表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/24

第9話 軍

「俺の心臓を……」

「イラナイワヨ……コノママデ、イイワ」


 心臓をプレゼントしようとしたが断られた。

 女心はよくわからんな。

 アンはどうもこのまま行くようだ。

 確かに特に困ることはない。

 街に入る際どうするか悩ましいが、テイマー作戦で行くのも悪くない。

 ウェンディゴの姿は間違いなく一度は門番に止められるだろう。

 だが、若い半裸の美女を連れていても、同じくらい問題は起こるだろう。

 アンはとりわけ目立つタイプの美人だ。

 むしろウェンディゴ姿のほうが良いかもしれない。


「考えても仕方ないし、とりあえず歩くか」

「エエ……」


 アンと二人黙々と歩く。

 飯を食ている間はなんだかんだ会話も途切れることが無く、なかなか楽しい時間だった。

 だが、やはりウェンディゴの姿のままだと、アンも喋りづらいようだ。

 自ら声を発しようとはしない。

 それにしても……さすがに歩幅が大きいな。

 まるで大人と子供だ。

 アンはゆったりとした足取りだが、俺はやや早歩きで何とかついて行けるほどだ。

 いっそのこと、こいつの背中にのって走ってもらえばもっと早くつきそうだな。


「なぁアン、ちょっと思いついたんだが……」

「ナァニ?」

「あ、う~ん……いや何でもない」

「ソウ……」


 何となくだが、機嫌を損ねそうな気がする。

 アンを怒らせるとまずい。

 さっきの黒狼は酷かった。

 安宿のパンみたいに体を引きちぎられたくはない。

 別に急ぐ旅路でも無いしこのままでもいいか……。


「ナニカ……キタ」

「ん~? ああ~……、ありゃ軍だな。うげぇ……、めんどくせぇなぁ、戦争中かよ。雪が降る前に一発やる気なのか」

「グン?」

「しかしこれはまずいな。さすがに軍と正面からやりあったら俺達でも死ぬだろうからなぁ……。あ~まずい、まずいぞ……、どうするか……」


 すでに向こうもこちらの姿を確認しているだろう。

 俺はともかく、ウェンディゴ姿のアンは目立つ。

 どれほどの規模の軍隊かは分からないが、それでもそれなりに組織だった行動をしているように見える。

 偵察、索敵に長けた連中は必ずいるはずだ。

 今からでも全力で走れば逃げ切れはしそうだが、今後面倒くさいことになるかもしれない。

 適当に話をあわせてやり過ごしたいところだ。

 ただ、アンも俺も記憶がボロボロだ。

 あまりうまくできる自信が無い。

 なにか変なことを言ってしまいそうだ……。


「まぁいいか、全力でペコペコしてりゃ何とかなるだろ。よし、適当にいくぞ。俺テイマー、お前テイムされたモンスターな!」

「……ナンデモイイワ」


 アンと二人道のわきへと移動し座り込む。

 恐ろしいウェンディゴが、ぼんやりと丸太に腰掛けている姿はなんだか間抜けだな。

 だがこれはちょうど良いのかもしれない。

 警戒心を掻き立てるのが一番まずい。

 少し間抜けに見えるくらいでちょうどいいのだ。

 少なくとも敵意が無いことは一目でわかるだろう。

 全力で道を譲る姿勢を見せておきたい。

 ジワジワと軍隊の列が近づいてくる。

 荷物を載せたロバはいるが、馬に乗っているような奴はいない。

 そこまで大きな軍隊では無いようだ。

 遠目に見るかぎり……五百人くらいだろうか。

 細い列が延々と続いている。

 先頭集団はどんな連中だろう。

 大体そいつらを見れば軍隊の強さは予想できそうだが……。


「あれは……ちょっと勝てそうにないな。装備はそこそこだが、かなり戦いなれてそうな雰囲気だ。嫌だなぁ……」

「……」


 皮鎧主体で一部を金属で補強したような防具を付けている。

 あまり裕福な軍では無さそうだが、実戦向きの装備だ。

 牽制や脅迫目的では無く、本気でやりあうつもりだろう。

 雰囲気がおっかない。

 ロバの背に積んだ荷物は麦や水などの食料品は少なく、はしごや木材の部品のようなものが多い。

 引き返すつもりは無さそうだ。

 街を落とすつもりか……。

 だとすれば、元々住んでいた街は捨ててきたのだろうなぁ。

 敵対するとまずい連中だ。

 今の俺は力や死に難さでは負けるようなことはないだろうが、だからといって大した技術があるわけでは無い。

 ウェンディゴのアンであっても、この人数を相手にするのは厳しいだろう。

 このあたりの兵隊はモンスターにも慣れている。

 罠や飛び道具も使ってくるだろう。

 そのまま通り過ぎてくれるのが一番ありがたいのだが……どうもそうはいかないようだ。


「おい! お前たちは……なんだ?」

「あ? あ~はい。え~っと、俺は……テイマーで、こいつは俺のテイムしたモンスターです!」

「まさか……ウェンディゴ……なのか?」

「ええ、はいそうです。ウェンディゴですね! どこからどう見てもウェンディゴですよ?」

「あの化物を……テイムだと?」


 先頭の男たち二十人ほどが俺達を取り囲むように近づいてきた。

 迷いのない動きだ。

 全員しっかりと鉄兜を被り、重心を下げ、武器や盾を構えている。

 さっきのチンピラ連中とはまるで違う。

 ただ囲まれただけで、一気に戦場に放り込まれたような気持ちにさせられる。

 生きた心地がしないが……なんだかムカついて来たな。

 試しに斧でも投げつけてやろうか。

 話しかけてきたのは細身の男で、こいつだけは武器を構えていない。

 鼻が潰れ左目が無い。

 引きつったように頬がぴくぴくと動いている。

 表情がいまいちわかりにくいな。

 ウェンディゴと俺を交互に見比べている。

 一つ残った目がギョロギョロとよく動く。

 

「我々は……これよりグゼルの街を落とす。成功報酬で……銀二百でどうだ?」

「え? あ、えーっと傭兵仕事で?」

「そうだ」

「あ、ええ……はい。じゃあそれで……お願いします」

「ではよろしく。隊列の真ん中に黄色帽子のドワーフがいる。あとはそいつの指示に従え。行け!」

「は、はい、よろこんで!」


 唐突に傭兵として雇われることになった。

 まったくもってやる気は無いが、断れるような雰囲気でもない。

 もし俺が断っていたら、間髪入れずに襲い掛かってきたんじゃないだろうか。

 俺はともかく、ウェンディゴ相手に良くそこまで好戦的になれるな。

 よっぽど腕に自信があるのだろうか……。

 おっかない奴らだ。

 皆殺しにできないか考えてはみたが、アンと二人でも二十人全員を倒しきれるイメージは浮かばなかった。

 アンはともかく、俺の首は簡単に落とされそうだ。

 残念……だが結局どうにもならないだろう。

 たとえこいつらを何とかできたとしても、さすがに五百人を二人で相手するのは不可能だ。

 面倒くさいことになってきたなぁ……。

 さっきまでアナグマを和やかに食っていたのに……楽しい気分が台無しだ。

 横のアンを見上げるが骨面からは何の意志も読み取れない。

 ひとまず暴れださなくてよかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