プロローグ2 ある平凡な村が燃えた日
残酷な描写、グロテスクなシーンが上手くなりたい。
間違えた
残酷な描写、グロテスクなシーン有ります。
宍色ってのはいわゆる肌色の事です。
昼飯というのは存在しない。
貧乏人は一日三食食べるなんて贅沢な事は出来ない・・・という理由が無い訳では無いけれど、基本的に朝と夜にがっつり食べて一日を過ごすのがこの村では一般的だ。都会では一日三食どころか、おやつという四食目があるという話を今は亡き両親から聞いて驚いた記憶がある。
まぁともかく、だからリジィが昼にうちに来るなんて事は本来はあり得ない事なんだ。
「どうしたの?誰か怪我した?」
息を切らせて飛び込んできたリジィに一番有り得そうな事を聞く、全速力で走ってきたのか完全に息切れしてしまっていて、僕の肩に手を掛けて寄り掛かる様に立つ彼女の喉からは「ヒュゥ、ヒュゥ」という吐息が漏れて聞こえる。苦しそうに絞り出した言葉は
「・・・がむれ・・・くる・・・」
「蒸れてくる?腋?」
そのまま脇腹を殴られた、崩れ落ちそうになる程痛い。リジィが肩を掴んでいるから崩れ落ちるどころか殴られた場所を押さえる事も出来ないけど。
んぐっと唾を飲み込んだ音がして再びリジィが口を開き
「バカな事言ってるんじゃない!こんな涼しいのに蒸れたりしないわよ!」
怒鳴られた
「でもさっき蒸れてくるって・・・」
「オークの群れがこっちに向かって来るって言ったのよ!どこの乙女が腋が蒸れるのを報告しに全力疾走するのよ!」
「ご、ごめんなさい」
あまりの剣幕に思わず謝ってしまう。一瞬そういう人もいるかも、と思ったが口にしたら殺されそうな雰囲気だった。
・・・そういえば何かの群れがこっちに来るって・・・?
「わかったらいいのよ、ほら、村長さんの所行くわよ。みんなでどうするか相談するんだって」
そう言ってリジィは僕の手を引いて走りだした。つられて足を動かしながら僕は何の群れってリジィが言っていたか、必死で思いだそうとしていた。リジィの剣幕が凄すぎてなんて言ってたか忘れたなんていえないよなぁ。
「遅くなりました!」
そう言ってリジィが飛び込んだ家には村長を始め、このテスバウ村の住人のほとんどが集まっていた。ほとんど、というのはフーリスさんと他数名がいないからだ。多分既に村の周りの警戒に出ているんだろう。
僕達が最後だったのようで、村長は全員の顔を確認する様に視線を動かした後おもむろに口を開いた。
「これで全員揃ったな。皆聞いておるだろうがオークの群れがこの村に向かってきておる。」
皆の顔色は先程から全く変わらず、緊張に強ばっている。当たり前だ、誰が自分たちの村が襲われるという時にへらへらしていられるだろうか。僕は自分の顔色が変わったのを感じた。正直言ってさっきリジィの言葉を聞き逃したのは幸運だったかも知れない。オークと聞いた瞬間全身に寒気が走り嘔吐感がこみ上げてきた、この状態でリジィに引っ張られていたら間違いなく吐いていただろう。
オークというのは人間の体に豚の頭を乗っけたような姿をした魔物だ。
あまり頭は良くないが、一見贅肉だらけに見える強靱な肉体とそれに伴う高い生命力を持っている。何より恐ろしいのはこのオークという魔物は雑食で、特に人間が大好物だという事だ。僕はこの魔物に特に強い忌避感を持っている。この世界の人間なら大なり小なり同じだとは思うが、僕のそれは人一倍で名前だけでこうして吐き気を覚える程だ。
「幸いオークは山の向こうから来とるそうでな、まだ時間はあるはずじゃ。村を捨てて逃げるぞ」
