第10話 キャンプ
なし崩し的によくわからない軍隊に雇われることになった。
街を攻め落とすのが目的らしい。
とはいえ攻め落とした後まともに統治するかは甚だ怪しい。
軍の切羽詰まった雰囲気から察するに、ほぼ略奪狙いだろう。
ろくでもない連中だが……実際この地域ではよくある話だ。
とはいえ下手に逆らっても殺されそうなので、とりあえずおとなしく従っておく。
「で、お前、名前は?」
「えーっと、テイマーのフー・ジッドです!」
「フー……変な名前だな。そのウェンディゴは……お前がテイムしているのか?」
「そうですねぇ、そうなりますかね」
「一体どうやって……」
「え~……いや~、こればっかりは秘密でお願いします。そういった技術も商売道具なもんで、どうかお許しを……」
「……まぁいい。お前は傭兵部隊に合流しろ。たしか傭兵部隊の隊長もちょうどテイマーだったはずだ。そいつにくっついて行動しろ」
「はいはい。で、傭兵部隊は何処にいるんでしょうか?」
「一番後ろだ」
偉そうなドワーフだ。
黄色い帽子を被っているのかと思ったら、ただの黄色っぽい金髪だった。
癖が強くやたらもこもこしているので帽子をかぶっているように見えなくもない。
黄色い帽子はあだ名のようなものなのだろう。
ややこしい。
それにしてもどんどん後ろに回されるな……。
アンを連れて歩いていると、兵士どもとすれ違うたび、物珍し気にこちらを見てくる。
いかにも女に飢えてそうな連中なので、ウェンディゴの姿で、むしろ良かったのかもしれない。
隊列の先頭から最後尾に向けて歩いていると、この軍のことも色々と分かってくる。
まず単純に後方へ行くほど兵士の装備が適当になっていく。
最後尾までいくと、兵士と言えども先ほどの野盗とほぼ変わらないような雰囲気だ。
ボロボロの服に手あたり次第金属片を縫い付け鉄の鍋を被り、農具や木の棒を持っている。
すれ違うとアンを酷く怯えた目で見てくる。
こんな連中、戦力になるのだろうか……。
「あ~、すいません。ここからが傭兵部隊ですか?」
「なんだおまえ? 新入りか? うわっ、う、後ろの奴なんだよ!?」
「あ~、テイマーのフーです。こいつは俺のテイムしてるモンスターです」
「なっ……、まったく。今回の傭兵は変な連中が多いなぁ……。後ろにクマ連れた奴いるから、そいつが傭兵隊のリーダーだ。何か聞きたいことがあるならそいつに聞いてくれ」
「クマ? ……ああ、あれか」
隊列の最後尾にまとまりのない集団がくっついてダラダラと歩いている。
百人程度だろうか……、まさに絵にかいたような寄せ集めだ。
その辺の村人のような男もいれば、しっかりとした金属鎧を着込んだやつもいる。
まだ少年のような奴もいれば、怪しい爺もいる。
「まんまクマだなぁ……うん? いや、あれも……モンスターか」
「……クマ」
その中でもひときわ目立つのがクマだ。
ウェンディゴほどでは無いが、かなりでかい。
この辺のクマにしては毛の色が薄いな。
俺の中の悪魔を通してみると、どうやらモンスターのようだ。
しかも見た目ではわからないが、何かクマ以外のものも混ざっている。
青みがかった金属製の鎖が、体と首にめり込むほどにきつく巻き付けられている。
横にいる色白の優男がテイマーなようだ。
クマを繋いだ鎖の一端を腕に巻き付けている。
口元には微笑を浮かべつつも、細い目で油断なく俺達を観察している。
「どうも~、テイマーのフーです」
「お前は……本当にテイマーなのか?」
「ええ、もちろんそうですが、なにか?」
「……まぁ、テイム方法は人それぞれだが……」
「クマ触ってもいい?」
「はぁ? いや……、危険なので触るな」
「はい。じゃあちょっとだけにしますね~」
「え? いやダメだって……」
感じの悪いテイマーだ。
たかが傭兵隊のリーダーのくせに、ひたすら偉そうだ。
名前さえ名乗らない。
こいつとは仲良くできそうにないな。
クマは俺達が近寄る前から涎をダラダラとたらし、歯をむき出し小さく唸り声を上げている。
よく見ると体中傷だらけで、部分的に腐ってそうだ。
