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第23話 帰宅

 女とその子供たちを連れ帰る。

 あれだけワクワクしていたのに、帰り道は気が重い。

 五人の娼婦と七人の子供。

 苦手な子供の泣き声がする。

 何でこんなことに……。


「フーさん……。ほんとうにありがとうございます。今は何も返せるものはありませんが、何とか仕事を見つけて……」

「ああ、確かに厄介なことにはなった。だが、まぁそんな気にしなくてもいいぞ」

「そういうわけにも……」


 黒髪の女が話しかけてくる。

 すぐ後ろから似たような黒髪の子供が顔を半分くらい出し、じっと俺を見ている。

 女みたいな顔をしてるが……たぶん男だな。


「いや、むしろ俺は何も考えていないから、いい具合にしっかりやってくれ。春にはガーラの街を出ていくかもしれんし、その前にも唐突に割の良い傭兵仕事が入って遠征へ出るかもしれん。住む場所は貸してやるし、食いもんも分けてやるが、あまり当てにし過ぎるなよ。森も近いから安全な暮らしとは言えんしな」

「それでも十分です! 少なくとも私は一生恩に着ます」

「まぁ腐れ縁だよ」

「ネリッサです」

「ええ?」

「私の名前はネリッサです。これからは名前で呼んでくださいね」

「ああ……」


 ネリッサは俺の目を見てにっこり微笑むと、彼女の幼い息子とともに、他の女たちと合流していく。

 力強く、したたかな笑顔だが、魅力的でもある。

 しかしこいつらと一緒に生活か……よく考えれば色々不味いかもしれん。

 家についたら俺達の事情についても軽く説明しとくか。

 場合によってはそれだけで逃げ出すかもしれんしな。

 めんどくせぇ……。


「クリスティーヌはクマだ」

「ん~?」

「フーさん?」

「いや、正確にはクマじゃなかったわ……。モンスターだ」

「えぇ……」

「そんな訳は……」

「フー、変身しようか?」

「そうだな。それが手っ取り早いか」

「あい」


 家に着いたので、まず俺達の説明から始めることにする。

 とはいえ説明するのはどうも苦手だ。

 俺が下手に話をするより、直接見てもらうのが手っ取り早い。

 だが、アンはウェンディゴになると心臓を調達する必要があり面倒だ。

 俺は俺でどう説明していいのか分からない。

 腹でも掻っ捌いて見せればいいのかもしれんが、痛いし手に入れたばかりの家の床が汚れるのは嫌だ。

 なので手っ取り早くクリスティーヌのクマ姿を見てもらうことにした。

 一番刺激は少ないだろう。


「なっ……」

「ひぃっ」

「あ、あぁぁ……」

「ほらな、クマだろ? クリスティーヌはモンスターだが、別に危害を加えるわけじゃないし、話もできる」

「できるよ~!」

「なのでまぁそう言うもんと理解してもらえるとありがたい。もしそのことに耐えられないのであれば、遠慮なく出て行ってくれ」

「……可愛いじゃないですか。あらためてよろしくお願いしますね、クリスティーヌさん」

「うん。よろしく!」


 やはりネリッサは肝が据わっている。

 驚いてはいたようだが、それも一瞬のことだった。

 すぐに笑顔を浮かべ、スタスタとクリスティーヌへ近づいていった。

 ただ内心はかなりビビっていたのだろう、差し出した手はかなり震えていた。

 クリスティーヌは気にした様子もなく、ネリッサをむぎゅと自分の腹へ抱き寄せる。


「お、お母さん!?」

「きゃっ! …………あっ、ふ、ふわふわしていて…………気持ちいいですね。ほら、あなたも触らせてもらいなさいよ。クリスティーヌさんには前にもよく遊んでもらっていたでしょう? いいでしょうか、クリスティーヌさん?」

「いいよ。フーも私の身体が大好きって言ってた」


 なんだか誤解を招きそうな表現だが、間違ってはいない。

 ネリッサの息子も恐る恐る近づき、クリスティーヌに触れている。

 その様子を見ていた子供達は、母親が止める間もなく駆け出し、同じようにクリスティーヌへとしがみついていく。

 あまり子供たちは怖がっていないようだ。

 もともとクリスティーヌとはよく遊んでいたようだしな。


「ちなみにアンや俺も同じようなもんだ。半分くらい人間やめてると思ってくれていい。ちなみにゼットは一番いかれてるが、普通の爺さんだ。ただし、知ってると思うが魔法使いだ。というわけでだ……、ちょっとこんな化け物屋敷には住んでいられないと思ったら今のうちだ、遠慮なく出て行ってくれよ」

