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12話:最後は気合と根性

 




「なんでこんな所にホブゴブリンが──!?」


 ホブゴブリンは本来4級相当のモンスターで、こんな5級のクエストに出るはずがないだろ!?


「グ」


「耳を塞げ!」


 サラにそう言うと俺も耳を塞いだ。次の瞬間──


「グァアアアア!!!!」


 耳を塞いでいても聞こえてくる咆哮が放たれた。音と共に衝撃が全身をビリビリと震わせる。

 見上げながら、不意にカチャカチャと金属音が聞こえる事に気付いた。もしかして誰かいるのかと思って音を辿ると、俺の手元からだった。恐怖が俺の体を支配して震えていた。


「ハッ……ハッ……」


 無意識に呼吸が荒くなる。背中はじっとりと汗ばみ、さっきまでの戦いで熱かったはずの体はすっかり冷えてしまったように錯覚してしまう。

 そうだ、サラはどうだと目を向ける。


「ぁ……こな、いで……」


 カチカチと歯を打ち鳴らして俺よりもずっと震えてしまっていた。


「ッサラ! しっかりしろ!」


「クロ、ム……」


「絶対にゼニスさんが助けてくれるから! とにかく、逃げるぞ!」


「う、うん……」


 もう一度目をホブゴブリンに向けて気付く。

 ……笑ってる。ゴブリン達みたいに知性のない笑い方じゃない。こっちを嬲ろうとしている目だ。

 なんとなく、そう感じた。

 やつにとってこれは戦いではなく、狩りらしい。いつの間には俺達の立場は入れ替わってしまっていた。


「グラァッ!」


 ホブゴブリンが棍棒を振り下ろす。さっきまでのゴブリンの攻撃とは違い。一撃食らえばまずいと一目でわかる。


「サラ!」


「『ウッドウォール!』」


 地面から木が生えてきて周囲の木から枝が伸びて瞬く間に壁になる。


「よし、今のうちに──」


「ダメッ!」


 その声がした次の瞬間、バギッ! という大きな音がした。壁の方を見てみると、棍棒が木の壁を今の一撃で半壊させていた。

 そしてまたすぐに次の一撃を振り上げようとしていた。


「逃げるぞ!」


 サラの手を取って走り出す。


「グギャア!」


「さっきのゴブリン達、もう来てる……!」


 だが、まだ距離はある。このままの距離を維持して逃げれば……

 サラが繋いでいた手を離したかと思えば走りながら服の中に手を入れた。まさか……


「く、クロム、あんまり見ないで……」


「ごっ、ごめん!」


 時間稼ぎとは言え、サラにこんな事をさせてしまう自分の弱さに悲しくなる。絶対に生き残って、強くなってやる……!

 パサッと後ろから聞こえてきた。


「ウギャウ!」


「ギャウワ!」


「クロム、曲がって! 時々曲がればゴブリン達は撒けるかも!」


「わかった!」


「ゴァア!」


「「「ギャウッ!?」」」


「グルゥア」


「「「ギャオ!」」」


 ホブゴブリンが叫んだと思えばゴブリン達がこっちを追いかけてきた。


「あいつっ……!指示してるのか!?」


「思ったよりも賢い……!」


 頭がでかい分少し頭が良いのか?

 いや、そんな事を考えている暇はない。


「サラ、俺が先導するから、とにかくあいつらの視界を塞ぐんだ!」


「うん!」





「ハァッ……ハァッ」


 あれから走り回って、とある洞窟の中へと逃げ込み、今はその最奥に隠れていた。

 辿り着くまでまでに何度も何度もサラには魔法を使ってもらい、衣服を囮にしてもらった。


「ご、めん……もう、魔力が……」


 サラがその場で崩れ落ちるように倒れるのを受け止める。

 既にサラの着ている物はかろうじで体を隠すローブだけだった。


「俺の方こそ!なにも出来なくてごめん……!」


 先導するだけで魔法が使える訳でも無く、女じゃないから衣服を囮にできる訳でも無い。

 遠くからゴブリンの声が聞こえてくる。逃げながら少しずつだが数は減らせていた。クエスト自体は成功してるだろう。帰ることができれば、だけど。

 サラを壁際に寝かせて剣を抜く。

 来るなら、来い。もう逃げられない以上。ここで時間を死んでも稼いでやる。せめて、サラだけでも生き残れるように。

 ホブゴブリンの足音が響いてくる。

 震えそうな足を叩いて鼓舞する。


「ギャギャ!」


「づぁ!」


 気合いを入れて振り下ろした剣がゴブリンの頭を叩き割る。


「ギャオ!」


「ギィィ……!」


 ホブゴブリンはまだ来ていない。大きな体じゃこの洞窟の通路は狭いんだろう。

 なら、来る前にゴブリンだけでも倒してやる。


「はああ!」


 斬る、突く、押し飛ばす。剣以外にも全身を使って戦う。

 気が付けば残るは3体。それくらいなら──


「くそ……」


「グオォ……」


 ホブゴブリンが来てしまった。

 棍棒は入らなかったのか、邪魔になったのかはわからないが持っていなかった。

 拳を握り、小さく後ろに引くと殴りかかってきた。

 覚悟を決め、盾を両手で持つと腰を低く落とし衝撃に備える。

 とにかく耐え──


「……ぁ?」


 拳が当たったと思った次の瞬間には俺は壁に体をめり込ませていた。


「……っ」


 声が出ない。身体中が痛い。俺はまだ生きてるのか?


「クロ、ム、やだ……!」


 サラが這いずりながら俺の傍にやってくると立ち上がった。


「逃げ、て……! 私が、身体を差し出せば、きっと逃げる隙は出来るはずだから……」


「……なに、言ってんだよ。そんなの」


「わ、わたっ、私、大丈夫だよ。絶対ゼニスさんが助けてくれるもん……!」


 泣きながら笑っていた。怖いくせに。嫌なくせに。

 ダメだ。そんなの、俺が認めない。まだ、まだだ。意識があるなら、まだ動ける。


「うご、けるぞ! 俺はまだッ!」


「だっ、ダメっ! 死んじゃうよ……!」


 ホブゴブリンがまた拳を構えた。もう盾は砕け散って、多分骨も折れてるけど、腕をクロスさせて防御姿勢を取り、歯を噛み締めた。

 ホブゴブリンが笑いながら拳を落とす。迫る、迫る、迫る──目の前に閃光が瞬いた。パシッ、と軽い音がした。


「ようやく見つけた」


 そこにはゼニスさんがいつもの様に笑ってホブゴブリンの拳を片手で受け止める姿があった。





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