17話:たまには訓練でも
「ゼニスさんってあんまりクエストに行きませんよね?」
ある日、クロムのそんな一言にギルドでいつものように飲んでいた俺の動きが止まる。
これあれだ。不定休とかだったりする親とかが子供に言われるやつだ。実際言われるとクソ効くな。
「やっぱり1級とかになると報酬が良いから行く事ないんですか?」
「もうっ、ゼニスさんなんだからきっとすごい事考えてるんだよっ」
「それもそっか……やっぱゼニスさんってすごいんだ……!」
待て待て待て待て、勝手に好感度を上げるな。
サラの言葉に内心ツッコミを入れつつも目を輝かせた2人を見る。
なんにも考えてるないんだよなぁ……。実際、1級になると報酬が桁違いになるからそんな切羽詰まってクエスト受ける必要は無くなるし、金も貯まってるし。そもそもそんなじゃかぼこ1級2級のクエストが出てきたらやばいんだぞ。ゲームみたいにはいかないんだ。
「ん、あ、あー……そう、だな。うん」
アマネに目配せをして助けてくれるように頼む。
当然出来る忍者であるアマネはそれに気付いて自信満々に頷いてくれた。流石忍者は違ったな。
「お二人共、主様が稽古を付けてくださるそうですよ!」
「「本当ですか!?」」
更に顔がこっちに近付いた。近い近い!
アマネを見るとやりましたと言わんばかりにサムズアップしていた。グッ、じゃねぇんだよ。
え〜? 俺やんねぇとダメなの? マジで?
「……まあ、いいか。じゃ、訓練所行くぞ」
という訳で訓練所に来た訳だが──
「えー……俺は教えてくれないんですか?」
「その代わりアマネが教えてくれんだから文句言うな」
「やはり私ではだめなんでしょうか……」
「あ、いや、単純にゼニスさんが教えてくれると思ってから。アマネさんが嫌な訳じゃなくて……すみません……」
「まあ、一応理由としてはアマネは魔法じゃなくて忍術を使うからサラに魔法を教えらんねぇからな。それと、クロムもちゃんとした剣術をちゃんと習っておくべきだと思ったからだな」
俺も剣術の師匠から指南してもらったが、今の戦い方とは全く違うし、あんな綺麗な戦い方は肌に合わねぇ。疲れる。当然使う時は使うし、動きも忘れないように型稽古はしてる。
「そんじゃ、時間は限られてんだからとっとと始めんぞ」
「「よろしくお願いします!」」
サラを連れてクロムとアマネから離れた所へ向かう。
「さて、サラの適正はなんだった教えてくれるか?」
この世界には属性以外にも回復とか特殊な諸々の適正が存在する。例えば俺は火と雷の適正が高い。だから雷を身に纏って戦ったり、細かい操作が出来たりする。これが適正が低かったりするとそもそも身に纏えないし、しょぼい雷しか出せない。
「えっと、水と木と光と回復や補助です」
「おー、優秀だな」
「でもまだ水と木しかちゃんと使えないですし、回復や補助なんて全然……」
「最初は誰だってそんなもんだ。しかし、俺と適正が違うからちゃんと教えるとなると難しいな。でもまあ、雷と光はちょっと似てるからな。テキトーにばら撒かれる光に方向性を付けるってのは教えられると思うぞ」
サラの隣に立ち、しゃがむと手のひらに小さな雷を発生させる。無差別に手のひらの上であちこちに雷が飛び回っている。
「これがなにもしてない状態だ。そんでこれが」
1度消して、今度は手のひらを前に向けて発動させると、バチッ!という音と共に手のひらから雷が1m程真っ直ぐ伸びた。
「方向性を付けるって事だ。理解出来たか?」
「なんとか……?」
うーん、感覚でやってる俺と違って理論派っぽいから難しいかもしれねぇな。
「まあ、とりあえずやってみろ。俺も気付いた事があったら言うから」
「はいっ」