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60女海賊たちの競演①

このエピソードは気楽に読んでいただくと嬉しいです。史実にとらわれず思うように活劇を書いてみたかったのでここでスピンオフ的に書いてみました。

アンやメアリーたちとマリサをどう絡めるか当初の設定より変わったのでまたまた時間を要しました。少し強引なストーリー展開です。ご都合主義もあります(笑)。

いや……ご都合主義はいつも同じだろう……(泣)

 グリンクロス島の一件が解決し、海賊ハンターとして散った海賊団を追っているアーティガル号。そんな中、まだグリンクロス島は海賊の手中にあると思っている海賊もいた。情報伝達に時間差が生じるのは仕方がなかった時代である。

 

 マリサたちは海が荒れたため、近くのスペインの島陰で嵐が過ぎ去るのを待っていた。そこは小さな島でこれまでにも海賊被害にあっていたが、イギリスが本腰を挙げて海賊対策に乗り出してから被害がなくなりつつあった。それでも一般の船ならまだしも元海賊(buccaneer)”青ザメ”であるマリサたちに良くない感情を持つ人々もいるだろう。船が当時と変わったとはいえ、どこで自分たちが時代遅れの海賊(buccaneer)だと知られてしまうかわからない。そのため、あえて上陸をしないで住民を刺激しないようにした。


 嵐が過ぎ去った翌朝、マリサたちは難破船を見つける。それは小さなスループ船で一部が沈んでおり、顔を見せている甲板上に幾人か残されていた。その中には豊満な体の女と整った顔立ちの青年、そして船の乗員とみられる男たちが女と距離をあけて助けを求めていた。マリサは乗員たちの顔つきと言葉から彼らがスペイン人だろうと確信し、スペイン語で話しかける。


 男たちと話して分かったことは、彼らは海賊船と遭遇し略奪され、その後嵐にあってしまったということだ。

「略奪されただけでなく嵐にあって難破なんてまるで演劇のネタだな。幸運だったのはすぐ近くにスペイン植民地の島があるということ。島の周りの潮の流れが速くて近づけなかったのだろう」

 マリサたちは彼らに同情をし急いで救助のためのボートを差し出した。


 救助された男たちはスペイン人だと分かったが女の方はスペイン語でなく国の言葉を話している。顔つきもマリサたちに近い。

「あんたね、あたしたちをスペイン側に売ろうってのかい?それとも見方かい?」

 黒髪で豊満な体つきの女が同性であるマリサに向けてまくしたてる。隣にいる青年がその女に落ち着くよう声をかけるが、その女は主張が強いようだ。

「あんたたちのことは何も聞いてないが、彼らの仲間じゃないのか?あたしたちと同じ国の人間か?」

 マリサはなぜスペイン人と英語を話す者が同じ船で難破したのかわからない。

 このやり取りをみて救助された男たちが状況を説明する。それを聞いて納得したマリサは様子がわからないままでいるリトル・ジョンやハーヴェーたちに小声で説明をした。


「彼らの話では、あんたたちは船を襲撃した海賊船の乗員ということだぜ。ということは然るべき審理を受けなければならないだろう。まさかあたしと同じく女海賊にこうして出会うなんてほんとに演劇ネタだな。もっともあたしは()()()だけどな」

「へえっ!あんたが女海賊?ということはマリサなのか。それで今は何だい……海賊をやめて海軍と繋がっているんだろう?じゃあ言ってやるよ。あんたたちは犬になりさがったんだ」

 そう言って嘲笑する。助けてもらってその言葉はないだろう。マリサは激高した。


 バチーン!


