28話:何も知らないサイクロプス
「よし行けシフォン!」
「にゃっ」
弾かれたように前に飛び出ると、スライムの動きを誘うようにゆらゆらと身体を動かす。それに反応してスライムが触手を伸ばすと、軽く避けてみせた。
よし、大丈夫そうだ。
「アマネ、俺はどの程度の魔法を使えばいいんだ?」
「中級でお願いします。上級では恐らく倒してしまうでしょうから」
「俺もそう思う。地面から吹き出すやつにするから、合図は任せた」
「はい! シフォンさん、スライムの周りを走り回ってください!」
「んにゃー!」
俺と戦っていた時同様。いや、木を足場にしているからか、上下の動きも加わってむしろあの時よりも速く周囲を駆け回る。
それに合わせるようにスライムも触手を伸ばすが、追いつけずに自分の身体を捻じっていた。
「主様!」
「ん」
直立のまま右足で地面を踏むと大きな魔法陣がスライムの地面に現れ、火柱が上がった。
すかさずアマネが複雑に印を組む。
「『忍法・大竜巻の術』!」
竜巻がスライムのすぐ前に発生し、火柱に触れるとその火を纏ってスライムを飲み込むと、数秒して火柱が消える。消えた後には何も残っていなかった。
「おー、良い火力だな」
「それよりも先程の魔法の使い方の方が気になりますが……」
「まあ、俺程の男にもなりゃあのくらい出来るってもんだ。シフォーン! なんか残ってるかー?」
「んー……あ、あった! うえ、ぬるぬるするぅ……」
シフォンが焼け跡から割れた水風船のような物を見つけた。
これがまあ、なんとか残ったスライムの一部だ。これは多分中心のコアの部分だな。ちょっとだけ色が違う。
流石に討伐証明がないと討伐した事にはならねぇからな。
「ほら、こいつにでも入れとけ」
「んにゃっ」
持ってきた革袋にスライムの残骸を入れるとすぐにアマネに水を出してもらって何度も手を洗う。
うーん、今回は利用価値の少ないスライムだったから良かったが、やっぱ魔法は素材が取れないからあんま使いたくねぇな。
「帰るぞ」
「あ、はい」
「はーい」
最初にちょっと手間取ったが、結局大して時間もかからずにクエストも終わったし、帰ってのんびりとするかぁ。
「美味しいお肉!」
「わかってるって」
チッ、覚えてやがったか。
なら、帰りにテキトーな3、4級相当の食用可能なモンスターでも見付けて狩ってそいつを焼いて食わせれば良いか。
つってもそんな都合良くモンスターが出てくるとは限らないが。
そんな事を思っていると、少し離れた所からバキバキと何かを折る音が聞こえてきた。
この辺りで地上でそういうのをするとはクリティカルベアか?
クリティカルベアとは、その名の通りクリティカルを頻繁に叩き出してくる熊だ。ゲーム内では2分の1の確率でクリティカルを出してきて、適正レベルでも装備がちゃんとしていなければワンパンされてしまう。しかし、ここはゲームではないから普通にクリティカルじゃなくても攻撃してくる。しかも痛い。
実際に1度クリティカルな一撃を食らった事はあるが死ぬかと思った。あれが腹だったからまだマシだったが、顔面に受けていたとしたら死んでいたかもしれねぇ。
そんなやべぇ熊がクリティカルベアだ。
しかしまあ、肉は中々美味い。実はクリティカルベアは肉食じゃなくてきのことかハチミツを好んで食うから肉食特有の嫌な臭みとかは無い。ナイスタイミングだ。
さあ来い──!
「グオ?」
「あ、サイクロプスですね」
ハズレかぁ……まあ、近接での連携もついでに出来ると思えば──
「んにゃっ!!」
ずぱんっ! と音がしたかと思えばシフォンが脚を振り切っていて、ポーンッとサイクロプスの頭がちぎれて飛んでいった。
……もう、なんか、みんな強いし、連携とかしなくていいかも。
思わず大きなため息を吐いてしまった。




