3、主人公、勝手に婚約者にされる。
この話、どうなってしまうのでしょう……。なんだか前より恋愛色が強くなっているような気がします。どうしてくれるんですか、国王様!!
なお今回は、シリアス成分が多めですので、ご注意ください。
「なんでそんなことしちゃったのですかぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
トラックに轢かれかけたと思ったら、良く分からない場所にいて、知らない国の国王様に会わされた上に、勝手に婚約者にされていたのですよ!?
訳が分かりません。というか分かりたくもありません。
正直、もう泣きたいです。というかこれ、絶対に泣いていいですよね? ……泣きます。
行儀が悪いことは分かっていますが、わたしは泣き叫びました。
けれどそんなことをしても何の解決にもなりません。ただ今は、無性に泣きたくなってしまったのです。
国王様は泣きだしてしまった私を見てあたふたしながらも、わたしをなだめようと、またわたしが座っているソファーの横に座りました。頭をなでてきますが、そんな国王様の胸板を思いっきり殴りつけます。
そもそも勇者を召喚しようとしなければ、ここにわたしはいないはずです。あぁ、でもわたしはトラックに轢かれかけていました……。そう考えると、国王様は命の恩人なのかもしれませんけどね。
「ううう、ごめんね。この国の政治上の問題とか、側近が早く結婚しろとうるさくて。元から異世界から召喚した勇者と結婚する予定だったんだ」
……異世界? 勇者?
わたしはその単語を聞いた途端、急に涙が引っこんでしまいました。
なぜかと言いますと、異世界とか勇者って単語を聞くと、中二病ですか? って聞きたくなるからです! もう、条件反射ですね。
そしてそんなことを考えだすと、普段通りの思考が戻ったようです。わたしは異常事態の最中、自分でも驚く程冷静に、物事を捉えようとし始めました。
「……そもそもわたしは何のために、ここにいるのですか?」
急に態度を変えたわたしを、国王様は驚いた顔で見つめます。でもわたしの真剣な眼差しを受けて、国王様もわたしの顔を真剣に見つめ返して答えてくれます。
「この世界は、君が住んでいた世界とは全く違う世界なんだ。この世界には二百年周期で蘇る魔王がいる」
この世界はまるでロールプレイングゲームのような世界なのですね。通りで国王とか騎士のような人たちがいる訳です。
「ただその魔王は、この世界に深く根付いてしまっていて、この世界そのものになってしまっているんだ。だからこの世界の人間が魔王を殺そうとしても、世界を消すことはできないから存在ごと消失させられてしまう」
なるほど、そういう訳だったのですね。
「つまりわたしは、その魔王を倒すために召喚された勇者ということですか?」
この世界に来た時、石造りの床には黒い何かで魔法陣のようなものが描かれていました。あれがおそらく召喚陣なのでしょう。
「……いや、サアヤ、君は勇者じゃない」
「……えっ?」
わたしは勇者じゃない? それは一体どういうことなのですか!?
「勇者なら、手の甲に何らかのアザを持っているはずなんだ。けれど君にはそれがない」
確かにわたしの手の甲には、アザと言われるようなものがありません。
「それならどうしてわたしは、ここにいるのですか!?」
「……ごめんね、分からないんだ。過去五回の勇者召喚は全て成功していて、今回も文献を元に全く同じように行ったんだよ」
「……」
……わたしは元の世界に帰れるのでしょうか? 不安で仕方がありませんが、先ほど倒れ込んだばかりです。今は現状把握のためにも、絶対に倒れる訳にはいきません!
それに今倒れたら、また国王様に都合よく物事を動かされかねませんからね!
「大丈夫。今魔法陣の解析をしてもらっているから。それに本物の勇者が召喚できれば、魔王を倒せた時に元の世界に帰れるはずだよ」
そう言って国王様はわたしの両手を握ってくれます。
「……あれっ?」
そしてわたしは国王様の話を聞いていて、ある重大な事実に気がつきました。
「国王様、さっき元から異世界から召喚した勇者と結婚する予定だったんだ、と言っていましたよね? ということは、召喚された勇者はこの世界に残れるのですか?」
国王様は顔を歪めました。
「ちっ、気づいてしまったか。説明するのがめんどくさいな……」
「!?」
気のせいですか、なんだか国王様としてはあるまじき暴言が聞こえて来たのですが!? なんでこんな人が国王やっているんですか!?
わたしがいぶかしげな目でじっと見つめていると、国王様は何事もなかったかのように再び話し始めます。
「実はね、今までいた勇者は全員、この国の王子や王女、国王等と結婚して子供を産んでいるんだ。その後に元の世界に戻った勇者もいるね」
国王様の件は、わたしにはどうすることもできないのでひとまず置いておくしかないようです。
……ということは勇者が召喚されなければ、わたしが勇者の代わりに魔王を倒して、国王様と結婚しないといけないのでしょうか……。
正直お断りしたいのですが。この人、勝手にわたしを婚約者にしてくれちゃいましたよね!! わたし、まだそのことを忘れていませんから! 正直、恨んでいます。
「そもそも国王様は勇者でもないわたしを、どうして婚約者にしようと思ったのですか?」
まず、理由からして不明なのですよ。国王様、観念してさっさと吐きなさい!
「フランシスだってば。実際はめんどくさいお見合い話を断るためだったんだけど……」
そう言って、国王様はわたしの両手を優しく掴んで、大きなルビーのついた指輪をその両手の上に乗せました。
ちょっと、この指輪は何なのですか!?
――どう見ても高そうなのですけど!
なんだかんだ言いつつも、サアヤちゃんは勇者や異世界といったものが好きな子かもしれません。
2013/08/22 誤字訂正・若干加筆
2013/09/26 若干加筆