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いっぱいの力

 はっとする感じを与えてくれるものは思いがけなく訪れるもの。例えばそれは一杯のラーメンだった時などは一口目のスープで、大袈裟に世界が変わったように感じてしまう。


<これはもう『芸術品』だ…>



 人知れず、別に知られてもいいとは思うけれどとにかく感動が身体の中を駆け巡り、その日は結局グルメサイトでレビューと沢山の星を献上したのである。車内でラーメンを褒めたたえる文面を考えていた時のその熱っぽい感じはどこか懐かしくもあった。いつの頃からか地元はラーメン激戦区と言ってもよい具合になっていて、古き良き街並みの中にオープンしたある店舗は県内の知名度が高いという話も聞く。




 気持の高まりのまま車を走らせ、少し長めのドライブに。引き寄せられたのは川でカヌーの練習をしている人の姿。近くのスペースで車を停め、外に出てみると初夏を感じさせる陽射しと涼しい風。昼過ぎ、キラキラと反射する光と綿々と続いてゆく波。その光景はずっと遠いところにあると感じる何かのようで、水辺の冷涼な爽やかさが伝わってくるよう。実際のところ、日々心の中には抱えている事もあるのだろうけれど遠目にも目一杯漕いでいるのが分かるその姿を見ていると自分にも目指すものがあるような気持ちになる。




「ああ…」




 言葉にはならないまま口に出たその響き。全景が見渡せる場所に立って、それは一体どんな感情だったのだろう。スナップを友人に送ってみると休日だからなのかすぐに返信があった。



『ああ、これ〇〇川か。噂には聞いていたがしっかりカヌーやってるんだな』




その時ついでにラーメンの事も教えた。『レビュー書いた』と伝えたら『本当だ』と返ってきた。それからこんなメッセージが。



『写真、すごくいいよ。なんか「はっ」とさせられた。』




 たぶん、こういうのは不思議な連鎖なのかも知れない。辿り着いた場所で、ぼんやりと音を聞く。なかなかどうして難しい事もあるけれど、その分、喜びもある。教えてもらったような気がする。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 いつかの『ラーメンレビュー』をしばらくぶりに見返したら、それが誰か、たぶん市民の誰かの『参考になった』という事を示すマークに表示された数字が増えていることに気付いた。可視化されたものは数字ではあるものの、想像以上にあの「情熱レビュー」に心を動かされた人が多かったらしい。



 前よりもいくらか、主に仕事上の見通しが立ってきて不思議なことにその辺りから私生活の方も充実し始めた。一番は地域の河川敷のゴミ拾いに参加した際に、ほぼ同年代の女性と何となく気が合っていつの間にか食事に誘えるようになっていたこと。結構なグルメらしく、食べに行きたい場所の候補を次々とメッセージで送ってくる猛者。たまたま例のラーメン店を候補に挙げてくれたので、



『じゃあ、今度はそこにしましょう!』



と賛同して、日曜日の激混みの時間を避けて午後の1時半頃に来店した。目に見えてウキウキした様子で案内された席について、



「この雰囲気、絶対に美味しいですよね」



と口を開いた彼女はかつて巡った事のあるラーメンの店名を指で数えながら教えてくれる。レビューの事も事前にリンクを送っていたので承知済みで、碗が運ばれる前から「わたしもレビュー書いてみようかな」と書き方の指南を求められた。



「いや、あれは『感じたまま』ですよ。あの日はちょっと特別でした」



 腕を組んで脳内で回顧しながら何となく設置されていたテレビ画面に視線を向ける。「県内」の週間ニュースを流す5分程度のスポット番組の時間で、素朴なテロップに『カヌー大会で県勢健闘』と表示された瞬間に「あ!」と思わず口が開いた。全国のカヌー大会での県勢の高校生の活躍を伝えるニュースだったのだ。詳細は分からなかったが即座にスマホで検索してみて、同大会で地元の選手も出場して入賞を果たしていたという事実を知る。



「そうか…やったんだな…」



 その瞬間、少し目頭が熱くなるのを感じた。あのキラキラした時間は『本物の輝き』だったのだと思う。そのすぐ後、眩いばかりのスープが注がれたあのラーメンがテーブルに運ばれてきた。



「うわぁ…輝いていますね」



『ああ、本当に輝いている。貴女の笑顔も』



そんなことを迂闊にも口走りそうになったのは、たぶん初めてだったと思う。

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