 マリサが感情に任せて女を平手打ちする。たちまち倒れこむ女。慌てて側にいた青年が抱き起した。

「あんまり調子に乗っちゃだめだろう、アン」

 青年の声を聴いてマリサは驚いた。整った顔立ちの青年は女だった。

「メアリー、あんたは見てりゃいいのさ」

 そう言ってアンという女が立ち上がるなりマリサにとびかかってきた。そのまま激しく殴りあうふたり。同性であるせいか遠慮がなく甲板上に転んでも殴る蹴る、髪を引っ張る、衣服を破ると修羅場のような戦いだ。

 連中はというとマリサが久しく見せなかった大暴れにしばらく戸惑っていたが、やがて歓声を上げて見物という態度をとった。

「おおこれは久々の娯楽だ。とことんまでやってくれ」

 連中にとってどちらが勝っても関係なかった。この様子に助け出されたばかりの難破船の男たちは困惑をしている。まったくもって意味が分からないのである。


 ハアハア息を切らせて睨みを利かせて立ち上がるマリサとアン。戦い慣れしているマリサのほうが優位だったが、アンは負けん気が強く破れた衣服を整うでもなくマリサにこう言った。

「勝ったと思うなよ……抱いて男が喜ぶのはこのあたしさ……メアリー、こいつに武器を見せつけてやる」

「やめなよ、ここはそういう場じゃないのに」

 心配するメアリーを気にするでもなく、アンはシャツの破れを気にもせず、わざとシャツの裂け目から胸が見え隠れするようにした。 これには連中も大喜びで歓声を上げ、まるで神聖なものを見るかのように有難がった。

 

 マリサが海賊となることを決めた際、今は亡きデイヴィスがマリサに掟を突きつけ、マリサはそれを順守していた。連中の目のまえで胸をあらわにするなど掟では許されないことだった。それだけに連中はマリサに手を出すことなくできるだけ女扱いをしなかった。それは余計なことに捉われず、航海に集中させるため必要なことだった。そのため連中は船が寄港するたびに娼館へ立ち寄っていたのだ。

「馬鹿な……うちの連中を誘惑するんじゃねえ。さっさとその胸を隠しな!」

 マリサは比べられたようですこぶる機嫌が悪い。しかし何とかしなければ服が破れて半裸状態の女をそのまま船へ乗せるわけにいかない。マリサは急いで船室へ行き自分の服を貸し出した。マリサが上陸の際着ているシフトドレスとスカートである。

「ふん……あんたの服じゃあたしの胸は入りきらないってさ……」

 貸し出された衣服を身に着けるも、わざと胸を強調したアン。勝ち誇ったような顔でマリサを一瞥する。

「海賊だからと言ってあんたと同じじゃないよ。あたしたちはあたしたち」

 側にいたメアリーは今にも飛び掛かりそうなマリサにそう言うとアンの服を整える。そうでもしなければまた取っ組み合いをしそうな雰囲気だった。

「うるせえ!……リトル・ジョン、かわいそうなスペイン人と女ふたり島へ送り届けるぞ」

 マリサは久々に落ち着きがなくなるほど激高した。それは戦いの対象が今までと異なっていたのが原因だった。


 このやり取りを見ていた男たちは、勝ったのはアンだと思った。そうならこれ以上マリサに刺激を与えないほうがいい。

「おいら……今夜は眠れそうにねえや……」

 国へ帰ったオルソンの後を継ぎ、砲を守っているラビット。アンに悩殺されてしまったようである。

「おめえだけじゃねえよ……。アンの豊満な胸はまるで女神様だぜ。ほらみろ、心が幸せいっぱいになっちまった」

 厨房からでてきて様子を見ていたグリンフィルズも目がトロンとしている。

「あんたたち、仕事をしろ!こんなクソ女になめられてるんじゃないよ、全く!」

 マリサの怒りとイライラは相当なものである。

 

 

 ハッとした連中は救助した者たちを島へ送り届けるために取り掛かろうとしたが、この騒動で島から1隻のスクーナー船が近寄ってきていることに気付かないでいた。


 予想外の()()にさっきまでの騒動を忘れ、警戒をする連中。ここはスペイン植民地だ。戦争は終わっても反英感情が無きにしも(あら)ずである。まして自分たちは元海賊(buccaneer)だ。海賊時代と船が違っているとはいえ海賊ハンターとして私掠の艤装をしており、海賊船とみられる可能性があった。

