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59オクラコークの戦い

海賊共和国の終焉を語る二人目はあのエドワード・ティーチです。

資料によって記述が異なるので戸惑われるかもしれません。

本編の方にもエドワード・ティーチが登場しますが、そちらは実在のエドワード・ティーチとは違う創作キャラクターとお考え下さい。(本物のエドワード・ティーチよりは愛されキャラという設定です。とくにシャーロットにコケにされるあたり、完全に私の遊びです)

よろしくお願いします。

 海賊によるグリンクロス島占拠事件が解決し、鹵獲(ろかく)されていたスパロウ号も無事に奪還された。しかし鹵獲された際に多くの人員を失っているだけでなく整備上の問題もあることから、レッド・ブレスト号の曳航でエヴァンズ艦長、残された乗員と共に国へ向かっている。

 スパロウ号の乗員の中でジェーン号への派遣を命じられた者が2名いた。マリサの夫、フレッドことフレデリック・ルイス・スチーブンソン士官や士官候補生のクーパーである。フレッドはマリサが海賊であったことやその他の要因が影響して昇進試験の機会を逃しただけでなく、戦後ようやく試験を受けたものの落ち続けていた。そのことに彼はひどく病み自分を見失っていたが、マリサによって自分を取り戻すことができた。クーパーは置き去りの島でともに生き延びた経験からフレッドについていきたいと直々に訴えてその願いが通ったのである。

 

「エドワード・ティーチ一味を討伐するジェーン号とレンジャー号は民間船とはいえ、もともとは軍の船だ。そんな意味でまた違う活躍ができるだろう。メイナード艦長は少し癖がある男だが、数多くの海賊とかかわった君ならどんな人間も相手にできると思っている。君が()()()()()罰だよ、しっかり働いてきたまえ」

 そういってエヴァンズ艦長はフレッドとクーパーを送り出した。

「わたしもいつまでも君のおもりをしたくないからな。大人になれ、スチーブンソン君」

 マリサの叔父にあたるグリーン副長も冗談をいってフレッドを見送った。そんなフレッドを側でクーパーが親しみを込めてみている。絶望に屈せず生きるすべを仲間たちと見つけたフレッドはクーパーにとって信頼のおける上司だった。


 フレッドたちを乗せたグレートウイリアム号はバージニア州へ向かう。予定外の人間が来ることにメイナード大尉が快く迎えてくれるかどうかはわからない。ついてくるクーパーは別としてなぜ自分たちだけ派遣されるのか。任務に理由などないかもしれないし聞いたところでどうなるかもわからない。海原へ飛び込むような不安が無きにしも非ずだ。

 

 フレッドは自分が乗っていたスパロウ号、曳航していくレッド・ブレスト号が水平線上に消えるのをいつまでも見つめている。


(エリカ、そしてお母さん……またしばらく寂しい思いをさせることになる。今度の任務が無事に済めば今度こそゆっくり過ごすつもりだ。マリサが先か僕が先かはわからないが、できるならみんな揃って過ごしたい。エリカ、僕を忘れないでくれ……)

 フレッドは少し胸が痛んだ。自分を見失い自暴自棄になっていたフレッドを知ることもなくエリカは成長していた。それがフレッドにとってたまらなく寂しいものだった。

(君の眼はどこかマリサを思い出させる。何だろう……妙に大人びてさめた眼差しだった。君は幼くして何か闇を見たのかもしれないな。……そうなら尚更のこと、僕が国へ帰ったらゆっくり話そう……)

 短い間だったがエリカと会うことができた。エリカの様子に何か感じたのだが、今はそれを考えてもどうしようもない。



 速足の航海の後、グレートウイリアム号はバージニア州ハンプトン港へ到着する。そこには2隻のスループ船が停泊していた。

「さて、メイナード大尉に挨拶をしなければならないな。心の準備はできているかね、スチーブンソン君、クーパー君」

 ベイカー艦長が少し緊張気味のふたりの肩をたたく。


 ベイカー艦長たちはボートに乗り込むとグレートウイリアム号よりも小さなスループ船へ乗船許可を求めた。

「急なことで申し訳ないが、メイナード大尉にお会いしたい。我々の要件はこれに記されている。レッド・ブレスト号のウオーリアス艦長から預かったものだ」

 ベイカー艦長は胸元から一通の書簡をだす。それは”光の船”との海戦で提督の艦隊として指揮を執ったレッド・ブレスト号のウオーリアス元提督、現艦長から渡されたものである。おじいちゃんとなって少し表情と態度が和らいだ彼は、まだ自分の権威が損なわれないうちにこの書簡を書きベイカー艦長に言づけた。


