1話:俺は竿役
前略、色々あって転生した。
所謂小説サイトでよく見るファンタジー世界に転生した俺は現代の便利さからかけ離れた慣れない生活にも少しずつ慣れていき、冒険者としてそれなりに強くなった。
「キマイラの討伐終わったぞー!」
「うぉおおお、すげぇ、キマイラを1人で狩りやがったよ!」
「流石うちの街随一の冒険者ってとこだなぁ」
「あったり前だろ! 俺はまだまだ強くなっから期待してろよ!」
鍛えれば鍛える程強くなるってのは気持ちがいいもんだ。強くなって高ランクのモンスターを倒せば金も貰えてチヤホヤされる。最高じゃねぇか。
「終わったぜー!」
「お疲れ様です。それではこちらは報酬となります」
ズシリと金の入った袋を受け取り、思わず顔が緩んじまう。
「オラァ! 今日は俺の奢りだぞ! 飲め飲めェ!」
「「「うおおおおおおお!!!」」」
「太っ腹ァ!」
「さっすがやる事がちげぇや!」
「抱いてくれ!」
「お前男だろ」
「チッ! 野郎の声援なんざいらねぇんだよ! 散れ散れ!」
手を振って散らせると食事のカウンターへと向かい、金の袋をドンッと置く。
「つーわけでよろしく!」
「アイヨォ! こりゃあ作りがいがあるなぁ! すぐに酒を出せよ!!」
すぐに飲むやつ全員に酒が配られる。お、こりゃちょっと良いやつじゃねぇか。
「んじゃかんぱーい!」
「「「かんぱーい!!!」」」
ガハハと野郎どもの笑い声がギルドに響く。
女性陣はその喧騒から離れた所でゆっくり話をしながら飲んでいる。
「こちらをどうぞ」
「おー! 悪ぃな、いっただきぃ!」
ウェイトレスから貰った串焼きにかぶりついて、脂を酒で流す。
「かーっ! 堪んねぇ!」
仕事の後のこいつが染みるぅ……!
気分が良くなった俺はクエストカウンターに凭れる。
「イリスさんも1杯どうよ。俺の奢りで」
「まだ仕事中なので遠慮しておきます」
「つれねぇなぁ」
ぐいっと酒を呷る。
前世に比べりゃ質はかなり落ちるが、この雑味たっぷりの酒も今となっちゃ悪くねぇと思える。
続けて串焼きにかぶりつく。
こいつは猪肉だから前世で言うところの豚串と同じようなもんだ。ただ、基本的には塩のみなんだよなぁ……。前世のタレとか醤油とかが恋しくなってくる。胡椒もこの世界高ぇし。
今世も良いが、前世も良い。難しいもんだ。
「たまに遠くを見てますけど、なにを考えているんですか?」
「んー……幸せな人生とか?」
「力とお金があるんですから、今のままで十分だと思いますけどね」
「そこにイリスさんもいてくれたらもっと幸せなんだけどなー?」
「ふふ、すみません」
「あーあ、振られちゃった」
「あっ、あの!」
「ん?」
「はい?」
そう話していると、10代半ばくらいの男女がやってきた。
「俺達、冒険者になりたくて……」
「冒険者登録ですね。わかりました」
「……ん?」
なんか、妙に既視感があるな。
じっと2人の顔を見る。んー、やっぱどっかで見た事あるんだよなぁ……
「え……っと、なんですか?」
男の子が女の子を背中に庇って俺を見返す。
「見過ぎですよ。まだ等級もないのに未来のライバルだとでも思っているんですか?」
「いやぁ、そんな事ねぇよ。ただどっかで見た事あるような……」
「……まさか、遂に男にも?」
「な訳あるかぁ!……あっ」
そうか、前世だ。前世で見たんだ。
「登録をするので名前を教えてもらえますか?」
「クロムです」
「サ、サラです」
あっ──
「かしこまりました。ではこちらのタグがお2人の等級を表すタグなので常に持っていてくださいね」
この世界──『絶頂のゼニス』の世界かよォォォォオオオオオ!!!
「? どうかしましたか、ゼニスさん」
どうやら俺はNTRエロゲの竿役だったらしい。