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第14話 江ノ島合戦 1450年4月20~21日

 敵のつもりで意識を凝集していたところが図らずも味方、しかもあまりに颯爽としたその進退。しばし気を奪われた義実が我に返り「これはいかん」と駆け出すところで轡を引かれた。

「鎌倉殿お側に侍るが里見どのの務め、ここは我が」と粗忽を責める粟飯原あいはら胤度たねのりであったが、義実の言伝その冷静には瞠目した。

「切所にならねば冴えぬのよ」と茶化した金碗八郎また義実の拳を躱し馬を出す。


 遠くなりゆくふたりを眺めて里見義実、「これはいかん」と再びつぶやいていた。

 案の定、この夜からまる一日続いた江ノ島合戦で彼に出番はなかったのである。

 功名帳きろくに残らぬのは不本意極まる仕儀ながら、後を思えば彼には幸い、であったものかもしれない。


 江ノ島の北東ねうしは腰越に陣を張った小山持政、粟飯原胤度の名を聞くや「真っ先駆けて奉公のつもりが、千葉介にしてやられたわ」と笑いながら席を蹴った。応じて胤度、ひょいひょいと大小を預けるや「お耳拝借」と歩を進める。

「失念しておった、里見どのには礼を言わねば。しかし、さて……」

 鎌倉への繋ぎは海路によって自分がつけると傍らの僧形に告げられては小山持政、苦笑せざるを得ぬところ。「里見どの、思うていたより」

 戦の気配が近づくと頭が回りだすのでござると、金碗八郎ここでも遠慮をしなかった。


 そして開かれた江ノ島合戦その経過ゆくたては以下のごとし。

 北より迫る長尾太田が兵は五百、小山勢は粟飯原を併せて二百。

 腰越の要害があるといえども衆寡は敵しがたきもの。加えて相模は上杉の地元とあれば、勢いのまま押し切られざるを得なかった。

「と、思うておろうな長尾の輩」

 想定通りの退却戦ゆえ小山勢の損耗は数えるほどにも過ぎなかった。

「つくづく里見には借りを作った」

 それでも毒づく小山持政、ほんらい南西のかた江ノ島へ退くつもりだったのだ。


「あの数では勝てぬ、退くつもりだろうが江ノ島(こちら)は困る」

 戦場へと駆ける小山持政の背を見送りつつ、これが義実の言であった。

「背に鎌倉殿を負うておっては、一兵たりとも敵を通せぬ」

 退却してくる小山勢を吸収し、数を併せて迎撃する。難事だが義実ならできぬこともない。もとより誘引の意図を持つ小山もそこは呼吸を合わせてくるところ。

 ……本来であれば。

 だが今回は万一の間違いも許されぬのだ。まして多勢に無勢とあっては、退却してくる小山ごと射すくめざるを得なくなる。


 里見義実が遣わした粟飯原胤度にその旨指摘され、小山持政は東へ駆けた。

「差配から槍働きまで持って行く? させるものかよ里見左馬」

 もとより戦上手で名高き小山持政である。長尾太田が江ノ島へ向かう気配を見せればつつくようにして挑発し、こちらを向けば距離を取り。五百の敵をあしらいあしらい、さっさと稲村あたりまで退き下がったところで鎌倉を発った八屋形の大兵に迎えられた。

「英主に謀臣、鋭き先手。小勢だが伸びるぞ鎌倉府」

 張った甲斐があるわと天に向かって大口開けたものである。


 七里ヶ浜での乱戦は明くる昼まで続いたが、小山に加えて千葉宇都宮小田と大名が揃っては衆寡も逆転。ついに長尾太田の一党は西北のかた糟谷館へと逃れたのであった。

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