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第6話 鐘が鳴る

「……という感じで、私はランに一発入れてやったわけよっ!」

「わ~!すごいわ~!ユメ~!」


 家族との夕飯の席。

 私は今日のランとの喧嘩を意気揚々と語った。


「……でも、お姉ちゃん。顔のところあざになって、ケガしちゃってるよ……」

「これくらいなんでもないわよ。アイ」

「そうねぇ~、むしろケガでユメがかっこよくなっちゃったわね♪」

「もう。アイはお姉ちゃんのこと心配してるのに……。お母さんもお姉ちゃんのこと少しは心配してよ」


 母さんは私の話を楽しげに聞いているが、妹のアイは私の身を案じているようだ。


「ユメはお父さんの血なのよ。お父さんが生粋のハンターなんだから、ユメも似たのよ。かっこいいわ~」

「かっこいいって……それに、お父さんもう十年以上帰ってきてないよね」


 私とアイの父は世界をまたにかけるハンターだ。どのような人かを一言で言えば、自由の化身のような人だ。父さんの辞書には「定住」という言葉が無いらしく、いつもどこかで旅をしている。母さんとは昔から数年おきにこの町に帰ってきて少しの間会うだけらしい。


「そもそも、アイお父さんの顔すら知らないし……」


 とてつもなく自由人な父さんだが、それでもいつも数年おきには帰ってくる。しかし、妹のアイが産まれてすぐに旅へ出て以来、十年以上帰ってきていない。私も父さんと最後に会ったのは2歳の時で、妹よりはマシだが父さんの顔はかなり朧気だ。


「そうね~。でも今回はちょっと長いだけでそのうち帰ってくるわ」


 父さんはハンターという危険を伴う職業についている。これだけ長い間帰ってきていないと、嫌な想像が浮かんでしまう。しかし、母さんはそういうことは言わないらしい。


「あっ!そうだったわ。ユメ、アイ。二人とも明日の夕方は家にいてほしいのだけど」


 母さんは何かを思い出しように手をたたく。


「ん?いいけど、なんで?」

「アイも大丈夫だけど、なにかあるの?お母さん?」

「私、明日の仕事が午前までで、午後は休みなのよ。だから、久しぶりにユキコさんのところのレストランに行こうと思ったのよ。もちろん家族三人で」

「え、いいの!?でも、ユキコさんのレストランって結構高いよ。行けるのは嬉しいけどお腹いっぱい食べられないのは……」

「いえ、明日は好きなだけ食べて良いわよ」

「え、それだとお金が……」

「お金なら問題ないわ。じゃじゃ~ん!(ジャラッ)」

「あっ」

「これ……うわっ!銀貨がたくさん入ってる!」


 母さんが机の上に十数枚の銀貨の入った革袋を置く。


「お母さん、どうしたのこれ?」

「母さん。これって……」

「そうよ、ユメ。あなたが助けてあげたっていう、カナデさん、だったわね。彼女からいただいたものよ」


 母さんが取り出したお金は、一週間前にカナデからパン粥の代金としてもらったお礼のお金だった。


「え?どういうこと?お母さん?お姉ちゃん?」

「それがね~」


 母さんは私がカナデにしてあげたことと、そのお礼に机の上のお金をもらったことを説明する。


「そんなことがあったの!?さすがお姉ちゃん!」

「おっ!とと……よしよし」

「んふふ~」


 話を聞き終えると、アイは私に抱き着いてくる。

 私はアイを受け止め、頭をなでてあげる。アイはご満悦といった様子だ。


「もう!すぐにそうやって二人で仲良くするんだから!プンプン!」

「お母さん。うらやましい?まぜて欲しい?」

「うらやましいわ!私もまぜて!」

「ダメ~」

「なんですって~!」

「二人して何を言い合ってるのよ……」


 というわけで、明日は家族三人で久々の外食となったのであった。




 ◆◇◆◇


「それじゃあ、二人ともおやすみなさい」

「おやすみ。母さん」

「お母さんおやすみ」


 夕食を終え、私たち三人はそれぞれの寝床へと向かう。母さんは自分の寝室へ、私とアイは姉妹一緒の寝室へ。


「お姉ちゃん。今日もお姉ちゃんの大好きな英雄のお話を聞かせて」

「いいわよ、アイ。……でも、あなたもう11歳なのに、まだ寝る前のお話が必要なのかしら?」

「いるもん!大人になってもいるもん!」

「えぇ……。さすがに大人になったら卒業してほしいわ」

「え、うぇ……ダメ、なの?」


 アイの美しい星空の瞳がうるみ、私を見つめる。


「うっ。……はあ、しょうがないわね。してあげるわよ」

「大人になっても?」

「ええ。大人になっても」

「やったー!お姉ちゃん大好きっ!」


 私の胸に飛び込んでくるアイ。

 私はアイを柔らかく抱きとめる。


「……その代わり(クイッ)」


 私はアイのあごを片手で優しく持ち上げて、彼女の顔、そして瞳をこちらに向けさせる。


「アイの綺麗な星空の瞳をこれからもずっと私に見せなさい」

「お姉ちゃん……」

「少なくとも、寝る前のお話をする時にはね?」

「うん……いいよ。お姉ちゃん」


 しばらくの間、アイのほのかに紅潮した頬の上で輝く星空を、私は眺めた。


「……お姉ちゃん。そろそろ私もお姉ちゃんのお話聞きたいな」


 アイの瞳に長く見入っていた私に、彼女は声をかける。私は意識を瞳から離した。


「思わず長く見てしまったわ。じゃあ、お話しておげようかしら」

「うんっ」

「そうね。今日は、神話の時代の英雄『天翼のイルマタル』について話してあげるわ」

「ふふふっ。楽しみ」

「天翼のイルマタル。空を飛翔し、気を震わせ、天をとどろかせた、太古の英雄……」


 そして、私は英雄譚を語り始めた。


 その後、少し夜が更けた頃、アイは私の語りを子守唄にして眠った。アイが気持ちよく眠っていることを確かめると、私もすぐに眠った。






 ……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ガコッ


 ◆◇◆◇


 ゴーン!ゴーン!ゴーン!ゴーン!


「っ!?な、なによ!?」


 翌日早朝。突然の大音響に目を覚ます。


 ゴーン!ゴーン!ゴーン!ゴーン!


「これは……鐘の音?でも、町の鐘とは違うわね」

「すぅ……すぅ……すぅ……」

「え?アイ?」


 こんな大音量で鳴っているのに、アイはすやすやと眠り続けている。


「……なんなのよ?町も静かだし」


 これだけ大きな鐘の音がすれば、町の全員が気付いてもいいくらいだ。しかし町にはいつも通りの早朝の静けさしかなかった。

 しかし、私は違和感を発見する。


「え……鐘が揺れてる……」


 一週間前の女神様の宣託?の夢を見てから、ずっと視界端に映っていた鐘のマークが左右に大きく揺れていた。昨日までこの鐘は動いていなかった。いや、正確には徐々に少しずつ横に傾いていっていたのだ。

 しばらく見ていると、鐘の揺れが小さくなっていく。それに合わせるように鐘の音も小さくなる。


「……止まった」


 そして、鐘は揺れなくなって静止し、鐘の音も聞こえなくなった。


「な、なんなのよ……?」

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