最後のクエストを「神様」から受注しました。
ピコンッ
『クエストを「村人B」から受注しました。』
「ワン!」
銀色の大きな体にもっふもふの尻尾を揺らめかせ、我輩は今日もご主人と一緒に受注されたクエストをこなしていく。
薬草集めにモンスター狩り。
街に戻って来たのは、三度の夜を越えた山々や大草原に朝の光が城壁を照らす時間。
この世界はグラフィックが群を抜いて綺麗だと、いつかご主人が言っていたっけ。
「銀次のおかげで大収穫だよ。いつもありがと〜」
「ワン」
冒険者ギルドにてクエスト完了手続きを行う。
満面の笑みでワシャワシャと我輩の顔を混ぜるご主人はとても楽しそうだ。
クエストをこなし、時にイベントで刺激を受け。
ボス戦に苦労しつつ仲間達と泣き言を叫びながら戦線を駆け回り。
ダンジョンでレアアイテムをゲットして、うるさいくらい一喜一憂したり。
マイホームの模様替えをまったりしながら、ナデナデされる時間が一番好きだった。
シーンと静まり返る室内。
あんなに騒がしかった声が、仲間達が、今は誰も近くにいない。
一人、また一人と減っていったプレイヤー達。
ご主人も「また遊ぼうね」と言ったっきり、ここ数ヶ月ゲームにログインしていない。
マイホームのベッドでご主人の寝顔を眺め、何で起きてくれないのかを考える。
学習機能はあれど、ゲームAIの我輩には人間の考える事は未だにわからない。
わからない事を考えても仕方ない。でも、ご主人の寝顔を見るのは何故かやめられないし、声も聴きたいし、撫でて欲しいと思う気持ちは確かにある。
捨てられたのかと思った。
思ったけれど、ご主人に限ってソレはない。
あのちょっと抜けているご主人の相棒は、我輩しか務まらないという自信もある。
── 頼むから。
『1時間後にこのサーバーは凍結します。』
毎日なんて贅沢な事言わないから、頼むから最後に一回だけでも帰って来てよ。
ホログラムが崩れ、世界が美しく崩壊する中。
ピコンッ
『最後のクエストを「運営」から受注しました。』
久しぶりのクエスト音声が流れた。
真っ白に視界が染まり。
目を覚ましたのはご主人じゃなくて、我輩の方だった。
「銀次、おはよう。遅くなってごめんね」
「キャン?」
いつもより甲高い鳴き声に、ピコピコと動く尻尾。
ご主人の腕の中にスッポリ収まる体。
アイテムボックスも開けない、小さいのに重力が重たく感じる不便極まりない世界だけど。
最後のクエストは、ご主人に巡り逢えた事でとっくにクリア出来ていた。
『どうか、幸せにね。』