9話:ゴブリン講座
あれからクロムとサラはやる気を出して一気にクエストを消化していき。あっという間に5級昇格のクエストをする事になった。
「討伐クエスト……!」
「ゴブリン、だね」
「よー、調子良いみたいだな」
「「ゼニスさん!」」
声を掛けると2人してパッと笑顔になり、こっちにやってくると俺の手を引いてテーブルまで連れていかれる。確かに世話焼いてたけど、随分と懐かれたなぁ……。
「今日はアマネさんは一緒じゃないんですね」
「ああ、忍装束がもうちょっとで直るからって追い込みかけてる所だ。んで、なんの話ししてたんだ?」
「昇級クエストです!」
俺に見せ付けるようにサラが紙を広げる。
「ほー、思ったよりも早かったな」
まあ、これに関しちゃ真面目にやるやつが早いし、それだけちゃんとやってたんだろうな。
「にしてもゴブリン5匹か」
「俺にやれるかな……」
「まあ、不安になるのはわかるぞ。お前らまだ素人に毛の生えた程度でまともに戦った事ねぇもんな」
「こ、コツとか教えてもらえませんか?」
「わっ、私も!」
「コツっつーコツはねぇよ。精々ビビらねぇようにって気構えをしっかりな。ゴブリンとは言え、生き物を斬るんだから」
ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえる。
「ただ、ゴブリンだからってバカにするなよ。お前らはまだまだヒヨっ子なんだ」
「は、はいっ」
「わかりました!」
「よし、じゃあゴブリンについてちょっと話してやるよ。そうだな……まず、ゴブリンにはオスしかいない。その代わり、女や他生物のメスならなんでも孕ませる事ができる。そうやって生まれるのはぜーんぶゴブリンだ。だから毎年、村の女性が襲われたり、誘拐されたりするって事件が何回かある。」
「うわ……」
「そ、そう聞くと私が行ってもいいんですかね……?」
「まあ、モンスターを倒すのが冒険者だしな。それにただのゴブリンなら負ける事なんて普通は有り得ない」
「そうなんですか……」
サラがほっと胸を撫で下ろす。
「けどな。あいつらは孕ませた個体の強さによって産まれてくる個体も変わってくるって言われててな。一般の女性で普通のゴブリンが生まれるんだが、これが冒険者や騎士とかの戦える女性になると話が変わる。俺やクロムみたいな戦士ならゴブリンソルジャー、サラみたいな魔法使いならゴブリンメイジって感じで細かい区分は一旦置いておくが強い個体が生まれてくる事がある」
「う……」
サラが自分の体をギュッと抱いた。
「こいつらはそこらのゴブリンよりも厄介だ。力や生命力、知性があって、他のゴブリンの指揮だって出来る。こうなると他のゴブリンの群れよりも優先的に討伐されるな」
「わ、私にやれますか……?」
「やれる。けどまぁ、そうだな。せめてゴブリンからの逃げ方ってのだけは教えとこう。結構女の子には厳しいやり方だとは思うが……」
「お、お願いしますっ!」
「わかった。ゴブリン共はそれなりに鼻が利くんだ。特に女性の臭いなんかに敏感になっている」
ぶっちゃけエロゲ特有のご都合主義だよな。
「だから囮として、服を脱いで捨てて、脱いだ服とは別の方向へ逃げる」
「……はい?」
「この場合木なんかに引っ掛けると取るのに時間が掛かって尚良しだ。そしてまた追い付かれそうになったら服を脱いで──」
「そ、そんな事できませんっ!」
サラが顔を真っ赤にして机を叩いた。
「そうは言ってもな……だから言ったろ? 厳しいって。実際これで逃げれた事例があんだから、有効な手段なんだよ。つってもどうしてもって時だけだからな。生き死にが関わってくる所で羞恥心なんてなんの役にも立たねぇぞ」
「それは、そうですけど……」
今度はしゅん、と落ち込む。
「そうだな……心配だってんなら、2時間経って帰って来なかったら俺が迎えに行ってやるよ。それでいいだろ?な、クロム」
「お、お願いっ、クロム!」
大体2時間もあればゴブリン5匹なんてすぐに狩り終わってお釣りがくるくらいだ。
「俺は自分達の力だけでやりたかったんだけどなぁ……でもしょうがないかぁ」
不満そうだが、受け入れたみたいだった。
「よしっ!サラ、行こうぜっ!」
「う、うんっ!」
「気を付けてなー」
2人に手を振って見送り、コーヒーを注文した。