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第7話 緊急事態

「それじゃ、いってきます」

「「いってらっしゃい」」


 朝食を終えると、母さんは仕事へ向かうため家を出た。


「……あれ?ユミ?珍しいわね、外回りなんて」


 しかし、家を出てすぐの道に二人の衛兵が走っているのを見かけると、母さんは衛兵の一人に声を掛けた。二人の衛兵は足を止める。


「あっ。エリ」

「どうしたの?衛兵長のあなたが外回りなんて。それもこんな朝に」


 母さんが声を掛けたのはこの町の衛兵長ユミさんだ。

 母さんは衛兵長のユミさんが今ここにいることに疑問を持って話しかけたようだ。

 この町にも衛兵はいる。だが、この町は宿場町として利用する外の人間以外は顔見知りしかいないような小さな町だ。それに伴って衛兵の外回りも町の入り口と番所の前に立つくらいのものである。なので衛兵長ともなると内勤ばかりである。

 そんな衛兵長であるユミさんが衛兵の制服と装備で外回りに出ていた。


「少しエリと話していく。先に行っててくれ」

「はい」


 衛兵長ユミさんが一緒に来ていた衛兵に指示を出すと、その衛兵は走り去った。


「で?どうしたの?ユミ」

「んー……。まあ、ハンターギルド受付嬢のユミになら話しても大丈夫か」

「そんなに改まっちゃって、本当にどうしたの?」

「実はな、明け方から森の様子がおかしいとハンターから知らされたんだよ」

「森が?」

「ああ。探索に長けたハンター、それも複数人から伝えられた情報だ。何かあるかもってんで、とりあえず森の調査と万一のための準備をすることになった」

「……大丈夫なの?」

「今の段階だと何も分からないな。とりあえず、エリはハンターギルドに行っといてくれ。何かあったらハンターギルドに真っ先に伝えるから」

「ええ。分かったわ」


 そうして母さんはハンターギルドへと向かった。


「(……森の様子がおかしいって、どういうことよ?)」


 母さんとユミさんの会話を家の玄関の陰に隠れて盗み聞きしていた私とアイ。


「(もしかして、何年かに一回ある森の中層の魔物の襲来なのかしら……?にしては仰々しいような……)(ガタッ)」


 考え込んでいると、玄関の扉に肘をぶつけてしまった。


「ん?もしかして…………あー、やっぱりユメとアイか」


 物音に気付いたユミさんがうちの玄関へとやってきて、盗み聞きをしていた私とアイを発見した。


「今の話聞いちゃってた?」

「聞いてたわ。ごめんなさい」

「……ごめんなさい」

「あーいいよいいよ。別に怒ってるわけじゃないから。ただしこのことは他言無用で……」


 カーンカーンカーン!!!


 ユミさんが私とアイに何か言おうとした時、大きな鐘の音が町中に響き渡った。

 今の鐘の音は早朝の鐘の音とは違い、町の中心地に設置されている鐘から鳴ったものだ。


 カーンカーンカーン!!!カーンカーンカーン!!!


「(鐘が連続して三回……緊急事態の合図だっ!)」

「二人とも!今の聞いてたな!」

「ええ!」

「……うん」

「そういうわけだ、すぐに集会所に避難してくれ!私は連れていけないから二人で行くんだぞ!いいな!」


 そう言ってユミさんは急ぎこの場を走り去っていった。

 そして、私はアイを連れて町の中心の集会所へと向かう。




 ◆◇◆◇


「何があったの……?」

「……ママ……ママ」

「なんなのよ、もう」

「うぅぅ……こわいよぉ」


 私とアイは集会所へと着いた。

 集会所には町の人達が大勢避難していた。だが、町の全員初めての緊急事態である。皆の不安や戸惑いで集会所は溢れていた。


「お姉ちゃん……」


 ここに来る前もそうだったが、この場の雰囲気に当てられたせいでアイはさらに不安になったのか、私の腕をギュッと掴む。


 ……ドガンッッ!!バダバダッ!!


 すると突然、外から何かが弾け崩れるような衝撃音がした。


「っ!!(何よ……今の?町のはずれの方からしたけど、もしかして……)」


 このハイノラ町は街道沿いの宿場町であり、その街道は谷沿いにある。その谷の上には大きな森が広がっている。そして、その森には凶悪な魔物が生息している。なので、この町には町の規模には見合わないほど高く分厚い壁が全周に張り巡らされている。


「(今の衝撃音……。もしかして壁が壊された?いやでも、森の奥に強力な魔物はいるけど、浅いところにいる魔物じゃ、あの壁を壊すことも乗り越えることもできないはず……)」


 ……バコンッ!ドガガッ!バギギッ!


 さきほどの衝撃音から少しして、衝撃音のした方角から破壊や崩壊、何かが衝突する音が次々に聞こえてくる。


「(なによこれ……。本当に壁が壊されたっていうの?)」

「お姉ちゃんっ、お姉ちゃんっ!」


 アイが私に抱き着いてきた。


「……アイ。ついてきなさい」

「お姉ちゃん?」

「怖いかもしれないけど、少し頑張って歩いて。できるわね?」

「……うん」

「よし、いい子いい子」


 私はアイの頭を撫でてから、アイを連れて集会所の奥の方へと向かった。


 ギィッ!!ダンッ!!バガッ!!バキンバギン!!


 集会所の奥に着いた頃、外から聞こえる音がどんどんと大きくなっていた。

 いや大きくなっているのではなく、音がこの集会所に近づいていた。


「(何がどうなってるの?町中から聞こえてくるのだけど。これってどう考えても町の中に入られたんじゃ……っ!?)」


 すると、集会所の入り口の扉からカサカサという音が聞こえてきた。


「(何かが這ってる?……っ!?)」


 それは扉の外を何かが這うような音だった。

 さらに、扉からガリガリバキバキという音が聞こえてくる。その音は扉をひっかき剥いでいるような音だ。

 そして……


 ……キシッ


 扉に空けられた穴から巨大な蟲が顔を覗かせてきた。


 さらに扉がひっかき剥がれ無数の穴ができた。それら穴の全てに大量の蟲が頭を突っ込んで、集会所の中を覗き込んできた。


「キャァァァァァァァ!!!」

「うわぁぁぁぁぁぁ!?!?」

「いやぁ!いやぁ!いやぁっ!!」

「あぁぁぁぁぁ!!!」


 集会所の中はパニックになった。

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