「半分人間やめてるって……でも、それはむしろ信用できますね。一番油断ならないのは、結局人間ですから。私達のような……娼婦は、誰よりもよくそのことを知っています」

「なら良かった、ネリッサ……クリスティーヌはモコモコしてて可愛いだろ?」

「うちらだって別に気にしやしないね! 突然だったからびっくりしちまったけど、この家は森も近いし、むしろクリスティーヌみたいな強そうなのが一緒にいてくれるなんて心強いよ」

「えへへ~、そう?」


 どうやら特に問題は無さそうだ。

 内心どう思ってるのかわからんが、嫌ならいつでも逃げていけばいい。

 ただ様子を見るかぎり、少なくともクリスティーヌとはうまくやっていけそうだ。

 今も子供たちを全身にへばりつけている。

 その母親たちも恐る恐るクリスティーヌに触れていく。

 母親に抱かれた赤子さえも手を伸ばしている。

 何かの縁起物みたいだな。


「フーさん。外の畑見ても良いですか?」

「うん~? ああ、ただ結構荒れてるけどな。ネリッサの好きにしていいぞ」

「ありがとうございます!」

「おい、フー。わしは飯の下ごしらえをするから、薪を集めてきてくれ。ぼんやりしているとすぐに日が暮れてしまう」

「ああ、んじゃ行ってくるわ。あと適当によろしく」

「私も行くわよ。クリスティーヌは……ふふっ、身動き取れないわよね。みんなを見ておいてあげて」

「ん~、わかった!」


 アンと二人森へ向かう。

 女たちは何やらワイワイと畑を物色しはじめた。

 なんか楽しそうだな。

 雑草ばかりかと思っていたが、意外と食えるものが自生したりするのだろうか。


「フー、あっちに行ってみましょう」

「ああ、ところでアン、なんで森に入るのに靴脱いだんだ?」

「その方が自然だもの。森で靴を履くなんて変だわ」

「ふ~ん……。まぁいいや、変なモンスターもいるらしいから、見つけたら食っちまおう」

「そうね。どんな味のモンスターかしら。黒狼や小鬼みたいなのは嫌ねぇ」

「キノコも見かけたらよろしく……ああ、今日はさすがに毒キノコは無しで行くか」

「あら……あれは栗かしら? あっキノコ――」


 まだ森の浅い場所だが、すぐにいろいろな食い物が見つかる。

 あまり人が入っていないようだ。

 深入りするのは明日以降になるだろうが、これは期待が持てる。

 特に果樹系が豊富で、この短時間で十分な収穫を得られた。

 それにしてもアンは森が良く似合う。

 紅葉に負けない派手な赤髪もそうだが、ただ森を歩いているだけで何か物語が始まりそうな風情がある。

 この肌寒い季節に、薄手のワンピースに素足という、かなり現実離れした姿で悠々と歩いているせいかもしれない。

 それにしても、モンスターは森を歩くときは裸足にならなければいけない掟でもあるのだろうか。

 実際かなり寒いと思うのだが……。


「見て、フー。こんなに一杯……ふふふっ、少し酸っぱいけれど、火を入れればきっとおいしくなるわね」

「小ぶりだが馬鹿みたいに採れたな、リンゴ。ぐじゅぐじゅに焼いて食いてぇわ」

「あの立派な窯があれば簡単よ」

「ああ、間違いない」


 甘い種類では無いが、香りのいいリンゴと栗がいっぱい採れた。

 かなり大量にあるから少しイーダに分けてやろう。

 それなりに大きな籠を持ってきたつもりだが、既にいっぱいだ。

 薪も今日明日分は十分にある。

 今日のところは手ごろな枝を拾い集めただけだが、明日は良い斧を手に入れて、本格的に薪を作っていきたい。

 今から立木を倒しても今年の薪にはならないので少々面倒だが、森の中には倒木も多かった。

 良く乾燥して腐っていないものを探せば、ひと冬越すくらいの量は簡単に確保できそうだ。


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