「心配するな、リトル・ジョン。あたしたちには私掠免許と特別艤装許可証がある。正当なものだ」

 マリサはそれらの書類が海賊討伐を目的にしたものだと説明をすればよいと考えていた。


 スクーナー船はアーティガル号のそばへ来ると、救助された男たち、アンとメアリーをじろじろ見ただけでなく、説明をしようとしたマリサの顔を見て顔を見合わせた。

 

「ヤバくないか……。マリサのことがばれたのかもしれないぞ」

 ハーヴェーはマリサに用心をするよう目くばせしたが、マリサはふたりの女海賊のことでイラついておりハーヴェーの動きが目に入らない。その間にも救助された男たちは状況をスクーナー船の乗員たちに向けて話している。

 マリサもスペイン語で状況を説明した。”光の船”の元締めでもあったガルシア総督にとらわれていたときにサウラという教師からスペイン語を習っていたのが幸いした。言語能力が幼少期から高いマリサは誰よりも早くスペイン語を覚えていたのである。(本編40話 籠の中の小鳥)


 スクーナー船の乗員たちは同胞を救助してもらったことに感謝の意を示し、またふたりの女海賊については審理にかけるといって拘束をし自分たちの船へ乗せた。その際、通訳としてマリサが同行することとなった。

 男たちと3人の女を乗せてアーティガル号から離れていくスクーナー船。


「おい、大丈夫じゃないぞ!あいつらの目はマリサに何か仕掛ける目つきだった。あのまま島へ行ったきり帰れないかもしれない」

 ハーヴェーの体は心配のあまり小刻みに震えている。

「俺も何か不安を感じていたところだ。島へ向かって事あらばマリサを助けよう。俺たちは公的な書面を持つ私掠であり、商船だ。もはやデイヴィージョーンズ号の亡霊に怯えるのはやめようぜ。堂々とやるんだ」

 リトル・ジョンは今まで自分にとりついていた何かがようやくわかったような気がした。皆が慕う今は亡デイヴィスと海の底へ沈んでいったデイヴィージョーンズ号の陰にとりつかれていたのだ。


 リトル・ジョンの命令で連中は動き出す。スクーナー船の後を追って堂々とアーティガル号を入港させる。私掠免許や特別艤装許可証を所持しており、何もやましいことをしていないことの意思表示だ。



 一方、マリサとアン、メアリーはスクーナー船の船内へ入るよう促される。そこでマリサは拘束されたアンとメアリーが監禁されたのを確認したのだが、直後にいきなり殴られて反撃する間もなく拘束されてしまう。

「あたしは敵じゃないぞ!説明をしただろう!」

 マリサは激しく怒鳴る。自分が拘束されるなんて間違いも甚だしい。

 そのままアンとメアリーとともに拘束されたまま島のある建物へ連行される。アンとメアリーは役人がいる建物へ連れていかれたが、マリサは頭に麻袋をかけられ、周りが見えないまま他の建物へ連れていかれた。

「だから違うってんだろ!この馬鹿野郎!」

 難破船の生存者を救助して感謝されるはずが拘束と連行という結果にマリサは暴言を吐くが、男たちは気にせず問いかけにも応じなかった。


 そのままある建物へ入ると甘い柑橘のにおいがたちこめているところへ来た。

「お久しぶりです。マリサ」

 どこかで聞いたことがある声だ。マリサが暴言を辞めると誰かが頭にかぶせてある麻袋をとる。


 目の前に男2人、マリサに笑顔を見せている。そう、マリサは確かに彼らに覚えがあった。

「カルロス!サウラ!」

 カルロスはマリサたちがクエリダ・ペルソナ島付近で爆弾ケッチ船エトナ号とともに戦った際、作戦負けして捕虜のひとりとなったマリサを描いていた画家出身の役人だ。(本編 10話 囚われの天使)もうひとりのサウラは”光の船”に捕らわれた際、通訳として働いていた男だ。どちらもマリサに言葉を教えており、しかもあの憎きミゲル・ガルシア総督の下で働いていた。(本編 40話 籠の中の小鳥)

