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第13話 江ノ島へ 1450年4月20日夜

小山おやま下野守しもつけのかみ持政もちまさ:関東八屋形がひとつ、小山家の当主。足利成氏の協力者として活躍し、成氏と義兄弟の契りを結んだとされる。


 長尾景仲と太田道真、両名の率いる兵五百が鎌倉入りしたとの一報に合わせて義実は声をかけた。

「では、江ノ島にご動座を」

 頬を歪めて頷くや足利成氏、ためらわず鞍に身を預けた。

 「透かし」――相手の間を外す――には時宜タイミングというものがある。あらかじめ退避するのでは敵に対応の間を与えてしまう。その機微を知るあたり、足利成氏も初陣にして栴檀の芳を纏っていた。


 同じく鞍上の人となった奉公衆も初夏の薫風と用兵の妙に意気揚々、つい口数が増えてゆく。

「しかし江ノ島とは考えたな里見どの」

「確かに。鎌倉は千を以て外敵を防ぐには良いが」

 今の彼らでは手勢が足りなすぎるうえ、そも敵が内にあっては要害を活かせない。戦の世に生きる男みな知るところだが、それでも江ノ島合戦における義実の手配りは見事であった。

「江ノ島に繋がる砂州はいわゆる『百二』。これを利して禦ぎ止めるというわけだな」

「加えて里見どのは船手持ち、いざともなれば鎌倉殿を」

 逃がすならば船だ、陸を行く限り必ず追い付かれる。武相は扇谷上杉家の「持ち物」ゆえ。

 つまるところなぜ江ノ島かと言って、ひとつには隘路を利した防衛。ひとつには海路を用いた逃亡。逃げた先の房州には義実自前の地所があり、成氏の安全を確保できる。

「見直したぞ里見どの、槍働きの武者とばかり」

 足利成氏政権における里見義実の位置づけは当初そのようなものだった。腕利きの侍衛ボディーガード、槍ひと筋の男。幼き成氏を愚直に守り続けたあたり「心根は良いがおつむはどうか」と、当の成氏からもそう見られがちであった。

 じっさい実はその評価、そう間違ってもいなかった。種を明かせば里見義実、成氏に伺候している(くっついている)限りその安全と退路ばかりを考える癖がついていた。その点江ノ島ならば敵を防げて船もあるわけで、三年鎌倉に伺候して目をつけなければウソである。

 

 ともあれ本来のお役目である槍働きに励むべく砂州に留まり皆を見送る義実だったが、奉公衆の微妙な目つきは気になった。

「なあ、金碗どの。佐久で我を狙った者だが」

「まさしく。奉公衆とは限らぬが、お味方であろう」

 あの頃、すでに鎌倉殿の復権は見えていた。武田信長の台頭は読めなくとも、里見義実が君寵を得ていること誰の目にも明らかであった。

「馬鹿な。勝ちを得る前から味方の足を引っ張ってどうする」

「そういうものやも知れませぬぞ」

 放浪坊主には分かりかねるが、と金碗八郎が細めたその目の先に土煙が上がる。舌なめずりして構えた弓の射程まで十間といったところで「射るな射るな」と声がかかった。

「慌てるな、味方よ味方。小山おやま下野しもつけ、鎌倉殿にお味方いたす」

 宵闇に小手をかざせば鎌倉府でも見たとぼけ顔、確かに八屋形がひとり小山下野守持政(もちまさ)であった。

「ま、信用ならぬわな。だが奉公衆、お主らもそう噛み付くものでもない」

 言うように、代々の小山家当主は端的に機会主義者であった。ここ五十年勝ち馬に乗り換え乗り換え家の勢力を伸ばしてきたこと、自他ともに認める事実である。

「小山の勝負勘は信じてくれても良かろうが」

 言うや馬首を返した。顔だけ振り向き叫びあげる。

「鎌倉殿、聞こえてござるか! 我は鎌倉殿に張ると決めた! 旗頭と仰ぐに足る、両上杉の青首など足元にも及ばぬ、長尾太田は臭うてたまらん、そのゆえぞ!」

 まずはこの身をもって忠を示さんと、ふたたび土煙を高く巻き上げ駆け去った。

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