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第14話 街攻め②

 あれよあれよという間に、戦争が始まってしまった。

 作戦ってなんだよ。

 もちろん何も聞いてない。

 特別報酬なんて完全に嘘だろう。

 傭兵は全員死ぬと見積もっているに違いない。

 だからといって逃げるのも難しい。

 そのそぶりを見せれば、容赦なく後ろから攻撃するつもりだろう。


「よし、みなぎってきたな! アン、角一本貰うぞ――って、重いなぁ……うーん」

「矢は通さないわよ?」

「盾にも使えるか……。よし、これで頑張るか~!」

「私もそうしようかしら。でも……なんだか自分の角を持って戦うって、……妙な気分ね」

「弓兵が多いなぁ。もうすこし壁に近づかんと魔法も届かん……厳しいな」

「おっ、歩兵も出てきたぞ。あっちも傭兵だなぁ。俺達とは違って、ずいぶん余裕がありそうだなぁ……」

「半裸のお前さんが一番余裕ありそうだぞ? ははっ!」

「いい体だろ?」


 向こうの傭兵は装備が豪華だ。

 装備に金属の光沢が目立つ。

 それなりに名のある傭兵団なのだろう。

 こちらはといえば、ローブを着た老人と女、後は半裸の男だ。

 傭兵と思われていない可能性すらある。


「だが……あいつらに突っ込んじまえば、矢はあんまり打たれないで済みそうだな。俺達と違って使い捨ての傭兵ってわけでもなさそうだし。よーし、ぶっ殺して装備はぎ取ってやるか!」

「心臓って保存は効くのかしら?」

「あいつらで試してみようぜ。いくつかほじくり出して、ゼットに凍らせてもらおう」

「あそこまで突っ込めば、弓兵も燃やせるぞ!」


 アンと二人、敵陣へ向けて走っていく。

 敵味方両陣営全員の視線を感じる。

 ゼットは早々に走ることを諦めたようだ。

 アンの背中に括り付けている角に、しがみつくようにして何とか乗っている。

 あまりに状況がクソ過ぎて、なんだか楽しくなってくる。

 戦争は嫌いだが……血がたぎる。

 すっかり人間やめたかと思っていたが、こういう感情は残っているんだな。

 手持ちの斧は少々頼りないが、左手の角はなかなか頼もしい。

 あのウェンディゴの全力の頭突きにも耐えうるものだ。

 こいつを振りかぶって全力で殴れば、例え盾越しでも骨を砕けそうだ。

 肩だって外れるだろうし手首も痛めるだろうが――、今の俺にはそんなことは関係ない。

 ただひたすらに力の限り叩きつければいいのだ。


「いってぇ、いてぇな! 矢、結構痛いぞこれ……なんで俺ばっかり狙うんだ! くっそ~! おいっ、ゼット大丈夫か!?」

「ははっはははっ! おまえら滅茶苦茶だなぁ! もちろん、わしは大丈夫だ。アンのおかげで矢は刺さりそうにないぞ! はははっはははははっ!」


 防壁の上から大量の矢が飛んでくる。

 アンの角で急所は守っているものの、それ以外には結構な本数体に刺さってくる。

 かすり傷が特に痛い。

 半裸のせいだ。

 肉が削り取られていく。

 それにしても高所からの一斉射はなかなか強烈だ。

 一本づつの威力も強いが、目には見えない圧力のようなものを感じる。

 俺達の後方からも次々に汚い悲鳴が聞こえてくる。

 味方の傭兵は相当数やられているだろうな。

 刺さった弓矢は邪魔だが、そのままにしておく。

 両手は斧と角で塞がっているし、矢は刺さった時より引き抜くときの方がずっと痛い。

 しかし……数が多い。

 俺、ハリネズミみたいになってんじゃないかな。

 勢いよく飛び込んでいったものの、今はもう帰りたくなってきた。

 ちらりと横目でアンたちを見る。

 涼しい顔だ……。

 変身さえしていない。

 彼女には矢は意味がないらしい。

 あの重い角をやたらめったら振り回して、そのほとんどを叩き落としている。

 とはいえ当然手足や体にもあたっているのだが、その肌を傷つけるに至らず弾いているようだ。

 あんな柔らかい体なのにどうなってんだ……。

 向こうの傭兵たちが俺達を指差して何か叫び始めている。

 雨のような弓矢が一旦止まり、傭兵たちがこちらへなだれ込んでくる。

 何だ……?