 提督からの書簡があるということで急な訪問であったが、ベイカー艦長たちは乗船して艦長室で書簡を見てもらうことができた。

「なるほど……。このジェーン号へスチーブンソン君とクーパー君が乗り込み、我々と行動をともにするということですか。まあ、ひとりでも乗員が多いに越したことはない。しかしここに記載されている『スチーブンソン君の最終試験』とは何です?この船の目的は海賊討伐であり試験を受けさせる船でないことは十分に承知でしょう?」

 メイナード大尉はそう言ってフレッドを一瞥する。明らかに歓迎をされていないような眼差しだ。

「それはウオーリアス艦長の悪意のある冗談でしょう。お孫さんができてから冗談を言うことを覚えたようですからね。まあ、気にしないでください。スチーブンソン君は海賊船に乗り込んで作戦行動を長くやってきました。海賊の扱いは慣れております。よろしくお願いします」

 そう言ってベイカー艦長が言うと、短いため息をついたメイナード大尉は手を差し伸べ、それぞれと手を握った。


「艦長たちは何をお考えかわからないが、君は相当気に入られていたようだね。だがここはジェーン号だ。特別扱いをしないからそのつもりでいてくれ」

 ベイカー艦長がボートに乗ってグレートウイリアム号へ向かうのを見ながらメイナード大尉が言った。

「アイアイサー。必ず艦長のお役に立ちます」

 フレッドは彼の無表情に緊張を隠しえないでいたが、作戦に余計な感情は不要だと自分に言い聞かせる。クーパーも緊張で船酔いを感じながらもやがて来る決戦に覚悟を決めていた。



 メイナード大尉はバージニア植民地スポッツウッド総督からエドワード・ティーチ一味の討伐の命を受けていた。

 エドワード・ティーチは民営植民地であるカロライナノースカロライナのイーデン総督と繋がっている。民営植民地の規範の緩さに付け込んだ取引だ。イーデン総督の擁護のもと、用心棒だといっては近くを通る船を合法的に略奪していた。このことに業を煮やしたバージニア州のスポッツウッド総督はスパイを使ってエドワード・ティーチの拠点を探し出し、海軍上層部に厳しく対応を求めたのである。(48話 黒ひげの脅威)

 メイナード大尉にとって失敗は許されなかった。船の損失だけでなく国の威信と植民地運営にかかわるほどの大命(たいめい)である。



 11月19日。ジェーン号とレンジャー号はバージニア州ハンプトン港を出港する。身軽さを活かしたスループ船での戦いだ。しかしフレッドはジェーン号・レンジャー号に不安を覚えていた。今まで自分が乗っていた船は大砲の艤装があったし、シップ型の海賊船もほぼ砲の艤装がなされている。だがジェーン号とレンジャー号は大砲の艤装がない。戦力といえば乗員数と小さな火器ぐらいだ。短時間で戦いを終わらせないと大砲を備えた海賊船を相手にするのは不利だろう。

「スチーブンソン君、クーパー君。書簡によると君たちは海賊たちと付き合いがあったそうだが、まさか男の大事なものを切り落とされていないだろうね」

 フレッドの不安を感じたのか、メイナード大尉がいきなり冗談を言ってきた。

「残念ながら彼らはそれに興味がなかったようで、まだぶら下がったままです」

 真顔でフレッドが言うのでメイナード大尉が含み笑いをする。

「よろしい。では黒ひげティーチ船長に切り落とされないよう守っておきたまえ。……こっちは大砲がない。つまり移乗して人員数で勝負しなければならない」

 移乗戦はマリサたちと数をこなしてきたので慣れているつもりだ。

「アイアイサー」

 やはり人員という戦力を使うのだろう。フレッドとクーパーも気を引き締める思いだ。



 11月21日。オクラコーク島へ到着した彼らは偵察によりエドワード・ティーチ一味を見つけることができた。事前にスポッツウッド総督はスパイを送り込んでエドワード・ティーチの居場所を掴んでいたのだが、その時の情報のまま海賊たちがそこへ居続けたことに驚く。

「敵は目の前におり、いつでも歓迎してくれるだろう。だが急ぐことはない。それよりも周辺の偵察が急がれる。攻撃は翌朝行う」

 メイナード大尉は偵察のため2隻の小型船を残した後、ジェーン号とレンジャー号を入り江の反対側に動かすことでティーチの視界から逃れさせた。いきなり攻撃に出るよりもまずは敵の動きや地理的環境を掴む必要があった。


