伊勢の踊り子
重たいまぶたをそっと開くと、そこは伊勢海(異世界)であった。。
なぜここが伊勢海だと分かったのか。それは、目の前に可愛らしいグロテスクな大きいエビがいるからだ。
こんなに大きな海老は伊勢海老に違いない。端的に言うとそういうことだ。
そして、こちらをじっと見つめている。伊勢海老が。俺の目に穴が空くほど。こちらをじっと見つめている。
これはきっと恋である。
いや、間違いなく恋だ。でなければこんなに赤面しているはずがない。
しかし俺は人間。人間と伊勢海老の恋なんて聞いたことがない。
だが俺は愛す。全力で愛してみせる。食べちゃいたいほど好きだ。
俺はそっと抱き寄せ、柔らかく包み込んだ。そしてぎゅっと抱きしめた。捻り上げるほど抱きしめた。
殻がビキビキ鳴りながら剥がれていく。中から、それはそれは綺麗な、綺麗という言葉が似合う真っ白なお肌をのぞかせた。
軟な皮を剥ぎ、ついついその光り輝くお肌に甘噛みした。
するとどうだろう、口の中でじゅわぁっと甘みが押し寄せてきたとともにすっと身が溶けた。
ああ僕の愛しの伊勢海老よ、いずこへ行ってしまわれたのだ。
そのしなやかな身のこなしはまるで踊り子のようだった。
殻だけを残して、愛しの伊勢海老は姿を消した。
俺を包む潮の香とさざなみの心地良いリズムが、耳の中でただただ寂しく響いていた。