2話:厄ネタの塊
『絶頂のゼニス』、前世で人気だったエロゲだ。
物語としては非常にわかりやすく、この目の前にいる少年クロムが冒険者になるが、原作の俺であるゼニスに悉くNTRれると物語となっている。
エロを見るだけならモンスターに雑に負ければゼニスが横からやってきて倒してくれてそのままゆっくりとヒロインの心が傾いていくっていう非常にわかりやすいもんだ。
しかしNTRれる訳にはいかねぇって人は自力でモンスターを倒すしかなく、ちゃんと育成しなければ即座に負けてしまう。
スキルシステムが採用されていて、自分好みに育成していく楽しさもあるというやり込み要素のあるエロゲだ。
ちなみにゼニスなんだが……真エンドではラスボスになるんだよな。条件が2週目で解放されるハードモードかつ、一度もNTRれない事が条件とかいうクソ面倒臭い条件だけど。
総じて、ゼニスっつーキャラは厄ネタ満載なキャラなのだ。くそったれ。
「ゼニスさんって、この街最強の冒険者の!?」
「うわぁ……!!」
「うっ……」
キラキラした目が向けられる。
やめろやめろ。本来だったらお前から全部取ってっちゃうんだから。しかも今隣にいるサラちゃんが最初の標的なんだぞテメー。
「あら、珍しいですね。いつもだったら誇らしそうにしているのに」
「あ、あー……あれだ。酔った」
「そうは見えませんし、強かったと記憶してますが?」
誤魔化し方が下手だったな。……どうしよ。
そう思っていると2人が俺の前にやってくると。
「あのっ!俺達を鍛えてください!」
「わ、私もお願いしますっ!」
ガバッと大きく頭が下げられた。
「え、めんど」
「そんなぁっ!?」
「そうですよね……」
ガーン、と衝撃を受けるクロムとわかっていたと落ち込むサラ。
「どうしてですか!?」
「いや、俺1級だし。成り立てホヤホヤの7級に教える事ねぇし」
後めんどいし。
「う、ううぅ……」
あっ、こらやめろ服掴むなイリスさんに助けを求めるな。ってか、今思えばイリスさんも原作キャラだ。なんで今まで気付かなかったんだろ。
「まあまあ、ゼニスさんも後進の育成だと思って、指導してもらえませんか?」
ほらぁ……こうなるー……
「なんだァ? 新人の教育かよ。そんなら俺がやってやろうか」
横から男がやってきて、俺の肩に腕を回してくる。
「なんの用だ、ボガール」
「代わりに俺がそいつらの教育してやろうかと思ってよォ」
「ひっ……!」
ジロリとサラに目が向く。
……このエロ親父め。普段は割かしマトモな癖して酒が入るとすぐこうだ。また嫁さんに絞られても知らねぇぞ。
サラが見えないように立つと息を吸う。
「おーい!誰かこいつの嫁さん呼んでこーい!」
「あっ! お、お前!?」
「もう呼びに行ったー!」
「……終わった」
青ざめた顔でトボトボと席へ戻っていく。
嫁さんが来る前にたらふく飲んどこうってつもりだな。
さて、こいつらに関してだが……
「あ、あの、ありがとうございますっ」
「……あー、うん。冒険者も色々いるから気を付けろ」
「それで、そのぉ……」
ちらりと上目遣いで期待する様にこちらを見てくる。
……結構強かというか図々しいいうか。
「………………ハァ、わかった」
「やった!」
「わぁっ……!」
「但し!条件は当然あるぞ」
「「はいっ」」
「討伐クエストが受けられるようになる5級に上がってからだ。いいな?」
「「わかりました!」」
冒険者にも級位があって、入りたては7級。とはいえこの7級は所謂研修期間みたいなもんで、クエストの受け方や薬草の種類の見分け方、行ってはいけない場所や文字が読めなければ読み書きを教える為のクエストを受ける前段階の級位だ。
1つ上の6級からクエストが受けられるが、内容としては街のちょっとした悩み事、例えば猫探しや雑草抜き、外へ出るのは浅い場所での薬草探し程度のクエストだ。
本格的な討伐はさっき言った通り5級からでゴブリンとかの雑魚だな。
ちなみに俺は当然いっちゃん上の1級だ。原作のゼニスは確か2級だったはずだからそれよりも強い。まあ、それでも原作ではこの街にゼニスよりも強いやつはいなかったっぽいんだがな。
「それでは早速研修を始めてもよろしいですか?」
「よろしくお願いしまーす!」
「よろしくお願いしますっ」
2人がイリスさんに連れられて行くのを見送る。
さてと……それじゃ俺も、NTR主人公っぽい事するか。いい事思い付いたんでな。