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第4話 私って1点なの?

「それじゃ、早速稽古を始めようか」

「ええ!よろしくね!」


 カナデに稽古をつけてもらえることになった。

 今、私たちは家の裏にある空地へとやってきた。


「じゃあまずは『身体強化』を使ってみせてくれ」

「分かったわ。ふぅぅ……はぁぁ……」


 私は目を閉じ深呼吸をして、息を整える。


「(……カッ!シュッシュッシュッ!!)」


 そして、目を開けて、その場でシャドーを始める。

 十回ほどパンチをしてみせた。


「どうよ!」

「100点満点中1点だな。全然なってない」

「えぇえ!?」


 開始早々いきなり、とてつもない低評価のダメだしをくらってしまった。


「1点!?なんでそんなに低いのよ!?」

「うーん、先に説明してやってもいいけど、逆になんで低い評価にならないと思った?稽古を頼むくらいの向上心はあるんだ。自分の実力を悪くて赤点ギリギリ、潜在能力や才能があれば平均以上くらいに考えてたんだろ?」

「…………」

「オレに点数を言われた時、自分は魔力を"普通"に扱えているのだから1点のはずがない、って思ったろ?」

「うっ」

「図星か。ユメ、お前は英雄になると言ったな。そして今ハンターのオレに教えを乞いている。だったら"普通"じゃダメだ。魔力を普通にしか扱えないなんて許さん」


 カナデは私にビシッと指をさす。


「ユメ。『身体強化』とはなんだ?何をすることだ?そして魔力とはなんだ?説明してみろ」

「え?説明?」

「そうだ、早くしろ」

「わ、分かったわ。身体強化は魔力を使って自分の体を強くすることよ。魔力は……えっと、魔力は魔力よ」

「説明も1点だな」

「なんでよ!?」


 カナデはやれやれと言った感じで肩をすくめた。


「これは直接稽古をつけてやる前に、座学から始めてやらないとだな。いいか、これから言うことをよく聞け。よく理解しろ。いいな?」

「え、ええ」

「まず身体強化というのは、一言で言えばユメが言った通りだ。魔力を使って自分の体を強化する。もう少し詳しく言えば、魔力を自分の肉体の必要な部位に流し、流した魔力を必要な量活性化させる。そうすることで自分の望んだように身体能力や防御力を上げる。これが『身体強化』だ」

「必要な部位……魔力を活性化……」

「別に難しいことを言ってるわけじゃねえ。走るんなら脚の力が、長く歩くんなら持久力が、殴るんなら腕の力が必要になる。だからその必要な部位を強化するってだけのことだ。活性化というのもユメの言った"魔力を使う"ということと同じだ。さっきみせてもらったようにユメは魔力を"普通"に使えている。だからその感覚を教えてやる必要はないだろ?」

「まあ、そうね)」


 私は拳を握り、自分の中にある魔力の存在を確かめた。


「そんで、魔力だが……。ユメ、ぶっちゃけなんも分かんないだろ?」

「いや、そんなこと……」

「さっきのユメの説明を聞けば、なんもわかってないのは明白だぞ。どうせ、魔力はあたりまえに使える力、それ以上でもそれ以下でも無い、という感じだろ」

「うっ……ぐぬぬぬぬぬ」

「おいおい、そんなにプリプリするな。別に知らないことを責めてるわけでもからかってるわけでも無いぜ。逆に、ユメが魔法大学の学者連中みたいに饒舌に魔力について語り始めたら怖えよ」


 カナデのからかいっぽい口調と自分の無知への恥で、私は少し頬を膨らませてしまった。


「じゃあ、教えなさいよ」

「ああ、ちゃんと教えてやるよ。とはいっても詳しくは教えない。難しく説明しても強くなるのにはあんま関係無いしな。そういうのはさっき言った学者連中の仕事だ。というわけで、魔力ってのを一言で説明するんなら、"火の粉"だ」

「火の粉?」

「魔力ってのは、空気の中、地面の中、水の中、石の中、植物の中、動物の中、人間の中、オレの中、そしてユメの中、あらゆるところに存在する力の源だ。それらは無数の小さな火の粉のように散らばって存在している。しかし、オレら人間はその散らばった火の粉を集めることができる。ユメ、散らばっていた火の粉が集まったらどうなる?何になる?」

「……火になる」

「そうだ。集められた火の粉は一つの大きな火になる。火の粉では何の役にも立たなかったが、火であれば体を温めることも料理をすることも敵を焼き討つこともできる。そして人間は魔力という名のその火を操り、様々な現象を起こす。これが魔力だ」

「へえ……。なるほど」

「これでユメが1点の理由が分かっただろ?」

「え?えーっと……?」


 私は目を泳がせてしまう。


「分かんないのか……。説明しただろ?魔力は空気や地面、水、生物、あらゆるところに存在する。そして人間はその魔力を集めて使う」

「つまり?」

「魔力は色んなところからかき集めて使うんだよ。ユメは身体強化をする時に自分の中の魔力しか使ってないんだよ。身体強化をするなら魔力はあればあるほど良い。自分の中の魔力だけでなく空気や地面などの自分の外側の魔力も使わないと、大した強化はできないぞ」

