか、ショックを受けたような顔をします。


「当たり前ですよ! だって国王様、わたしのことを勝手に婚約者にしてくれちゃったじゃないですか!」


 怒りを露わにして国王様に詰め寄ると、国王様はまっすぐこちらを見つめ返してきます。


「仕方ないだろ、ああでもしないと君、実験動物扱いだったかもしれないんだぞ!」

「……えっ?」


 わたしは驚いてしまいました。


「サアヤは勇者じゃないのにこの世界に呼ばれた。ということは、原因を探るためにも、体を調べられるだろうな。それに異世界人で身寄りもないから、下手をすると実験失敗などと言って殺される可能性だってある」


 その可能性を知って、わたしは顔を青ざめました。

 この世界でわたしが頼りにすることができる人物は、今の所この国王様しかいません。しかもその国王様だって、わたしをかばうことが自国にとって不利益な場合、容赦なくわたしを切り捨ててしまうでしょう。


 ――わたしにはこの世界に、無条件に頼ることができる人がいません。


 その事実も、わたしの心を深く傷つけるものでした。けれどこの状況では、ずっと傷ついてばかりではいられません!


 ――元の世界に帰るまで、あらゆるものを利用して、生き残ってやります!


 わたしはそのことを強く心に刻み込みました。

 ……そうは言ったものの、問題は山積みなのですが。あははははっ……。


 ちなみに、国王様の話はわたしを婚約者にした理由を、次のように語りました。


「大勢がいる前で僕の婚約者にする、と言っておけば、むやみやたらと手を出せないからね。手を出したら僕が首を飛ばしてやる」


 ありがたい話ですが、それもいつまで続くのか……いまいち信用しきれませんね。それにわたしが好きだとも言っていましたが、本当かどうかも分かりません。


「結婚はしなくても構わないから、今は婚約者でいて欲しいんだ。出来る限り君を守りたいから」


 一国の王様からちゃんとした理由を言われて、うなずかない訳にもいきません。それに国王様なら利用するにしても、なかなか利がある相手です。

 わたしがうなずくと、国王様は見ていられないくらいのそれはそれは甘い笑顔を見せます。


 ――イケメンビーム!!


 相変わらず心臓に悪い人ですね。多少慣れてはきましたが。


 ――わたしへの干渉を減らすには、わたしの名前と容姿がこの世界で知れ渡ればいい訳ですよね! そうすればこの婚約は解消できるはずです。


 いくら相手を利用する決心がついたとしても、仲良くなりすぎれば、わたしは情や状況に流されてしまうかもしれません。

 それに状況次第では、無理矢理結婚させられてしまう可能性もありますからね。


 今は早く有名になることが先決ですね!

 わたしは内心でそんなことを考えながら、浮かれきっている国王様に向けて、これだけは言っておきたいというものを、言っておくことにしました。


「婚約を受け入れてもいいです。ただしお互いに恋愛にも結婚にも発展しないことを約束していただけるのならば、ですが。それでも構いませんか?」


 わたしがそう言うと、国王様がひどく不思議そうな顔をします。


「結婚の方は分かるけど……恋愛をしてはいけない理由を教えてもらってもいいかな?」


「ひとつは元の世界に帰る時に、誰も傷つけたくないからです。二つ目は、恋愛をしている時間があったら、その時間に他のことがしたいです!」


 きっぱり、はっきり、元気に言いました! 恋をしている時間があったら、元の世界に戻る方法を探す方が、よっぽど有意義ですからね! ああ、心の底から言いたかったことが言えて、ちょっとすっきりしました!


「……まだおこちゃまなんだな」


 国王様は残念そうな顔をしながら、小さな声で、何かをぼそっと呟きました。


「えっ? 何か言いました?」


 わたしはよく聞き取れなかったので、国王様に対して思わず聞き返してしまいました。


「うん? 構わないよ、と言ったんだ」


 その割には、獲物を狙う肉食獣のような目をしているような気がしますよ!? どう見ても諦める気はなさそうなのですが。わたし、大丈夫なのでしょうか……?

 まぁ何かを仕掛けてきたら、最悪、天然なふりをして回避、ですね。



「それに君には、勇者ではなくても異世界人だから、魔王の復活間近で活性化している魔物たちを倒す手伝いをしてもらわないといけない。だから、僕が選抜した護衛と侍女付きで、数日のうちに旅に出て欲しいんだ」


「数日のうちって……随分(すいぶん)急ですね、国王様!」


 あまりに急な話だったので、胸中では驚きと不安な気持ちが入り混じってしまいました。


「フランシスって呼んでって何度言ったら……。はぁ、まぁこちらにも色々と事情があってね……」


 国王様は国王様なので、全く名前を呼ぶ気もありません。


「あっ、そうなのですか」


 裏事情を聞いたら即王妃でしょう。回避、回避。


「もちろん君の旅の間も物資などの援助を十分にする訳だけど、冒険者になってくれても構わないよ」


 冒険者はいいかもしれませんね! 強くなれば有名になれますし、殺されそうになったり捕まりそうになったりしても、返り討ちにできるかもしれませんから。


 そんな訳でわたしは、旅に出て冒険者になることにします!


 サアヤちゃんは、自分で普通の人と言っている割には、書き直し前も後も、精神的にはかなりタフですね。しかも書き直し後はなぜか強かな女性になりました。

 国王様が説明してばっかりなので、そろそろ退場してもらいましょうね。

ちなみに国王様は当分出す気がありません。


2013/08/22 若干加筆

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