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第13話 街攻め

 夜明けと共に行軍が開始される。

 あの後心臓をほじくりだした死体は森へと放り出し、適当に落ち葉をかけておいた。

 騒ぎになるのではと少しドキドキしたが、結局誰一人として消えた傭兵のことなど気にしてはいなかった。

 名のある傭兵団ならともかく、寄せ集めの傭兵なんてこんなもんか……。

 そんなことよりも、熾火でひと晩煮込んだあばら肉と、その肉に噛り付く幸せそうなアンの姿の方が、遥かに注目を集めていた。

 あまりにうまくて朝から三人とも食いすぎてしまった。


「アン、さすがに重くないか? やっぱ馬鹿でかい角を六本持ってると目立つなぁ……」

「べつに重くはないけど、邪魔ねぇ……。捨てちゃダメなの?」

「う~ん……結構良い値段になると思うんだよなぁ」

「わしが覚えとるかぎりだが、それほど立派な角であれば……最低でも銀十、うまくすれば二十……いや三十でも売れるかもしれん」

「そう……じゃあ運ぶわ。街に付いたら清潔な服を買ってちょうだいね」

「三十ってまじか! ま~、でも街を落としたら買い物どころか、略奪が始まりそうだけどなぁ……」

「面倒ねぇ……」


 アンはうんざりしたように溜息をつくと、明るい赤髪を揺らす。

 何気ない仕草もここまで美人だとやたら様になる。

 だが――、それゆえになおさら今の姿は異様に感じる。

 細身の女性が、凄まじい重量の荷物を、涼しい顔で背負っているのだ。

 角だけでも三対、六本。

 加えて巨大な肉の塊まで背負っている。

 不自然にもほどがある。

 アンの女性らしい体から大きくはみ出た六本の巨大な角は、まるで彼女の背中から生え広がる触手か化物の手足のようで、異様な雰囲気を醸し出している。

 朝日に輝く美貌や美しい赤髪も、どこか禍々しく不吉なものに思えてくる。

 遠目にはモンスターのようにも見えてもおかしくはないだろう。

 まぁ……実際その通りだしな。


「アン、かなりの強そうに見えるぞ」

「……嬉しくないわよ。なんだか前よりもジロジロ見られてる気がするわねぇ」


 そのせいだろうか、傭兵連中はアンがウェンディゴであった時以上に変な目で見てくる。

 もちろん誰も俺達へは話しかけてこない。

 俺が半裸なのも多少は影響してそうだ。

 完全にやばい奴ら扱いされている。

 しかも俺達だけでなく、ゼットも結構変な目で見られているような気がする。

 俺達と合流する前から、この爺さんは何かとやらかしてそうだ。

 確かに、あの魔法とかいうのは凶悪だ。

 俺の中の悪魔があの爺さんを恐れるのもよくわかる……。

 そんな中、クマを連れたテイマーの男が話しかけてきた。


「お、おい……。お前、ウェンディゴはどうしたんだ?」

「あ、はいはい。ちょっと散歩にでています」

「そんな馬鹿なことが……。その女は誰だ? それに……お前はなぜ戦場へ行くのに半裸なんだ?」

「え? 傭兵仲間ですよ? 半裸なのは気合を入れるためです!」

「昨日はそんな女……もういい! とにかく街に付いたら俺の指示に従って動け!」

「はい、わかりました。――おっ、モコモコじゃないか~!」


 相変わらず感じが悪いな。

 だがそれも、お互い様なのかもしれない。

 テイマーの男は俺と話すにつれて、好物の料理に変な虫でも紛れ込んでいたかのような顔になっていく。

 実に気分が良い。

 とりあえず話を聞き流しながら適当に相手をしていると、背後に伏せているクマと目が合う。

 思わず抱き着いて体をまさぐってしまうが、半裸だとより気持ち良い。

 今日は嫌がる様子もない。

 つぶらな瞳で、ただこちらをじっと見つめてくるだけだ。

 こいつ、かわいいな……。

 街攻めで混戦になったら、こっそり毛皮にしてやろうなどと考えていたのだが……ちょっとできそうにない。

 アナグマほどでは無いが、実はクマ肉も割と好きな方だ。

 だが……、さすがにもうこいつは食う気にはなれないなぁ。

 そういや昔から家畜の世話は苦手だった。

 下手にかわいがると、どうも絞めづらくなる。

 それにしてもこいつ、また新しい傷が増えているなぁ。

 このテイマーにやられたのだろう。

 適度に弱らせておかないと、制御できなくなりそうで怖いのだろうな。

 たしかに相手は凶悪なモンスターだ。

 特にクマ型は強いものが多い。

 分からんでもない……が、まぁ俺には関係のない話だ。

 少しクマに情が湧いてしまったので、またこっそり傷を食っておいてやろう。

 ついさっきまで、毛皮を剥いで食おうと企んでいたのに、我ながら勝手なものだ。

 いつの間にかアンも一緒にクマの体をまさぐっている。

 めちゃくちゃ楽しそうだが、クマは怯え切って俺にすがりついてくる。

 今のアンは背中にばかでかい角を背をってはいるものの、見た目は優々たる女性の姿のはずだが……何か察したのだろうな。

 それにしてもこのクマ、もちろん敵意は無いだろうが凄まじい力だな……体がへし折れそうだ。


「よーしよし、いい子だいい子だ。大丈夫だぞ~」

「あら、怖がらなくていいのよ? あなた、可愛いわねぇ~」

「おい! 触るなと言ってるだろうが!」

「え? ああ、無意識でした。すいませんねぇ~」