正直テイム方法なんてものはまったくわからんが、どうやらこの優男は、モンスターを弱らせたうえで、恐怖と痛みで飼いならしているようだ。
今はアンに見下ろされてひたすら怯えている。
モコモコした毛が気持ち良さそうなので体を触ってみると、歯は向けてくるが噛みつきはしないようだ。
ただ体が震えているところを見ると喜んでもいないようだ。
しかしなかなか良い手触りで癖になる。
「あったけぇ~。クマあったけぇなぁ」
「ウウウー……」
「お、おい! 人のモンスターに触るな!」
「え? ああ、まぁそんな硬いこと言わずに、ちょっとぐらいいじゃないですか」
テイマーの男が焦った顔で立ち上がるが、気にせずクマを触り続ける。
気持ちいい。
何より暖かい。
少々獣臭いがこいつは悪くないな。
毛皮が欲しくなる。
まぁせっかくだし、少し腐りかけた傷を食っておいてやろう。
「……?」
「よしよし、いい子だぞ~よしよし」
「おい! 何してるんだ!」
「ああ~、すいませんちょっと気持ち良すぎて」
一番酷そうな傷を悪魔の力で食ってやると、クマは唸り声をやめ、不思議そうな顔で体をまさぐる俺を見ている。
優男が慌てた様子でクマの鎖を引っ張りまわすので、俺の方から距離を取る。
「いやまぁ、ついね! うちのウェンディゴ触ります? あ、いや嘘です。こいつうっかり心臓食べちゃうことがあるんで、触らないでくださいね!」
「気色悪い……頼まれても触るか」
「まぁこれからよろしくお願いします」
どうも優男からは嫌われたらしい。
ウェンディゴを触ってみないかと提案すると、アンに背中をつつかれる。
ちょうど心臓の位置だ。
どうやら彼女も触られたくはなかったらしい。
あぶないあぶない……。
それにしてもクマはなかなか気持ち良かった。
またこっそり触りに行こう。
寝てる間に皮を剥いだらバレるだろうか……。
その後、軍の隊列に従って移動する。
クマを触ってテイマーをキレさせてからは、他の傭兵は誰も話しかけてこない。
それどころか誰とも目が合わない。
気のせいかもしれないが……、何となくやばい奴扱いされて、避けられている気がする。
何か対応の仕方を間違えたのだろうか。
暇なのでアンと話したいが、もっとややこしいことになりそうなのでそれもできない。
ただただ退屈だ。
景色も延々と暗い森が続くだけで代り映えもしない。
そろそろ日も落ちてきた。
「とまれー! 今日はここで野営する! 明日は夜明け前に移動を開始するぞ。ついに街攻めだ。早く休むように!」
「おっ、なんだなんだ? 飯貰えるのか?」
伝令が回ってくる。
どうやら今日はこの場所で寝るらしい。
食い物を貰えるのかとキョロキョロと辺りを見渡すが、どうもそう言う雰囲気ではない。
兵士たちはある程度のグループにまとまって食事の準備をはじめるが、傭兵は各自勝手にしろと言う感じだ。
ただ飯を貰えるのかと思っていたのに……がっかりだ。
けち臭い軍だ。
ただ、近くに川があるようで、水が手に入るのは助かる。
「アン、誰も見ていないみたいだし、なんか食い物探しに行こうぜ~」
「……ソウネ」
傭兵たちはごく少数を除いて、ほぼ料理はしないようだ。
晩飯を食わない奴も多い。
食べたとしても、持ち込んだなにかしらの保存食を寝床で齧る程度なのだろう。
仕方が無いのでアンと二人、森へと入っていく。
川があるのならば魚でもと思ったが、軍の連中がうろうろしておりそれどころでは無い雰囲気だ。
鬱陶しい。
「はぁ……、キノコか動物でも探すか」
「アッチ」
「え、もうなんか見つけたのかよ。相変わらず凄いなぁ」
それから暫くアンと二人で森を徘徊する。
キノコはアンのおかげで早々に見つかり、あっという間に持ちきれないほど集まった。
だが、肉のほうはなかなか手に入らない。
どうも軍の連中が騒々しいので、森の生き物たちはすっかり姿を隠してしまったようだ。
「ミツケタワ……オイシソウ」
「え? ――うわ、あれかぁ……食って良いの?」
そうしてしばらくの川上へと二人で歩いていると、ちょうど水を飲みに来たヘラジカと出くわした。