 

 翌早朝、偵察船から鐘の音が聞こえた。合図である。

「総員!攻撃を仕掛ける。怖気(おじけ)づくものは吊るす(絞首刑にするということ)!」

 メイナード大尉の声が響き、乗員たちが速さを競うかのように持ち場へ着く。2隻のスループ船ジェーン号とレンジャー号はエドワード・ティーチが待つ入り江へ向かった。他の乗員たちと同様にフレッドとクーパーもピストルを持ち構えた。

 

 ジェーン号とレンジャー号の奇襲はたちまちエドワード・ティーチの知ることとなる。

「ようやく海軍様のおでましか。遅すぎて待ちくたびれたぞ」

 エドワード・ティーチは高笑いするとアドベンチャー号の指示を出す。

「お客さんを丁寧にもてなせ。失礼のないようにな」

 言葉通りにアドベンチャー号は2隻のスループ船を誘い込んでいく。地理は自分たちの方が詳しいのだ。


 

 陸に近い場所には浅瀬が存在する。河口がそうであったように座礁ポイントが其処彼処(そこかしこ)にあるため慎重に測鉛を行うものだが、大砲を持たない故に悠長なことをやっていられないジェーン号とレンジャー号はそのまま突入していった。

「ふはは……!馬鹿な奴らだ。さあ、お前たち、獲物を調理しようぜ」

 エドワード・ティーチの思惑通りに誘い込まれた2隻のスループ船のうちジェーン号が浅瀬にある砂洲へ乗り上げてしまう。

 慌てるジェーン号の乗員たちを見てエドワード・ティーチは砲撃を命じる。


 ドーン!ドーン!


 8つの砲門から火花と共に砲丸が飛び出ていく。


 砲撃を食らうジェーン号。

 「荷を捨てろ!船の重量を少しでも軽くするんだ」

 メイナード大尉の怒号が飛ぶ。フレッドとクーパーは乗員たちを指示しながら優先度の低い荷を捨てさせる。砲の艤装がないスループ船であったがそれでも人員数もあり重量があった。

 急いで不要何を捨てていく中、被弾していく船と乗員たち。ようやく離礁したころには甲板上に多くの人員が死傷しており、あたりは血の海と化していた。

「生き残った者は甲板下へ隠れて反撃に備えろ!」

 メイナード大尉は乗員たちを避難させる。

「メイナード大尉、私も残ります」

 そう言って残ったのはフレッドだ。これにより見かけ上、生き残りはふたりとなった。



 この様子を確認したエドワード・ティーチが仲間へ移乗攻撃を命じる。勝負ありと見た手下たちが武器を手に集まり次々にロープを持ち移乗していった。

 対峙するメイナード大尉とエドワード・ティーチ。


 メイナード大尉はフレッドに目配せをする。敵は手中にあるのだ。


 フレッドが甲板下の乗員たちに合図をすると武器を手にした乗員たちが現れて海賊たちを迎え撃つ。

「わーっ!わーっ!」

 大声を上げて発砲していくメイナード大尉の部下たち。

 予想外のことに生き残りはいないと思っていた海賊たちは慌てだし、たちまち双方の激しい銃撃戦が繰り広げられていく。


 バーン!バーン!

 マスカット銃やピストルを手に海賊たちや軍部の人間が撃ちあう。

 そしてカットラスやサーベル等、刀が振られる。


 甲板上は血の海と化す。


 メイナード大尉もすかさず銃撃をていくが彼の銃撃はエドワード・ティーチの体をそれてしまう。

 「うおーっつ!」

 エドワード・ティーチが銃弾を避けたすきにカットラスを振り上げて切り付けたメイナード大尉。


 カンカン……。

 切り付けあうふたり。


 カーン!


 迎え撃つエドワード・ティーチのカットラスがメイナード大尉のカットラスを折ってしまう。

「お前はまだまだ三流役者だ。残念だな」

 そう言って銃口をメイナード大尉に向けた。

「いや、観客の数が見えないお前こそ三流役者だ」

 メイナード大尉の言葉にハッとして周りを見るエドワード・ティーチ。周りをジェーン号の部下たちが取り囲んでいる。


 バーン!