魔物でもゴブリンやコボルト程度なら何度か撃退もしているが、オークというのは本来騎士団とかが相手にする魔物だ、農民が戦う相手では無い。即座に村を捨てる決断を下した村長は正しかったんだと思う。
村長の背後の壁が弾け飛んだ。
木片に混じって何か赤い滴が飛んでいる。
壁を貫いたのは薄汚い斧だ、手入れなんか一度もされてないのだろう赤黒く錆びを浮かべるそれは刃を赤く染めていた。
「ブゴォ」
斧の持ち主が鳴いた。砕けた壁の向こうから平たく潰れた鼻を、真っ赤な瞳を覗かせていた。間違いない、オークだ。
「う、うわぁぁぁぁぁ!」
情けない声が口から漏れ出た。腰が抜けてそのままペタリと座り込んでしまう。後ろからは「キャー」だの「ひぇぇー」などの悲鳴が聞こえ遠ざかって行く、皆逃げたのだろう腰が抜けた僕を顧みる事無く全力で。
逃げられない僕の眼前で再び斧が振るわれ壁に開いた穴が広がる。二度、三度と繰り返されてようやく2mを越す巨体と豚の頭をもつ魔物が姿を現した。
「ブヒヒィ」
笑った、のだろうか。口元から溢れ出るあれは涎だろう、オークは人間が大好物だという話を思い出す。宍色のぶよぶよとした腕が床に倒れたままの村長に伸びた、むんずと掴んだそれはそのまま口元へと運ばれ、かぶりついた。
ぬちゃ、ぱきっと音がして村長の小さな体は更に半分にまで縮んでいた。
くちゃくちゃとしばらく咀嚼を繰り返していたが、口に合わなかったのか「ブフゥ」と不満そうに鳴くと「もういらない」とばかりに残った半分を放り捨てた。ベチャリと地面に落ちたそれを踏み潰して、オークがこちらを向いた。「喰われる」それ以外の事は考えられなかった。それ以外の事を考える余裕は無かった。逃げる事、戦う事、何も思いつかなかった。ただ目の前の圧倒的な暴力に殺される、その恐怖だけが僕を縛り付けていた。
「あはっ、あははっ、あはははははっ」
気が付けば僕は笑い声を上げていた。視界が滲む、下半身に暖かい感覚が広がって行く。顔面はぐしゃぐしゃで下履きは外からでも判るほどに変色していて、そんな無様な姿であっても、オークは僕に手を伸ばして来た。
僕は喰われて死ぬのか
そう思った瞬間、頭に霞が掛かった。自分以外の何もかもがあやふやでぼんやりとしか見えない。僕に向かって伸ばされた何かが、僕の背後から飛び込んできた灰色に切り飛ばされた。でもそんな事よりも大事な事があった。
曖昧な世界で自分以外にはっきりとしているものがある。
二足歩行していて、頭に一筋、馬のタテガミの様に青い髪を生やした子豚、子オーク、それだけが明白に見えていた。
「どうして僕の鼻は平たいの?」
以前どこかで聞いた言葉だ。
子オークの後ろで灰色が宍色の何かから赤い色を吹き出させていた。
「どうして僕の耳は大きいの?」
目を瞑っても子オークは消えなかった、耳を塞いでも声は消えなかった。
灰色が僕の肩に手を掛けて揺さぶっていて気持ちが悪い。
ふと、僕を揺さぶる手が止まった。灰色の背が縮んでいた。
赤いものがべちゃっと僕の顔を濡らして、目の前の灰色は赤い湧水になっていた。顔を濡らした赤色がつぅっと顔を伝って口を潤す、美味い。
湧水の向こう側に金色を乗っけた大きな宍色が見えた、灰色を湧水にしたのはあれだろうか、でもこんなおいしいものを渡したく無い。
「どうして僕の口は大きいの?」子豚が聞くので教えてやった。
「それはペロリと食べる為さ」僕は目の前の、湧水になった灰色にかぶりついた。
口の中に赤い滴が流れ込む、美味い!
噛むとブチブチと口の中で音を立てて内側から汁を溢れさせる、旨い!
真ん中にある堅い物も味が染み込んでいてウマイ!
そう、この灰色の・・・灰色の?