「おおおおお! 女だ! その女は殺すなよ!」

「かなりいい女だぞ! こいつはついてるな!」

「おい! 見ろよ、たまらん身体だ!」


 どうやら相手方の傭兵は、俺じゃなくアンを見ていたようだ。

 しかしこいつら馬鹿だな。

 あんな馬鹿でかい角振り回して、矢も刺さらん女なんてどう考えてもヤバいだろ。

 よく無邪気に突っ込んでくるな。

 そんなに女に飢えてるのか。

 まぁ飢えてるんだろうなぁ。

 確かに普通の傭兵なんてこんなもんか。

 特にこいつらの場合は街に雇われている分、略奪も期待できない。

 ストレスの多い防衛戦で、アンほどいい女が目の前に現れたら理性が吹っ飛んでも仕方がない。

 俺だって性欲が死んでなけりゃ似たような感じだったろうな。

 いずれにしても、弓矢が止まったのはありがたい。


「おいおい、俺も相手してくれよ! ほらほら!」

「――――ガッ」


 先頭の男に斧を全力で叩き込むと、鉄兜ごと頭が潰れる。

 手ごたえが異様に軽く感じるな。

 だが少々やりすぎた。

 たったの一撃で斧の柄が折れてしまった。

 壊れた斧を捨て、小さな手斧を構え直す。

 さすがに目の前で仲間の頭を割られると、猿のようなこいつらも多少は冷静になるようだ。

 傭兵たちは進路を変え、俺を取り囲むかのように移動する。

 下半身でしかものを考えていないのかと思いきや、意外と組織的に訓練された動きを見せる。


「ははっ、燃えろ燃えろ! あーっはっはっは!」

「うわっ、凍らせるだけじゃないのか! すげぇ……、かっこいい! ゼットすげぇな!」

「なっ、なんだ!? あ、熱いっ!」


 ゼットが魔法を使ったのだろう。

 俺を取り囲んでいた傭兵連中の服が突然燃え上がる。

 慌てて地面を転がりまわる傭兵たち。

 完全に隊列なんてものはなくなる。

 魔法はやっぱり反則だなぁ。

 後は簡単だ。

 作業的にアンと二人で混乱する傭兵たちの頭へ、斧や角を叩きつけていく。

 ゼットはその間も魔法を使っているようで、頭上からも絶叫が降ってくる。

 いつのまにか弓兵もゼットの射程に収まっていたようだ。

 炎をまとい、錯乱した弓兵が、見張り台から飛び降りてくる。


「なんか戦場がぐちゃぐちゃしてきたな……。おおっ! はしごは無事かかったようだぞ」

「だが、わしらの後方は予定通り全滅しかけておるようだぞ」


 軍の本体はなかなか上手く動いているようで、すでにいくつか梯子も掛けられている。

 俺達の働きも大きかったのではないだろうか。


「何とかゴネて、銀一万貰えないかな……」

「わしの経験上、その手の約束が果たされることは無いと思うぞ。あるいは一万貰った後に殺されるか」

「はぁ……、逃げ時かなぁ」


 後ろを振り向くと、かなり混乱した状況が広がっていた。

 傭兵部隊はほぼ壊滅している。

 アンの姿に欲情していた連中はほんとうに極一部だったらしい。

 あとは意外とまともに戦っていたようだ。

 すでにその傭兵たちは俺達のことなど放置して、マーフの軍本体と交戦している。

 いまさらながら本当に俺達の傭兵部隊はオマケだったんだなぁ……。


「あら? あのテイマー死んでるわよ。クマが……」

「なんだって! 俺のクマが!」


 あのテイマーもきっちり死んでいたようだ。

 混乱したクマが、いまだ鎖でつながったままのテイマーを引きずりながら、戦場を右往左往している。

 テイマーの死体はもうボロボロで、人としての原型を留めていない。

 大人しい奴かと思っていたが、クマもかなり暴れまわっていたようだ。

 明らかにクマにやられたであろう損傷の激しい死体が多数散乱している。

 だが、さすがのクマも全身に矢が刺さり、片腕などは千切れかけている。

 出血も凄まじい。

 今は興奮しているのか、落ち着きなくやたらと動き回っているが、遠からず血が足りなくなり死ぬだろう。

 だがあいつは俺のお気に入り。

 こんなところであのモコモコを失うのは惜しい。

 せっかく鬱陶しいテイマーも死んだのだ、もっと体をまさぐらねば。


「おーい、クマ! こっちこい! こっちだぞー!」

「あら、気が付いたみたいだけど、あれは……もうあまり長くはもたないわね」

「なぁゼット。あのクマ回収したら、この混乱に紛れて逃げようぜ~、割と俺達も活躍したし、頃合いだろ?」

「そうだなぁ。マーフは街を落とすかもしれんが……あの男に命を預けるのは危ないな。報酬も貰えるか怪しいところだ。戦場は十分堪能したし……逃げるか!」


 クマは俺の声が聞こえると足を止め、しばらくきょろきょろしていた。

 だが、俺の姿を見つけると一目散に走り寄ってきた。

 腕だけでなく片脚も負傷しているようだ。

 駆け寄ってくる姿はなんだかスキップして楽しそうに見える。

 それにしてもなかなか従順な奴だ。

 可愛いく見えてくるな……。

 やっぱり俺はテイマーとしてやっていけるかもしれない。

 もちろんインチキだが。

 それでも、あの傭兵よりはまともにテイムできそうだ。

 う~ん、それにしても傷が酷い。

 俺の悪魔でちゃちゃっと治してやろうかと考えていたが……、思った以上に傷が深い。

 生きてるのが不思議なほどだ。

 これは時間がかかるな……。

 場所を変えてからのほうがいいな。


「しかし本当にボロボロだな……。片腕は……もうダメだな。あぁ……、可愛い耳もなくなってるじゃないか!」

「フー、ゼットとクマは私が担いでいく。私は……心臓が欲しいところね」

「その鎖でくっついてるテイマーちょうどいいじゃん。上半身は残ってる」

「あら――それもそうね。それじゃあ……イキマショウカ!」


 アンはウェンディゴの姿になると、驚愕するクマを軽く担ぎゼットと供に、恐ろしい速さで戦場を離脱する。

 ご丁寧に体の色を変化させ目立たないようにしている。

 しかし……、またローブが千切れ飛んでしまったな。

 その辺の死体からマシそうなのひっぺがして拾っていくか。

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