 その隙にフレッドがエドワード・ティーチへ向けて撃ち放った。血しぶきをあげてよろめくエドワード・ティーチ。すでに甲板上は流血で赤く染まり滑りそうであった。そんな中、メイナード大尉と部下たちがとどめを刺す。


 倒れこむエドワード・ティーチ。もはや微動だにしない。

 

 エドワード・ティーチの死に手下たちは怯え、抵抗をあきらめる。手下たちの中にも死傷者が出ており、それ以上の抵抗は無理だった。

 海賊が作戦負けして屈服した瞬間である。


 メイナード大尉はフレッドや他の士官と共にエドワード・ティーチが死んだ状況を確認していく。何事もなくふるまっていたエドワード・ティーチだが剣による傷と銃による傷があちこちに見られた。


「約束通りスポッツウッド総督に土産を差し出さねばならない」

 そう言って部下からカットラスを借りるとエドワード・ティーチの首元にナイフの刃を当てる。そして思いっきり力を入れた。

 

 鈍い音をたててエドワード・ティーチの首が切り落とされた。この首はスポッツウッド総督が望んでいたものだ。


「スチーブンソン君、君ならこの首をどこへ掲げるかね」

 試すかのように問いかけるメイナード大尉。

「海賊は帆桁や船首に裏切り者や捕虜たちの首を好んで掲げます。海賊船の船長であるなら船首に掲げるのが良いと思います」

 首を切り落とすというまさかの展開に驚きながらも落ち着いてフレッドが答える。

「そうか。ではこの首を()()に掲げて我らの凱旋としよう」

 メイナード大尉は部下に命じてエドワード・ティーチの首をマストの帆桁へぶら下げさせた。わざとフレッドと違う選択をしたのは彼のプライドでもあった。エドワード・ティーチの胴体は何の遠慮もなく船から投げ捨てられる。この行為は海賊以上の冷酷さがあるのではと部下たちを驚かせた。

 

 この首はその後ハンプトン川の河口付近の杭の上に見せしめとして置かれることとなる。



 エドワード・ティーチは書簡をいくつか所持しており、それはエドワード・ティーチが誰とつながりをもっていたかを知る証拠品として後ほど提出されることとなった。また、アドベンチャー号やエドワード・ティーチの拠点から砂糖やココア、綿など略奪品を発見し業者をとおして後ほど売却されることとなった。勇敢な部下のために戦果の対価を得る必要があった。これには戦いに応じた分配があるのだが、海岸の兄弟の誓いによる分配規定とは違い、かなり時間がかかり4年の月日を要している。

 

 メイナード大尉たちはそのまましばらくオクラコークへ滞在することを決めた。戦いによる船の修理と任務のために命を掲げた部下たちを埋葬するためである。

 しかしフレッドとクーパーはそのままジャマイカへ行く船によってジェーン号を離れることとなる。

「残念ながら私が預かった書簡には君たちが海賊討伐の分配の賞金を受け取る権利はないとしっかり明記してあった。なぜなら君たちは試験という名でこの作戦に参加しているからだ。作戦終了次第ジャマイカへ戻り次の指示を待てとのことだ」

 メイナード大尉のこの言葉はふたりの期待を裏切ることとなった。

 すっかり気落ちしたクーパー。

「いいこと、悪いこと。そして残念なこともこれから先あるんだ。僕たちは死ぬことなく生き延びて海賊討伐をやり終えた。それだけでも十分だと思うしかない」

 そう言ってクーパーの肩をたたくフレッド。自分たちは他の乗員たちと乗船目的が違うのだ。それは仕方がない。

「……ジャマイカへ着いたら一杯おごってください」

 クーパーの願いにフレッドはゆっくり頷く。


 

 エドワード・ティーチの手下たちとオクラコークへ住んでいた元海賊は罪を問われバージニア州のウィリアムズバーグへ送られた。後に彼らは審理を経て絞首刑にされ、その亡骸が腐敗するまで吊るされたままだった。


 バージニア州のスポッツウッド総督の命令はカロライナ州のオクラコークの海賊を討伐することであった。これは自身の植民地管轄外の行為でありカロライナ州イーデン総督を悩ませる結果となった。

 民間植民地であるカロライナ州の出資者たちがイーデン総督にエドワード・ティーチから押収した戦利品について自分たちも受けとる権利があると主張したが、イーデン総督がエドワード・ティーチを擁護していたことは間違いなく、この戦利品をめぐる植民地間の争いは解決までしばらく時間を要した。


 こうして“黒ひげ”エドワード・ティーチの人生はオクラコークの戦いによって終わったが、その逸脱した形相や活躍ゆえに伝説と化したのである。


最後までお読みいただきありがとうございました。

ご意見ご感想突っ込みお待ちしております。

本当に首を長くしてろくろ首のようにお待ちしております。

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