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余吟抄  作者: 森川めだか
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ポテトチリバーガー

ポテトチリバーガー

         


Teeth


 凍えた翼は秋を連れてくるなんて。

「僕」は富士の樹海にいる。その前には軽喫茶アンダルシアで軽食を取ったっけ。

記憶の中だけの「顔」。時々、浮かんでくる苦しそうな顔。

左手がかぶれてる。水ぶくれになってる。それは何でか手を枕にしていたからだと分かっている。

ここに来るまではオールディーズを泣きながら歌ってたんだ。どんな曲だっけ。

そうだ、ジョニーウォーカーの曲だ。なぜ自分は樹海にいるのか。

それにしても異常な暑さだ。確か、ホマサイドの事件を追って、追われていたのか?

殺したのか殺してないのかも判然としない。何で富士の樹海に行ったのか、逃げるためだ。

名前、名前、唇がただれている。アンダルシア、僕は顔を上げた。

「一番オーソドックスな物を一つ」

ポテトチリバーガーを出されたっけ。

「口の中が夏だ」つまらないジョークも言ったっけ。

「みなさんそうおっしゃいます」

確か、俺は刑事だった。腕を冷やす、腕のかぶれは噛みつかれた跡にも見える。

「バルサミコ酢です」

ああ、そうか、隠し味だ。自分が気持ち悪い。

木をリスが上ってゆく。拳銃はないが手錠はある、何をする気だった?

自分で、自分を、タイホ、タイホ、逮捕するか。逃げるために迷い込んだ富士の樹海で自分が何をしたのかも分からないで、そもそもなぜ記憶がない?

「僕の誕生日にはピザトースト」何だ、この記憶は。

せめて自分の名前だけでも思い出したい。タオルハンカチで汗を拭いた。

ポリスアカデミー。そこで出会った、人、彼の名は、彼はシイナ。僕の名前はシイナだ。

シイナは自分の手と木を手錠でつないだ。女の顔、誰だ?

コーヒーも淹れてくれた。

愛の国は天国です、だから誰も見た事がない。

これでやっと思い出すことができる。シイナは口の中のチリソースを舌で舐め取った。


Told


 犯罪心理学では模倣犯は自分の力を誇示するために行う。記憶の森だ。

それを専門にしていた俺のバディ、チ、チャ、チャンだ。

「顔」はチャンだった。このタオルハンカチもチャンのだ。

ガンバロー、ガンバロー、シイナは手錠を外した。チャンとはそんな深い付き合いだったのか?

抜け落ちてる。口唇ヘルペスだ。インフルエンザでもひいていたのか?

こんな夏にインフルエンザ? 気になるただれを指で触った。

目はブラウン、髪はイエローだ。誰だ? 俺の娘だ。スモーキー。

チャンは俺の妻だ。何だ、そうか、何で忘れてたんだ。

斜面の上にイヌイットが使うようなバンガローがある。夏の吐き気を我慢しながら上った。

足で蹴ると頑丈だ。開けると右のベッドで布団が被せられていた。めくると俺だ。

泡を吹いて死んでいる。サルモネラ菌か何かだろう。ああ、そうか、このために来たんだ。

シイナはバットを持って頭を打ちつけた。これで記憶も。

俺の中の抜け落ちてる部分が死んで、僕の中の「女」の部分。誰だ?

「昨日話したくない?」チャン。スモーキーはどこにいる。

バンガローのような狭い家でキッチンと洗面所だけはピカピカだ。

「僕の誕生日にはピザトースト」チャンのお腹がふくれている。これから生まれてくる子供。

俺の人格と別行動を取るのがスモーキーだ。俺がこんな事。

今夜帰るまでは生まれないでくれよ。パパは気になる事がある。

隣の家からポテトサラダの匂いがする。「いい子にしてた?」息子が俺の顔を見るのはどこか他人のようだ。

「違う名前にしようか」チャンのお腹をさすった。「あなた、ちょっと・・」

「ちょっと」シイナは指で歯を磨いて吐いた。自分の「顔」を見もしないで。

洗面所で吐き続ける夫を見て、鏡には子供の背中をポンポンしているチャンが映っている。

別れの理由を探している。


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