だんだんと世界が元に戻ってきた。辺り一面血の海に沈んでいて、僕を食べようとしたオークは腕を亡くし、腹の辺りを切り裂かれて倒れていた。そしてその奥の壁の亀裂からただのオークより更に巨大な、そして頭から王冠の様に黄金色の突起を生やしたオークが血塗れた斧を片手にこちらを見ていた。
でもそんなことよりも、僕が口にしているコレは何だ?
人間だ。
もう胴体のほとんどが食い尽くされ、辛うじて四肢がつながっているだけになった、人間だ。
そして僕は見つけた、オークの死体の側に、血の海に沈んだ、灰色の男の頭を。
僕はフーリスさんを食べた。
「ぶぉぉぉぇええええ!!」
気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い
嘔吐をするように、喉から全てを吐き出そうと、無かった事にしようと喉を震わせた。早く出せとせっつくように手で自分の喉を掴んだ。
何処かから「ぶひゃひゃひゃひゃ」と笑い声が聞こえてきたがそんな事に構っている余裕は無かった。何とかして吐き出そうと、元に戻そうと、僕は「ブゲェェェ」と声を上げた。吐瀉物は何も無かった。
辺り一面血の海に沈んだ中で嘔していた、涙は流れなかった。
「お父さん!サファル!」
声と共にバンッと音を立てて後ろの扉が開く音がした。
リジィの声だ、僕はゆっくりと首を回して彼女を見た。
謝りたかったのか、言い訳をしたかったのか、慰めてほしかったのか、それは分からない。ただリジィに何か言わなければいけないとと思って、彼女の目を見つめた。
「ひっ」と彼女の喉から声が漏れる。獲物なら血塗れでも気にしない彼女でも、幼馴染みが血塗れなのはやっぱり怖いのか等と頭をよぎった。
彼女に向き直ると彼女は一層怯えた表情で「来ないで」と震える声で叫んだ、血塗れで僕だと分からないのかなんて思っていた。
彼女の瞳が映し出した、僕の姿を見るまでは。
彼女の碧の目に映っていたのは、先程僕を殺そうとしたのと同じ生き物の姿だった。唯一の違いは眉間の辺りから後頭部へと一条の青い毛が生えている事だ、あの曖昧な世界で見た子オークと同じ姿、子オークがそのまま大きくなった様な姿、そんな姿の僕が映っていた。
「いやぁぁぁぁぁぁ!!」
「ぶわぁぁぁぁぁぁ!!」
悲鳴は同時だった。そして同時に彼女から炎が疾った。
火が彼女を守る様に渦を巻き、僕を、家を、周囲の一切を焼き払おうと吹き荒れた。
リジィは炎の愛児、炎に愛され過ぎる体質だと、同じ様に水に愛され過ぎる体質の水の愛児だったフーリスさんは言っていた。
触れただけで食材を炭にまで焼き尽くしてしまう程愛されたリジィへの愛は彼女を脅かす全てを灰燼へと帰すだろう。
とっさに落ちていた剣を拾う。フーリスさんが握っていたそれは多少なりとも火へのお守りになるだろうが、今の僕はそんな事を考える余裕は無く、ただ生存本能のままに体を動かしていた。
僕は逃げた、炎から、リジィから、彼女の瞳に映る自分の姿から。
オークが出てきた穴から外に飛び出るとすぐ後ろを炎が舐めた。村長の家を焼き尽くした炎は弾ける様に村に広がり方々から火の手が上がった。
逃げて逃げて逃げて、何処まで走っただろうか。
気が付けば何処とも知れない森の中に居た。後ろを振り向いても炎どころか煙一つ見えなかった。
安堵を覚えると同時に喉の乾きを覚えた僕は都合良く近くに湧いていた泉に近寄り、
水面に映った自分の姿に悲鳴を上げた。
水は豚の顔を映していた。
プロローグが終わりました。次回はこの物語のもう一人の主人公的な人物が登場するつもりです。
最初に考えていた展開から、書いてる間にどんどん変わって行くのが楽しいです。後はそれを上手く文章にする事ですよねー。せめて残酷な描写だけでも上手くなりたい。サファルが食べてるシーンとか凄く楽しく書いてたので上手く描写出来てればいいなぁ・・・