「自分の外側の魔力を使う……ってどうやるのよ?」

「それについて教えてやりたいんだが、そうもいかない」

「なんでよ?」

「だって、ユメは自分の中の魔力すら使いこなせていないからな」

「え?」

「自分の中の魔力も十分に使いこなせないのに、いきなり大量の魔力なんか与えてもしょうがないだろ」

「もしかして、私が1点なのはそれが理由?」

「そういうことだ。赤ん坊とは違って魔力を"使えてはいる"から100点満点中、おまけの1点だ。ついでに言うと、身体強化は全ての人間が本能的に使えるものだから、"普通"に使えている程度では点数はおまけの1点だけだ」


 私の実力に対する酷評に少し俯いてしまう。


「私、もしかして才能無いの?」

「才能うんぬんでいえば、有る側では無いな。ラン?だっけ?ユメがいつも喧嘩してる相手。そいつは今いくつだ?」

「14。私の一個上」

「なるほど。そいつは才能有る側だな。ユメはそいつに今まで一撃も当てたことがないんだろ。大した訓練も受けてないのに同年代を一方的にボコれる時点で才能アリだ」

「う、ぐぬぅ」


 私は改めて才能の差を突き付けられる。


「でも、身体強化とその才能だけが勝敗を決めるわけじゃないからな」

「そうなの?」

「ああ、そうだ。図体も力もデカい牛が、自分の半分の大きさも力も無い狼に負けるだろ。人間同士も同じだぜ」

「確かにそうね」

「だが、だからといって身体強化が勝敗を決める重要な力であることには変わりねえ。というわけで、まずはユメ、お前の中にある魔力を十分に使えるようにすることからだ。それじゃ、稽古を始めるぞ。ユメ」


 稽古を始めようとするカナデ。

 しかし、私は一つ気になっていることがあった。


「カナデ、一つ聞いてもいいかしら?」

「ん?なんだ?」

「『天醒(てんせい)』があれば強くなれる?」


 女神と世界が与える奇跡の力。天醒。

 私はこの前の夢と視界端の鐘が気になって、思わず聞いてしまう。私はカナデから冒険譚や英雄譚のような夢や期待膨らむ答えが返ってくると思った。


「天醒には頼らない方がいい」


 しかしカナデは期待をバッサリと断ち切った。


「あれは、自分にあるのかないのか良く分からないものだからな。"あんなもの"に想いを馳せる時間があったら、身体強化みたいな確実な力を鍛えろ」

「そ、そう……」

「(……ただ、女神様の宣託が下ったんなら話は別だがな)」


 カナデが最後にボソッと呟いた。


「え?何か言った?」

「いや。なんでもねえ。それよりも座学はこの辺にして、とっとと始めるぞ」


 そして、カナデの稽古が始まった。


「ユメ。とりあえず、さっきお前が木人形にやっていたようにしてみろ。その場で」

「ここには、木人形が無いけど?」

「的には打ち込まなくていいから、いつものようにその場でパンチしてみろ」

「分かったわ。(シュッ、シュッ、シュッ!)」


 私は身体強化を使い、木人形は無いが、いつものように連続でパンチをした。

 数十回ほどパンチをすると、カナデの方を向いた。


「(シュッシュッシュッ!)……したわよ?」

「よし。じゃあ今後その訓練は禁止な」

「ええ!?なんでよ!?」


 カナデは今まで私のやってきた特訓を禁止した。


「それは、お前のやってた訓練は身体強化の訓練には全くなってないからだ」

「訓練になってない?」

「身体強化には様々な使い方があるが、大きく分けると二つだけだ。本来の身体能力以上の力を出すことか、持久力を上げるかの二つだ。"身体能力強化"と"持久力強化"といったところだ」

「身体能力強化と持久力強化……」

「さっきのユメの訓練だと、身体強化を継続的に使用する持久力強化の訓練になっていて、身体強化を一瞬だけ使用する身体能力強化の訓練にはなってない。それに持久力を鍛えるにしても効率が悪いしな。強くなりたいんなら自分の力を維持する訓練じゃなくて、自分の力を超える訓練をしなきゃな」

「自分の力を超える訓練?」

「要するに身体強化を使って、筋力や瞬発力、柔軟性、平衡感覚、防御力といった一瞬に使う身体能力をより大きく強化するための訓練だ。自分の身体能力を一気に上昇させて一撃で相手を倒す……一撃必殺の訓練をするってことだ」

「一撃必殺……。(ゴクリ)」

「それじゃ、今度こそ稽古を始めるぞっ!」


 そしてついに、カナデとの実践的な訓練が始まった。

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