day7.1─戦慄─
翌日、夕陽が差し込む放課後の廊下を、絢葉と奏汰が並んで歩いていた。
史桜から言われた言葉が、絢葉の胸に重く残っている。
──三年生には、笠松翔と“内山和也”という二人の生徒がそれぞれ代表格とした小規模な不良グループがある。文句のつけようがない危険人物だ。慎重に動きたまえ、東雲君。
絢葉はその言葉を思い返し、思わず喉を鳴らした。
(……こ、怖いけど。やるしかない)
向かう先は三年三組。
今日こそ笠松翔に接触し、話を聞く──それが史桜の指示だった。
教室前に立つと、中からざわめきと低い笑い声が聞こえてきた。
絢葉と奏汰がそっと覗くと──
そこには、笠松とその取り巻き数名が輪を作って、誰かを囲っていた。
その中心で、誰かが蹴られている。
「……っ!」
絢葉は反射的に駆け込んだ。
「何してるんですかっ!」
声を張り上げて笠松たちの間に割り込む。
取り巻き達が一斉にこちらを見る。
「なんだこいつ?」「一年じゃね?」
嘲るような声が飛ぶ。
その中心、床にうずくまっていたのは──眞鍋だった。
体を丸め、肩を震わせている。
「はぁ?」
笠松が、絢葉の方へすっと近づいてきた。
刺すような目つき。
「なんだお前。代わりに痛い目見てぇのか? 俺は女でも遠慮しねぇぜ?」
絢葉の背筋が凍りついた。
喉が縮み、息がうまく吸えない。
それでも──
「……これは、立派な“いじめ”です! 先生に報告します!」
震える声で言い返した。
ほんの一瞬、笠松の眉が動く。
だがすぐ、嘲るような笑みを浮かべた。
「いいぜ。好きに報告しろよ。……できるんならな」
笠松の手が絢葉へ伸びる。
触れられる──その瞬間。
ガシッ。
横から伸びた手が、彼の手首を掴んだ。
奏汰だった。
無言。
ただ冷ややかな、氷のような目で笠松を見ている。
「なんだ、お前……?」
笠松の目が細められた、その時。
「し、翔さん……そいつ……天野です!春に内山のグループに喧嘩売られて、返り討ちにした……!」
取り巻きの一人が怯えた声をあげる。
「……は?」
笠松がゆっくり奏汰の顔を見直す。
「内山を、だと……? あいつらどうりで最近大人しいと思ったぜ」
短い沈黙。
教室の空気が張り詰める。
奏汰は表情を変えず、ただじっと笠松を見返す。
その落ち着きの異様さに、取り巻き達がざわりと揺れた。
「……行くぞ」
彼は手を振り払い、背を向けた。
取り巻き達を引き連れ、乱暴に扉を開けて教室を去っていく。
その背中には、絢葉が見た昨日の無気力とは違う、鋭い気配が残っていた。
静寂が落ちる。
残されたのは、絢葉、奏汰、そしてうずくまったままの眞鍋だけ。
その時──
『……どうやら、調査対象を切り替える必要がありそうだね』
イヤホン越しに史桜の声が響いた。
絢葉は小さく頷き、眞鍋へ駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
眞鍋はゆっくり顔を上げた。
その目は怯えと困惑に揺れている。
「…………君たちは……?」
かすれた声が、静まり返った三年三組に落ちた。




