1話 人間
俺は藤原匠海。なーんにもない普通の人だ。
陽キャと陰キャの中間みたいなものだ。成績はまあまあいい感じで、無難に高校生活を過ごしていたのだが、こんな俺にも春が来た。だけど…
「私と付き合ってよ、匠海くん!」
半年ほど前に、近場の駅で知り合った莉桜那という人から告白されていたのだが、結構悪い噂が絶えない。浮気…イジメ…。でも彼女の美貌は確かだった。美しい茶色が光る黒髪のボブヘア、程よく足が細く、全身が美しさを演出していた。友達とは本当に仲が良く、いい印象もあった。でもなぜこんな俺に惚れたのか。
「ね?付き合うでしょ??」
「えと……」
告白自体があまりにも強引で、ネクタイを引っ張られ顔を近づけられた。
でも何かがおかしいように感じた。莉桜那は思い切りがいい人だが、こんな緊張する場面ではこんな姿を見たことがなかった。
「嘘コクですか?」
「…………はぁ??なわけないじゃん!ンッ──」
あまりにも突然で、目を開けるとキレイで艶のある色白な肌、熱い吐息、香水のいい香りが襲ってきた。
──その瞬間から俺は心が奪われた。
「本当に好きだよ?」
「わかった。付き合おう」
今日、僕は世界で最も愛するべき人ができた。
でもそれには裏があることを知らなかったのだ。これからの絶望を───
「ねね!お守り買お!!」
「いいね!」
今日はデートだった。付き合って初めての週末、デート。訪れたのは神社だった。
すると、突然手を引っ張られて樹木が生い茂った森の方へと連れ去られた。
(どれだけ、寝てただろう………。目の前が真っ暗だ。目を覚ませ!……)
なんとかして重い瞼を上げると、そこは金色で装飾された赤に染められた部屋だった。目の前にはズドンと座り、重い空気を放つ小柄な男があぐらをかいて座っていた。
そして、俺が目が覚めたことに気付いたのか、こっちを見た。
「よくやったよ、我が女房」
「私の美貌を使えば誰でも連れてこれますわ。閻魔帝王様、いや、私の旦那様」
閻魔帝王は、全体的に黒い重めの服装で、帝王らしい風格を演出していた。
(制服を来てる女の人………莉桜那じゃないか…? でも、閻魔帝王?とやらを旦那様って……。それに連れ去るって!?俺を!!?)
俺は体を動かそうとしたが動けなかった。
「動こうとするな。これからお前たちは我々のふるいにかけられてもらう。」
どすの利いた声で俺に話す。
(…?)
俺は困惑しかなかった。