「そこの女もだ!」

「……つまらないわ」

「くそっ……、お前らは傭兵隊の一番前に行け!」


 テイマーの男は苛立たしげにそう告げる。

 毎度のことながら、たかが傭兵隊のリーダーのくせに何でこいつはこんなに偉そうに振舞えるんだろうか。

 隙あらば寝込みを襲うような寄せ集めの集団だというのに……。

 しかも偉そうに振舞いつつも、定期的にアンの胸へと視線が吸い込まれている。

 たしかにアンの胸はローブ越しにも主張が激しすぎる気はする。

 気持ちは分からなくもない。

 あれはいいものだ。

 だが――、俺を差し置いて欲情するのは許せない。

 やはりむかつくテイマーだ。

 混戦になったらうっかり斧が滑るかもしれん。


「フー、お前さん完全に嫌われてるなぁ」

「ああ、俺も嫌いだ。しかし、あのクマはなかなか良いな」

「可愛いわね」





 それからしばらく隊列に従い、とぼとぼと歩いていると、急にあたりが明るくなる。

 ついに森を抜けたようだ。

 目の前には麦畑が広がっている。

 具体的に何か覚えているというわけでは無いのだが、目の前の情景に懐かしさを覚える。

 金色の穂波はやはり美しい。

 涎が湧き出てくる。

 パンが食いたい。

 しかし――、まだ収穫が終わっていないのか。

 広い麦畑の真ん中には防壁のようなものが見える。

 あの塀の向こう側に街があるのだろう。

 なかなか立派な作りだ。

 丸太を削り木柵として並べている。

 開墾時の木材で作ったのだろう。

 部分的にレンガ造りになっている場所もあり、その上は見張り台になっているようだ。

 一定間隔でスリットが設けられている。

 あの隙間から弓矢で狙い打てるようになっているのだろう。


「厄介だな……アン、あれ壊せそう?」

「どうかしら……」


 木柵と言ってもかなり堅牢な作りになっている。

 まず丸太の径が太い。

 人の胴体程はある。

 しかもよく見ると、二列になっている。

 背後には補強もされているだろう。

 何重にも縄でがっちりと固定されている。

 アンでも力押しで破るのは厳しいようだ……。


 俺達がぼんやりと防壁を観察している間にも、戦いの準備は着々と進んでいく。

 すでに隊列の先頭集団は弓の射程ギリギリのところに展開している。


「あれの先頭行くのはいやだなぁ……。ゼット、弓の射程外から魔法は届かないのか?」

「よっぽど器用な魔法使いならばできなくはないだろうが……わしは無理だ。目も悪いしな」


 ロバから、はしごのようなものが下ろされ、別の部材と組み合わされていく。

 立てかけると防壁に噛みついて取れなくなるような機構が組み込まれているようだ。

 普通の梯子はよく見かけるが、あんなに手の込んだ仕掛けは見たことが無い。

 なかなか凝っている。

 マーフの趣味だろうか。

 元々漁師とか言ってたが関係ありそうだ。

 まぁ漁師に限らず、こういった仕掛けや道具に凝る連中は稀にいる。

 綿密な下準備をするのでなかなか侮れない仕事をすることが多い。

 俺にはとても真似できんな……。

 何にしろあれで防壁を乗り越えるつもりなのだろう。


「何をぼんやりしてる。お前たちは一番前だ!」

「え!? まさかあの梯子登るの?」

「いや、あれは兵士が使うものだ。我々の役割はまた別だ」

「あ、そうなんですね」


 ぼんやりと観察していると、テイマーの男に指示され、なぜか軍の一番前の方へ移動させられる。

 あの梯子を登らされなくて良かった。

 などと思っていたが、どんどん隊列の前へ前へと移動させられていく。


「なぁゼット、嫌な予感しかしないんだが……」

「まったくなぁ……」


 最終的には、最前線に立つ兵士たちのさらに前へと押し出される。

 もう俺の前には誰一人として味方はいない。


「これ、あれだなぁ……俺達、おとり役だなぁ」

「どうやら梯子をかけるまでの弓避けに、傭兵隊を使いつぶすつもりだな。こりゃ隙見て逃げるのも一苦労だぞ……」

「ゼット、あなた私の後ろに隠れてなさいな。疲れたら角に乗ってもいいわよ。今日の朝食も悪くなかった。死なれると……困るわ」

「わしは料理番じゃなくて魔法使いなんだがなぁ。まぁ、ありがたく隠れさせてもらうがね」


 先頭集団の最前列、特等席だけあって敵の姿もよく見える。

 敵側弓兵がこちらを指差して笑っているようだ。

 誰を射るかの算段でもしてるのだろうか。

 やってられんな……。

 振り向くと、後ろの傭兵連中も皆酷い顔をしている。

 クマを連れたテイマーも、思いがけず近くにいる。

 顔色が悪いところを見ると当てが外れたようだ。

 自分だけ後方にいるつもりだったのだろうが、軍の連中に押し出されたのだろう。

 なにか事前に約束があったのかもしれんが、いいように使われたらしい。

 まぁ、傭兵なんてそんなもんだ。


「聞け! マーフ様が今から喋る。皆良く聞けー!」

「今から――、街攻めを開始する。作戦は事前に伝えた通りだ。傭兵隊は防壁に突撃し、一か所でも突破口を空けろ。もし防壁を壊せる者がいたら、特別報酬、銀一万を出す。では――戦闘開始!」

「傭兵部隊、進め!  進めー!」

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