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呉宮史桜の優雅な放課後  作者: 詩央
Case.04【虚ろな影】

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day7.1─戦慄─

 翌日、夕陽が差し込む放課後の廊下を、絢葉と奏汰が並んで歩いていた。


 史桜から言われた言葉が、絢葉の胸に重く残っている。


 ──三年生には、笠松翔と“内山和也”という二人の生徒がそれぞれ代表格とした小規模な不良グループがある。文句のつけようがない危険人物だ。慎重に動きたまえ、東雲君。


 絢葉はその言葉を思い返し、思わず喉を鳴らした。

(……こ、怖いけど。やるしかない)


 向かう先は三年三組。

 今日こそ笠松翔に接触し、話を聞く──それが史桜の指示だった。


 教室前に立つと、中からざわめきと低い笑い声が聞こえてきた。


 絢葉と奏汰がそっと覗くと──

 そこには、笠松とその取り巻き数名が輪を作って、誰かを囲っていた。


 その中心で、誰かが蹴られている。


「……っ!」


 絢葉は反射的に駆け込んだ。


「何してるんですかっ!」


 声を張り上げて笠松たちの間に割り込む。

 取り巻き達が一斉にこちらを見る。


「なんだこいつ?」「一年じゃね?」

 嘲るような声が飛ぶ。


 その中心、床にうずくまっていたのは──眞鍋だった。

 体を丸め、肩を震わせている。


「はぁ?」

 笠松が、絢葉の方へすっと近づいてきた。


 刺すような目つき。

「なんだお前。代わりに痛い目見てぇのか? 俺は女でも遠慮しねぇぜ?」


 絢葉の背筋が凍りついた。

 喉が縮み、息がうまく吸えない。


 それでも──


「……これは、立派な“いじめ”です! 先生に報告します!」


 震える声で言い返した。

 ほんの一瞬、笠松の眉が動く。


 だがすぐ、嘲るような笑みを浮かべた。


「いいぜ。好きに報告しろよ。……できるんならな」


 笠松の手が絢葉へ伸びる。

 触れられる──その瞬間。


 ガシッ。


 横から伸びた手が、彼の手首を掴んだ。

 奏汰だった。


 無言。

 ただ冷ややかな、氷のような目で笠松を見ている。


「なんだ、お前……?」


 笠松の目が細められた、その時。


「し、翔さん……そいつ……天野です!春に内山のグループに喧嘩売られて、返り討ちにした……!」


 取り巻きの一人が怯えた声をあげる。


「……は?」

 笠松がゆっくり奏汰の顔を見直す。


「内山を、だと……? あいつらどうりで最近大人しいと思ったぜ」


 短い沈黙。

 教室の空気が張り詰める。


 奏汰は表情を変えず、ただじっと笠松を見返す。

 その落ち着きの異様さに、取り巻き達がざわりと揺れた。


「……行くぞ」

 彼は手を振り払い、背を向けた。


 取り巻き達を引き連れ、乱暴に扉を開けて教室を去っていく。

 その背中には、絢葉が見た昨日の無気力とは違う、鋭い気配が残っていた。


 静寂が落ちる。


 残されたのは、絢葉、奏汰、そしてうずくまったままの眞鍋だけ。


 その時──


『……どうやら、調査対象を切り替える必要がありそうだね』


 イヤホン越しに史桜の声が響いた。

 絢葉は小さく頷き、眞鍋へ駆け寄る。


「大丈夫ですか?」


 眞鍋はゆっくり顔を上げた。

 その目は怯えと困惑に揺れている。


「…………君たちは……?」


 かすれた声が、静まり返った三年三組に落ちた。


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