「安心してください。ガルシア総督はもういません」

 カルロスはそういってマリサを拘束していた縄を解く。

 

 ガルシア総督はもういない。それはマリサが一番よくわかっている。

「挨拶はさておき、それならなぜこんな出迎えをする?海賊であっても少しは礼儀を知っているぞ」

 拘束を解かれたマリサはわけが分からず冷静さを失っている。

「ここで金髪は目立ってしまいます。……その前に……私たちはガルシア総督の死は腹上死によるものだと聞いておりますが、本当のところはどうなんですか?最後に彼とともに過ごしていたのはマリサでは?その後、他の捕虜たちと”嘆きの収容所(Campamento de lamentación)”を脱出されたようですし、ガルシア総督にお仕えしていた私たちもすっきりしませんので……」(本編 45話 反撃②)

 そう、ここはスペイン領だ。マリサにガルシア総督の嫌疑がかかり戦後、処刑されそうになったあの一件だ。

「……すべては『神のみぞ知る(God only knows)』。その件についてあたしから何か言うことは禁じられている。このことは議会や王室へ聞いてくれたらそこに記録があるはずだから調べたらいい。だけどそもそもこれは外交サイドから話があったはずだぞ。知らないのか」

 マリサにかけられた嫌疑についてはオルソン伯爵がアン女王陛へ直々に謁見を申し出、グリーン副長が議会へ働きかけたおかげで外交が動き、それによって処刑を免れている。

「直接それを聞いて納得しました。まあ、彼は相当ひどいことをしていましたからね……。目の当たりに見ていた我々や島の住民たちもいつかはこうなるだろうと思っていました。とりあえずその目立ちすぎる髪をなんとかしましょう。”青ザメ”のマリサだと知られたら厄介なので」

 そう言って画家カルロスは髪粉を差し出した。マリサはどうもまだ裏があると思えてならなかったが、言われた通りに髪を染める。



 そのころ、拘束されたアンとメアリーは牢へ連行される際に偶然ドアが開いていたある部屋の前を通りかかった。

「はああ?なんだい、あれは」

 アンとメアリーは思わず二度見する。そこにはマリサと同じ顔の聖母マリアの絵がかかっていた。髪の毛は黒く(おそらくスペイン人の好みにあわせている)とても豊かな胸で嬰児(みどりご)イエスを抱いている絵だ。

「この絵はマリアの一番の絵描きであるカルロス氏が描いたものだ。どうだ?とても魅力的で優しいまなざしだろう?彼の描くマリアの絵は高値で取引される。その画家がこの町に住んでいるおかげで寄贈していただいたのだ」

 役人は自慢そうに言っていたがスペイン語なのでアンとメアリーには言っていることがわからない。

「よく見てよ、メアリー。この絵はマリサに良く似ているが、あいつはこんなに胸が豊かじゃない。もしマリサをモデルにしたならこれは詐欺でしかない。描いた奴は相当の悪党だ」

 アンが言うとメアリーが大笑いする。こんな場所でまさかマリサを馬鹿にできるとは思ってもみなかった。

「それよりも何とかしてここを脱出しないとラッカムが待ってるよ。あたしたちは男たちを見返すために強引にあの船に乗り込んだものの、船を操るものが嵐にのまれてどうしようもなかった。それは仕方のないことだ。こうして生き残ったならラッカムが行く予定の場所へ何としてもいくんだ。ラッカムが浮気するのは嫌だろう?銃や剣はあたしに任せてくれたらいいからここを脱出することをあんたも考えて」

 このようにアンとメアリーがぼそぼそ話していても、英語がわからない役人はてっきり絵のことを話題にしていると思い込み、あまり気にしていなかった。

 アンとメアリーは密かに脱出の策を練る。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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