今の空は何色をしている
今の空は何色をしている
ルックバック
靴の裏に付いたガムをこすりつけた。誰が噛んだ?
「子供の食べ物だろ」天馬は一人言を言った。
ガムは化石化していた。
ガストで朝食を普と食べる約束だ。普はもう来ていた。
光ってる木を尻目にガストに入った。
「よ」
「お一人様ですか?」
「いやあ・・」
普が座ってるテーブル席に着いた。表には子供が一人も歩いていない。
「いい時代になったな」灰皿がなくなって久しい。
この世界には子供はいない。天馬は光ってる木を見ていた。
「ワリカンよ」
普はもう決めてるらしい。メニュー表を天馬は手に取った。
ワリカンだから高い方がいいに決まってる。白玉にしようかスイートポテトにしようか。
「決めた」メニュー表を置いた。
「呼ぶわ」
「お決まりですか?」
「私はこれを」普はベイクドチーズケーキを頼んだ。負けた。
「僕はスイートポテトを」
来るまでの間、男と女の話になった。
「みんな優しいのに女は優しいなんて自己満じゃねえか」
「男って頭に血が上りやすいのね」
「自己犠牲の上に成り立ってるんだ、世界はよ」
「子供だった大人よ」
「女って耳が痛いな」
スイートポテトが先に来た。焼き色が付いている。
「お先に」
「ねえ天馬はもうちょっと学があったら何になってみたかった?」
「んー、スイートポテト食べてる間に考えとく」
ベイクドチーズケーキは10分の1カットだった。
「さっきの話だけどさ」
「もうやめようよ」
「いや、学があるって」
「ああ、あれか」
天馬は頭を掻いた。
「やっぱり小説家になってみたかったかな」
「私のことは聞いてくれないのね」
「ああ、普は?」
「分からないから聞いてるんじゃない」
空を見ていた。空の色は鳥しか知らない。
「今日の空は何色だか知っていますか?」ケータイに打ち込んだ。送信先は普だが、まだ送信しない。
「さ、そろそろ出ようか」
「お昼はバーミヤンね」普が唇を拭いた。
「お前バカか」
普はタッパーウェアを持っていた。
「だって、食べ切れないんだもん」
自分の部屋に帰る途中、「今日の空は何色だか知っていますか?」を送信した。
テレビをつけると、「この後は各地のニュースを・・」だった。
この部屋は日が当たらないのでいつも暗いが、ドアポストに何か投げ込まれた拍子に日が差した。
ちょうど片付けようと思ったところだ、天馬は立ち上がってドアポストから玄関に落ちた物を拾った。
人間管理課から「最後通牒」と書いてある。開いてみると、「自己中を今すぐやめないとあなたも子供になりますよ」と書いてあった。
天馬はケータイを開いた。普にどういうことか連絡してみようかと思ったのだ。
返信が来ていた。「うみ」としか書いてなかった。
それどころじゃない。天馬は人間管理課に急いだ。
「あのー、こんな通達が来たのですが」
「書いてある通りですよ」
「たまに板チョコ買って来るだけで」
「言い訳でしょう」
自己中ってのは自分本位ってことか?
「今日の空は何色だか知っていますか?」
子供管理官には杏子という普の友達もいるはずだ。
俺の居場所なんてすぐにバレてしまう。
これか。予感していたものは。ガムを踏んだ時から。
普はもうバーミヤンのテーブル席に着いて、上にタッパーウェアを乗せて、「淡い色」と打ち込んで返信して待っていた。
ここもワリカンにしよう。いっぱい頼んで、持ち帰って、夜もバーミヤンにしよう。
ラーメンは持ち帰れないから担々麵食べて、小籠包と青椒肉絲、あと酢豚・・、ライスも。
天馬は自分の部屋に帰ってモッズコートに着替えて出て行った。もう帰らないつもりでいた。
子供にされたらどうなるか分からない。フードを頭からスッポリ被って、「僕の名前はイ・ギアン」と呟いた。
ライクアストーン
杏子から「天馬って人、どこにいるか知らない?」とメールが来た。
バーミヤンに最後まで現れなかった天馬に普は怒っていた。全部、自分で払うことになった。
「あんな人、知らない」と杏子には返信をした。
「今日の空は何色だか知っていますか?」とまた天馬からメールが来た。
天気予報は言ってくれない。
「さて、サッカーの話題ですが」普は「ペチュニア」と返信をした。
イ・ギアンになってから天馬は誰とも口を利かない。舌禍。どこから子供にされるか。
ガストから何も食べてない。白玉にすれば良かった。スイートポテトに唾液が持ってかれたままだ。
生き延びるためだ。
ああ、心が降る。あの色は何色をしてた。
天馬はペチュニアがどんな色か知らない。
「今日の空は何色だか知っていますか?」
「杏子から聞かれたけど、今どこにいるの?」
天馬は返信を返さないで、足をずって歩いた。まだ靴の底にガムが付いてる気がする。
「焼き芋色」と普から返信が来た。
本当だ。さつまいろだ。
普は食べ切れないのでタッパーウェアを冷蔵庫に詰めた。また杏子からメールが来た。
「子供?」メールを見てテレビの前に座った。
「うん・・うん・・自己中だけど・・強がりなんじゃない?・・うん、分かった。見つけたらね」
自意識のない彼は心は別にある。
イ・ギアンは空気を吸った。そのままため息になった。
まるで人生ゲームだ。
イ・ギアンはゴミ集積所に辿り着いた。マネキンだかに間違えられて誰も声をかけない。
「今日の空は何色だか知っていますか?」
緑色のネットを腰まで枕にして足を投げ出した。
「雨も夜明けもパープル」返信が来た。
どこに雨も夜明けもあるものか。宵の緑じゃないか。
存在が打ち上げ花火なんだよ。
やみし我はすべていえて
言葉に出ない。ゴマシジミが飛んでいる。目で追っていくと、お前はゴミじゃない、お前はゴミじゃない、普がいた。
「本当に黙るのね」普は煙草を吸っていた。
今日の空は何色だか知っていますか?
「普通の色」
普は僕の乾いた唇にチョコレートを挟んだ。
僕は肯いた。




