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狂った時計#1

エアコンがガンガンに効いた涼しい部屋で、俺は制服も脱がずにベッドに倒れ込んだ。シャツがシワになるだとか、そんなことを気にする余裕も無い。あのかっつぁんが、8月32日なんて、馬鹿げたものを否定しなかった。それどころかからかっている様子も、ましてや嘘をついているようにも見えなかった。自然体、嘘が下手くそなかっつぁんのその姿が俺の背筋に戦慄を走らせていた。「おえっ」と勝手に嗚咽が登ってくる。ぐるぐると「8月32日」の文字が脳内を踊り狂い、得体の知れない寒気が吐瀉物になって出てきそうだ。吐いたことでその寒気が全部体から出ていってくれれば願ったり叶ったりだが、そんなことが叶う訳もない。結局、8月32日を解決しない限り、俺が納得しない限り、一生この寒気と付き合っていくことになるのだろう。ぐしゃぐしゃと苛立ちに任せてペンを走らせ、真っ黒にしたノートのように思考回路が纏まらない。現実が俺を否定している。


「(そもそも此処は本当に、俺が生きてきた世界なのだろうか…?)」


ラノベとかによくあると言う転生とかいうもの。高1の時に隣の席だった、漫研の小村に激推しされて1冊だけ読んだぐらいで、それ以来読んで無い。活字は苦手だ。漫画を読むのが限界だと小村に伝えれば、その後ラノベを貸してくることは無かった。それ故に俺にはそう言った知識が無い訳だが。小村なら知っているだろうか?いや、やめておこう。漫研の描く漫画のネタにされて、とんでもない脚色を加えられて終わりだ。ひょっとしたらまともに話だって聞いてくれないだろう。はぁ、と大きくため息をついた。いや、まだだ。希望を捨てるにはまだ早いかもしれない。ひょっとしたら(ないとは思うが)かっつぁんが勘違いをしているかもしれない。年がら年中赤点祭りを必死になって回避しているかっつぁんのことだ。有り得るかもしれない(人のことは言えない訳だが)。スマホの表示だってスマホやに持っていけばきっと治してくれるだろう。脱力していた体に鞭を打って起き上がり、着たままの制服を脱ぎ捨てた。tシャツとハーフパンツを着て部屋を出る。パンイチで出歩いてもいいのだが、思春期を迎えたかもしれない小2の妹が「嫌!汚い!!不潔!!!」と怒るので出歩けなくなってしまった。昔はパンイチ姿だとキャッキャと笑っていたというのに、時代の流れとは無情なものである。ペタペタと足音を鳴らして廊下を歩き、父ちゃんの部屋の扉を開けた。ノックなんて概念はウチには存在していない。部屋の中で父ちゃんは布団の上でゴロ寝して少女戦隊を見ている父ちゃんがいた。その腹に寄りかかって妹の輝子も、同じようにてテレビを真剣に見つめている。少女戦隊にお熱をあげている輝子が、今日もまた父ちゃんを叩き起したのだろう。


「ん?おー浩介、どうした?」


「あー!こう兄が起きてるなんてめっずらしい!!」


「あーはいはい、そうだな。…俺も珍しいと心底思ってるよ」


ボソリと呟いた言葉に輝子が首を傾げる。父ちゃんには聞こえていないようだし、下手に追求されないようにと口を開き直す。


「…ところでさ父ちゃん。ケータイ屋連れて行ってくんね?なんかケータイ変でさ」


「ん?なんだ壊れたか?浩介が使ってるのも寿命かねぇ。買い換えるか?」


「いや、見てもらうだけでいいよ。まだ買ってそんな経って無いしさ」


「きぃもスマホ欲しい!!」


急激に立ち上がった輝子がそう叫んだ。どうやら少女戦隊は終わりを迎えたらしい。おませな小2の妹の同級生間では、どうやらスマホが現在最大のブームらしい。「持ってないのはきぃだけ」やら「~ちゃんも、~ちゃんも持ってる」と今必死になって母ちゃんに攻撃を仕掛けている。しかし、そんなもんで買ってもらえるほどウチの母ちゃんは甘くない。「100点を5回連続」だった条件は、いつの間にやら「高学年になってから」に変わってしまっていたことに、輝子は大層ご立腹だった。「ねぇ、いいでしょー」と猫撫で声で父ちゃんにオネダリしている妹は、7年経っても学ばない。うちの最高権力者である母ちゃんがダメと言ったらダメなのだ。こういう時、父ちゃんは母ちゃんに勝てない。


「輝子はもっと大きくなってからな。浩介10時には出るから準備しとけ。輝子も準備しな。せっかくだから終わったらゲーセンにでも行こうぜ」


「ゲーセン!」


その言葉に輝子が飛び上がって喜んだ。最近お熱を上げている少女戦隊のゲームが出てからというもの、今まで寄り付かなかったゲーセンに行くようになって、5回は毎回プレイしている。最近出たばかりだと言うのに、所持しているカードはゆうに30枚を超えた。あまりの熱量に若干引いている。俺だってそこまで熱をあげるゲームなんてない。「りょーかい」と気の抜けた返事を父ちゃんに返して部屋を出た。外出となれば流石に部屋着では出れないだろうと、着替えるために部屋に向かうと急にTシャツを引っ張られた。急に下に力を加えられたことで、驚いて振り向くと、先程まで父ちゃんの腹の上でテレビを見ていた輝子が下を向いて立っていた。


「?どした輝子」


「…お兄ちゃん、大丈夫?顔白いよ?」


「…かっつぁんにも言われたよ、それ」


「かつくん?」


「そー」


 特別かっつぁんが鋭いのかと思っていたが、あのかっつぁんが鋭かったことなんて今まで一度だってない。父ちゃんが腹壊してもきゃらきゃら笑っているような輝子も気がついている、と言うことは、俺は余程顔色が悪いのだろう。頬に手を当てるが、冷たさは無く、夏の暑さで熱った頬があるだけだ。いや、8月32日なんて不気味なものが解決すればこの顔の青白さも失せるはずだ。きっとそうだ、と、輝子の頭に手を伸ばした。


「大丈夫だって、俺が体調崩したことあったかよ」


「そうだよね、お兄ちゃん丈夫だもん。元気じゃないとかつくんのボール取れないもんね!」


「そう、だから大丈夫。お前も早く着替えてきな。…あ、母ちゃんいねーんだからあんまり難しい髪型リクエストしてやんなよー……って、行っちまった」


 納得したらしい輝子はどうやら俺の後半の言葉を聞かずに部屋に戻ってしまったようだった。ゲーセンに行くとなれば輝子お気に入りの「少女戦隊っぽい」ピンクのワンピースだろうか。少女戦隊のリーダーが大好きな輝子はその憧れも相当のもので、そのワンピースを着るときにリクエストするのが、そのリーダーの髪型である。編み込みに、くるりんぱに色々盛り込みまくりの髪型は母ちゃんですら完全再現出来ないのだ。不器用な父ちゃんになんて三つ編みから出来ないことだろう。哀れ、父ちゃん。輝子に「これ違うー!」なんて叫ばれてしまうのだろう。想像の中の父ちゃんが泣いているのを憐れみながら、俺もさっさと着替えることにした。

第二話目完成致しました。今回は2つに分けた話にしてみたんですけど、どれくらいの長さで1話にするのが正解なんですかね。

未だにグダグダしてますがこれからもよろしくお願いします

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