10話:想定外と諦めない心
「ここからだよな」
「うん、ここから先がモンスターが出るって言ってたよ。ほら、リボンがあるでしょ」
「お、ほんとだ」
俺とサラの2人で森を歩く。
ゴブリン5匹。たった5匹でも初めての討伐クエストだ。頑張るぞ──
そう意気込んで10分程経ったけど。正直今までとあまり違いがない。
植物だって別に変わった訳でもなければ、未だにモンスターにも出会っていない。
正直、緊張感も薄れてきたな。
「また草摘んでるのか?」
「うん。こういうのはあって損はないかなって」
「そりゃそうだけどさ」
サラのこれで進みが遅くなっているのもある。
確かに大事だとは思うけど、俺達だってポーションを少しは持ってるし、ゴブリンなんだからそんなにしなくていいんじゃないかとも思ってしまう。
それにこう何度も立ち止まっていると方向感覚が狂いそうだ。一応目的地周辺まではギルドから支給されたコンパスでわかるとはいえ、流石にふあんになる。
「ん? サラ、しゃがんで」
「どうしたの?」
「いいから早くっ」
サラとしゃがんで草陰から顔を覗かせると、そこには緑色の肌に小さな体、長い鼻と耳で腰布だけのモンスター──間違いなくゴブリンがそこにいた。
ごくりと唾を飲み込む。
初めて間近で見た野生のモンスター。今まで遠くから見た事はあったけど、こんなに近くで見たのは初めてだ。
俺に、やれるのか──いや、やれる。ゼノンさんは前にドレイクだって狩ってるんだ。それに比べたらゴブリンくらい狩れる。
それに、見た感じ1体だけだ。不意打ちすれば間違いなく狩れる。
「サラ、俺が最初に斬りかかる。一撃で決めるけどダメだったら追撃出来るように準備してくれ」
「う、うん」
音が鳴らないように気を付けながら背中から剣を抜く。サラも杖を構えていつでも魔法が発動できるようにしていた。
2人で頷くと、猛然と草陰から飛び出した。
「うおおおおっ!」
大きく剣を振り上げて思いっきり振り下ろす。
「ギギャッ!?」
俺の声に驚いて振り向いたゴブリンを斜めから斬り裂くと、呆気なく倒れた。
「や、やった……?」
振り下ろした姿勢のままじっと見る。
「ギ、アギャオッ! アギャオッ! アギャオッ!」
するとその場で倒れたままバタバタと暴れながら叫び声を出し始めた。
「こっ、こいつまだっ!? くそっ!」
何度も何度も剣を振り下ろす。そうしていると叫び声はどんどん小さくなっていった。
「く、クロム、もう死んでるよ……」
「あ……ご、ごめん……」
「ううん、初めてだもん。しょうがないよ」
「とりあえず1体だ。この調子で後4体も──」
がさ、と音がして動きを止める。すると周りからがさがさと草を掻き分ける音が増えていく。
「こ、これ、もしかして……」
「囲まれ、た?」
「ゥギャア!」
「「「ギャア!ギャア!」」」
「5体って話じゃなかったのかよ……」
間違いなく10体以上はいる。まだ奥から音が聞こえてくるからもっといるはずだ。
こ、こんなの、どうすれば──
「クロム!」
サラの声にハッとして顔を向ける。
「諦めちゃダメだよ!」
「サラ……お前──」
怖くないのか、そう言おうとした時に両手で握った杖が震えているのに気付いた。
サラも怖いんだ。それなのに俺にそんな事を言ってくれるのか。
ゼニスさんの言っていた事を思い出す。確か、ゴブリンは女性が好きって……
息を整えて落ち着いてゴブリンを観察する。すると、ほとんどがサラの方を見てにやついていた。よく見れば腰布も浮かんでいた。つまりは、そういう事なんだ。
俺でも気付いたんだ。サラは既に気付いているはずだ。そんなサラが俺を発破してくれたんだ。なら俺だって諦める訳にはいかない。
ゼニスさんが迎えに来るまで耐えてやる──!
「来ぉぉぉぉい!!!」
ゴブリン達の目が、俺を捉えた。