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サン=ジュスト復活

〈季語に無き暑さの日々よ夏近し 涙次〉



【ⅰ】


「あつちい」牧野旧崇、ステテコ姿である。

「やだ、フルちやん、それ、下着ぢやないのー?」と悦美。例に依つてお料理教室の一齣。

「雪川組ぢや、みんなこんな恰好してましたがねえ」


 さう云へば、俳句に「春暑し」と云ふ季語はない。初春の「春寒し」つてのがあるだけだ。

 だが、地球温暖化の煽りか、日本國、春でも暑い日が續く。



【ⅱ】


 續くと云へば、* 某大手旅行會社の「魔界探訪ツアー」は續いてゐた。だが流石に客の飽きるのは早いもので、呼び物になる話題が慾しい。

 そこに**「虐殺の天使」サン=ジュストの(今度は『はぐれ【魔】』としての)復活、である。

 フランス語を流暢に話し、また讀書家であり、ハンサムな彼は、瞬く間に「ファン」を作つてしまつた。

 大體、魔界を訪れる女性方は、ロマンを求めてゐる。そんな彼女らに、サン=ジュストは浪漫的な思ひを抱かせるに、恰好の「餌」だつたのである。

 某大手旅行會社、彼の復活を喜んだ。これではカンテラたちが彼を退治た意味がないし、仕事の張り合ひもない。


* 当該シリーズ第116話參照。

** 当該シリーズ第88話參照。



【ⅲ】


 例の「思念上」のトンネルは、方々に開いてゐる。サン=ジュスト、これは便利、と、人間界に出て、佛語の書物を買い漁つてきた。女性方は、書を(けみ)する彼を見て、「インテリなのね」ときやあきやあ云つてゐる。


 サン=ジュストと云ふと、金尾の復讐劇を覺えておいでの讀者もをられるだらう。さう、あの「セールスマン」の自爆テロを引き起こしたのは、元はと云へば、彼・サン=ジュストの命令に依るのだ。さう云ふ彼が、魔界に自分のオフィスを構へ、悠々と讀書に耽つてゐる。

 これは、カンテラ一味にとり、由々しき事態、である。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈夢で見た愛しい人は龍の精手が届きさう私は願ふ 平手みき〉



【ⅳ】


 夢で、遷姫は云ふ。「さん=じゆすと、ト云ヘバ、重悟ノ天敵デハナイカ」金尾「さうなんだよ。私は奴に一旦躰をばらばらにされた」-「かんてらハダウスル積モリナノダラウ」-「まあ、考へがあるんぢやないかな。魔界が旅行ツアーの先になつてゐる事も、仕方なかつた、とは云へ、カンテラさんは余り良くは思つてゐない」-「我ラガ行ツテ懲ラシメル筋書キヲ、考ヘテミヤウヨ」-「そ、さうしやうか」金尾、遷姫の熱意に押された形である。



【ⅴ】


 牧野がノンレム睡眠に落ちると、遷姫は「龍」のなりになつて、彼の躰を拔け出した。今度は、窓ガラスは開いて(何せ夜も暑い)ゐたので、脱出(?)は靜かに行はれた。金尾はゴーレムに變身してゐる。

「二人して、何処行くんだい?」カンテラが見咎めた。「チヨツト、魔界マデ」-「サン=ジュスト、か」-「サウダ。かんてらニハ何カぷらん、アルノカ?」-「まあ無くはない。じろさんも誘はう」


 じろさん、方南町より呼び出された。「金尾くんにとつては、奴の存在自體、許せないのは、分からないでもないが...」



【ⅵ】


「思念上」のトンネルは、まあ「思念上」のものであるから、伸縮自在である。巨體の「龍」とゴーレムも、樂々通る事が出來る。


 サン=ジュスト、もはや護衛がゐる身分である。旅行會社の者も散見する。【魔】と人間、半々ぐらゐだ。「かうぢやないかと思つてたんだ。相手が人間となると、じろさんの力がだうしても必要となる」-「ナル程」。で、覆面姿のじろさん、()どられぬやう、彼らを次々に縛に付けた。【魔】軍は、カンテラが密殺。勿論、脇差しを使つて、である。



【ⅶ】


「おやおや、人の大事な睡眠時間を、削りに來たな」... とは云へ、サン=ジュスト、己れの負けは分かり切つてゐた。で、今度は、自分が自爆、したのだ。

 爆風-「龍」の遷姫とゴーレムの金尾は、啞然とした。「案外散り際のいゝ奴だつたな」、カンテラが云ふ。


 氣が濟まない遷姫と金尾、ぶうぶう云つてゐたが、兎に角彼らの出現に依り、サン=ジュストが爆死を決心したのは、間違ひない。


「ま、これで勘弁してくれ、お二方」と、カンテラ。



【ⅷ】


「サン=ジュスト様が、自爆!?」と、先の女性方は湧き立つたが、いづれにせよカンテラ軍は、証拠を殘してゐない。じろさん「よもや彼女らも彼がテロリストだつたとは思ふまい」「何、その内これにも飽きるさ」... これはカンテラの弁。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈巨大なる夏を抱へて春連休 涙次〉



 金尾のノートより:某大手旅行會社より、「お詫び」¥5百萬圓入金。



 短いが、これで。チャオ!!


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